四章 「東京探検」 その5
長いことお待たせしました。PCを替えたりといろいろ忙しかったので、更新が滞っておりました。また詰まるかもしれませんが、おつきあいください。
読み終えた直後は、なんの感情も浮かび上がってこなかった。
なにか自分も感じたことのある何かが、猛烈な勢いをもって俺の中を通り過ぎて行って、それがなんなのかわからなかった。
けど、遺書から目を離し、木村という人の死体を見た時、強い、怒りのような、非難のような、それでいて悔しいような、気持ちが湧き上がってきた。
「なんで死ぬんだよっ!なんで自殺なんかしたんだよっ!家族が消えてもっ、自分がいるだろっ!そこまで家族のこと考えてるならっ!いなくなった家族の分まで生きるという選択肢はなかったのかよっ!死ぬのが……、死ぬのが怖くはなかったのかよっっっ!!」
俺はその場に崩れ折れた。
死体から発せられる血の臭いにまみれながら、ただ肩を震わせて泣くことしかできなかった。
「高山君……」
「カズっち……」
嗚咽は二人以外の誰の耳にもとどかぬまま、ビルの間に響き、やがて吸い込まれるように空へと消えていった。
*
車に戻っても、ハンドルを握る気になれなかった。ただ、頭の中で先ほどの光景が、激しい感情が、血の臭いが、何度もめぐっていた。
遺体をそのままにしてはおけず、だからといってアスファルトにびっしり舗装されたこの土地に、埋められるはずもなく、結局、近くの民家から毛布を一枚失敬して、遺体をくるんでおいた。
くるんだ毛布の上に先ほどの遺書を置いて、三人でしばし、手を合わせた。
児玉も黒田も、少し泣いていたように見えた。
見ず知らずの赤の他人だったとしても、それでも人の死というものは悲しいものだ。
それを目の当たりにしていればなおさら。
車に戻ってもどこか上の空な俺を、二人はせかしたりはしなかった。
二人も同じような心境だったのだろうか。
「……行くか」
「……え?」
「ここでぼーっとしてても仕方ないな。俺らは生きてるんだ。だったら、動かなきゃ勿体ないだろう?」
「……」
「そうだねカズっち。私たちに旅はまだ終わってないんだから。やることは一つ。このたびを続けること、だね」
「その意気だ」
そう言って、俺は車のエンジンをかけた。
「高山君」
「ん?」
「無理……、してない?」
「してねぇよ」
「よかった」
ハンドルを握ると、軽くアクセルを踏み込んだ。
人気のない街に、エンジン音だけがただ空しく響いた。
三人の会話は、なかった。
*
気づいたら、太陽が沈みかけていた。
そう表現するくらいに、あっというまに時間は過ぎていった。
「今日はここで休むか」
車のスピードを緩めながら、高山が言った。
「そうだね」
朝の出来事のせいなのか、児玉の返事にいつもの明るさはなかった。
「夕食どうする?」
児玉が二人に尋ねる。
「ごめん、俺はパス」
「……私も」
「せめて夕食くらいは……、でも私もパス」
三人とも夕食をとることなく、結局いつものより早い時間の就寝となった・
「おやすみ。ライト消すぞ」
「「おやすみ」」
パチン、とLEライトのスイッチを切った。