四章 「東京探検」 その7
翌々日の昼下がり、三人は上を見上げ、唖然としていた。
「「「でっけー!!!」」」
でかい、といっても一昨日上っていた電波塔には及ばない。
何より驚いたのはその数だ。
ここは新宿、二~三十階建て―いやそれ以上か?―のビルがボンボン立ち並ぶ地区。
上野のあたりでも充分すごいと思っていたらこっちそれを上回るすごさだ。
竹林のごとく立ち並ぶビル。地上がどこかわからなくなる複雑な駅、無駄に幅の広い道路。そして進路に立ちふさがる無数の放置自動車。
こんなになる前には、きっと溢れかえるほど人が居たのだろう。でも、今の新宿はカラスの鳴き声さえほとんど聞こえない。相変わらず、車のエンジン音と自分たちの会話が響くだけだ。
「すごいねー!、地元だと建物は上じゃなくて横に広かったもんねー」
「そうだな、ホームセンターとかスーパーとか。……そういやあまりこっちで見ないな」
「気づいてないだけだよ。こっちは大きさより数なんだねー」
そんな他愛もない会話をしながら、あっちへフラフラ、こっちへフラフラ。
けど、児玉は、
「……なんか、気味悪くない?」
「えっ?なんで?」
黒田が不思議そうに訊く・
「なんていうか、本来は人でいっぱいだったはずの所に誰もいないなんで……気味悪いというか……怖い」
「俺、なんとなくわかる気がする」
その後も、そろそろ別の所へ、と考えつつも、新宿の街を散策していた。
黒田は、車の窓から体を乗り出すようにして、ビル群に見入っていたが、児玉は特に興味を示すでもなく、ただ窓から見える景色を見ている。
「すごーい!、あのビル展望台あるってー。上ってみた―い」
「もう勘弁してくれ。上るのは電波塔だけで十分だ」
―ただ、児玉がどの会話にも乗ってこないので、車内には若干ではあったが気まずい空気が流れた。
そのまま走り続け、日が沈む頃、新宿御苑というだっだっぴろい公園で一夜を明かすことにした。結局新宿から出ることはできなかった。
主に…というか、完全に一人のせいである。
*
人類のほとんどが消えてから、三人が旅を始めてから三か月半くらいが経った。
大きな変化は、時間を気にしなくなることだった。
基準となる腕時計は、もうあてにならない。やがて、時間の感覚もおぼろげになっていく。
もう今は、太陽の位置で今何時頃かを判断するという原始的な事しかしていない。
そうやって、おぼろげな時間感覚も、やがて失われていくのだろうか。
時間感覚だけではない。
人類が築きあげてきた技術が、文化が、習慣が、少しずつ消えていく。
自分たちの中からも少しずつ、色が褪せるように消えていく。
少しずつ消えていき、やがて、無になる。
ここから、この話は終わりへと向かっていきます。
まだ手元の下書きは完結していません、これから頑張ります。