四章 「東京探検」 その6
やはり中々眠気は訪れてくれなかった。
明かりを消してから、もう一時間以上は経っているというのに、ちっとも眠くならない。
左からも後ろからも体勢を変えたりするごそごそとした音が頻繁に聞こえる。
「……少し外に出るか」
二人が起きているのは何となく察しがつくが、それでもいつもやっているように、そっとドアを開け、外に出る。
それからトランクを開け、小さな折りたたみ椅子を出し、車から少し離れたところに腰掛ける。
見上げると、ビルの黒い輪郭に切り取られた、それでもなおはっきりとした輝きを持つ、満天の夜空がそこにあった。
都会は星が見えにくいと聞いたことがあるが、人が消え、電気も止まって街灯やネオンといった明かりがすべて消え、ほぼ完全な闇の中だと意外によく見えるものだ。
……
俺を含め、三人が寝れない原因はやはり今朝のことだろう。
生きがいを失った。自分の生きることの理由づけをしてくれるものを失った。
自分がこんなことを考えるのもなんだが、木村さんも自分と同じように「生きる意味」について考えていたのかもしれない。
でも、「生きる意味」は一つじゃない。一つでなければならない決まりもない。
例え、自分の思う「生きる意味」が無くなったとしても、また違う「生きる意味」を見つければいい。例え辛くても、失った痛みに耐えられなくなりそうでも。
どんなささいな事でもいい。
それでも自分が「生きたい」と思えるものに出会えたら。
「生きる意味」に出会うことが出来たら。
それはとてもよいことなのではないだろうか。
だからこそ、自殺という選択肢はとってほしくなかったな、と思う。
「なあ、俺が生きる意味って、俺たちが生きる意味って、なんだと思う?」
*
―なあ、俺が生きる意味って、俺たちが生きる意味って、なんだと思う?
独り言のようで、まるで誰かに問いかけるように、高山は言った。
私が生きる意味。
今まで考えたこともなかった。
だって、そんなもの考えなくたって生きてこれたから。
意識しなくても、困ることはなかったから。
だけど、今朝の一件と今の高山の一言で改めて考えさせられる。
だって、生きるも死ぬも元々は自由なのである。
今となっては、たとえ自殺しても、誰にも咎められることもない。
ならなおさら、自分の生死は、今までより強い意志を持って、決定しなければならないのだ。
流されるようにして生きるのではなく。
大人であって、まだ子供な、そんな不安定な時期にいる自分はなおさら。
今の自分は、生きることを選んでいる。
それは何故か、理由は何か、流されているだけではないか?
いや、そんなことは、ない。
こんな世の中になっても、高山に会えたから。
旅を始めたから、黒田に会えたから。
三人で旅をしているから。
あれ?
生きる理由って、こんなんでいいの?
でも、いいんだろう、と思う。大体そんなものなのだろう。
これから会う人々にも、生きる理由や意味が見つからず、悩む人がいるだろう。
そんな人に言ってあげたい。
ささいな理由であっても、生きることは素晴らしいことだよ、と。
―でも、まずその言葉は、誰より先に、高山に言ってあげてほうがいいかもしれない。