表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/30

四章 「東京探検」 その3

じゃまな車を避けて、あっちの道こっちの道とちょくちょく進路変更をしているせいで、ここさっき通った道じゃん?なんてことも茶飯事であった。

だが、後ろと横にいる女子二人は時々茶々をいれつつも、窓から見える風景に見入っていた。中でも二人の視線を集めたのは白い電波塔だった。日本一の高さを誇る電波塔。白のスッとしたフォルム。テレビでは見たことがあったが、こうして実物を間近で見るのはもちろん初めてだった。

「ねぇっ、あのタワーの足元まで行ける?」

児玉が窓から顔を出したまま聞いてくる。

「どうだろうな、これだけ大きく見えるんだからそんな遠くはないはずだけど…」

「じゃあ行ってみようよ!出来れば登ってみよう!!」

黒田が嬉々とした声でとんでもない提案をしてくる。

ムチャ言うな黒田。こういうのは普通エレベーターを使うもんだろ。

「……まあ足元まで行くのはいいか」

幸いなことに、目的地を見失うことは確実になさそうだ。

相変わらずの近づいては離れることを繰り返し、タワーの足元につけたのは三時間くらいが経過したころだった。


                  *


「ねぇ~、まだ着かない~?」

「まだ半分もいってなさそうだな」

見上げると、銀色に鈍く光る階段が延々と続いていた。

「うそ~っ、も~疲れたよぉ~。足くたくた」

「登りたいっつったのはお前だろうが」

「そーだけどっ!」

高山の正論に黒田がむくれる。

現在位置はあの電波塔の中。正確には外にある非常階段を上っている。

こういったタワーには必ず非常階段があり、タワーによっては期間限定で公開しているところもあるとか。

だが、本来は階段で登るものではない。でも、エレベーターがただの箱と化した今は階段で登らざるを得ない。例え、タワーが日本一の高さだったとしても……。

黒田の登ってみたい!の一言で、約六百メートルあるタワーの四百メートル付近にある第一展望台まで、こうして階段を上っているのである。まあ、なんだかんだで賛成した自分も自分だが。

「でも、いい景色だね。ここまで高い場所に来ると」

「俺の方としては日が沈むまでに地上に帰れるかが心配だな」

その可能性を考慮して、一応LEDライトは持ってきたが、あまり使いたくない。ていうか、どうか使わずに済みますように。

「も~ダメっ!ちょっと休憩!」

階段の途中で長めの休憩をとり、展望台を目指し、ひたすらに登り続ける。

最終的に着いたのは、太陽が南中してからずいぶん経ったころだった。

「ふー、着いた~。足が死ぬかと思ったぁ」

「流石、450mからの眺めは違うな」

「それにしても、非常口の扉が開いててよかったね。誰かいたのかな?」

展望台はきれな円形をしていて、晴れている今日は東京湾まで見渡すことができた。

近くにあったカフェのようなスペースの椅子に腰をおろし、疲れた足を休ませつつ、地元では決して見ることのできない景色を堪能していた。

「そういえば、ここまでどのくらいかかった?」

児玉が心配そうに訊いてきた。

「んー、大体……二時間くらい、かな」

時計と記憶を頼りに大体の時間を推測する。

「じゃあ、ちょっとゆっくりできるね」

「そうだな、せっかく頑張ってここまで登ってきたんだし。原因が何であれ」

「……」

その原因は隣の椅子ですやすやと寝息をたてていた。

「…っておい。一番乗り気だったのにさっさと寝るバカがあるか」

相変わらず寝るのが早いやつだ。

「咲ちゃんには、私がついてるから、高山君は少し散歩してきたら?」

「児玉はいいのか?」

「私はいいよ、疲れっちゃったから」

「んじゃ、お言葉に甘えて」

よいしょ、と立ち上がり、先ほど見つけたパンフレットを片手に高山は歩き出した。


パンフレットによると、この展望台は地上から世界最速級のエレベーターでアクセスし、構造は三階建て。中には先ほどのカフェ、レストラン、売店などがある。真下を見下ろせる透明床なるものもあるようで、ここからさほど遠くない。ちょっと行ってみることにした。

「……いや、流石にこれは怖いって」

高所恐怖症ではないが、それでも足が少し震えるくらいの恐怖は感じた。

さっさとその場を離れ、さきほどパンフレットにあった売店へと足を向ける。

案の定、あった。

小さなソーラーパネルがついているLEDライト。これだったら電池切れの心配もない。

失礼、と一声かけてから、そのLEDライトを三つほど失敬した。

店を出ようとしたとことで、壁際のアクセサリーのディスプレイに目がいく。

そこには、この電波塔をモチーフにしたネックレスだった。

女子二人にあげようか、と色違いを一つずつ失敬して、売店を後にした。

                    *

カン、カン、カン、つい何時間前かと同じ音をたて、俺たちは階段を下っていた。

「あともう少しだぞ、ほらガンバ」

「うへ~い」

あたりも暗くなり始め、頼りなくなってきた足元を先ほどのLEDライトで照らしながら、一段一段下っていく。

一瞬、向きを変えたLEDライトの光を反射し、きらっと見えるものがあった。

それは、先ほど売店に置いてあったネックレスだった。

児玉には青、黒田には赤。半分ねぼけていた黒田の反応は薄かったが、児玉は喜んでくれたようだ。

「どうしたの急に?」

と聞かれたが、なんとなくなので答えようもなく、

「気分だ」

とだけ答えておいた。

やがて、階段は建物の中に入り、ほどなくして地上へ帰還となった。

きゅー

「ごめん、お腹すいちゃって」

児玉が恥ずかしそうに言った。

「疲れてるけど、面倒くさがらないでちゃんと作るか」

作業スペースを確保するため、階段を下りている途中に見えたショッピングモールの入り口前広場に車を移動させる。手早く食材を確認し、調理を始めた。

少し多めに作ったつもりだったが、ほとんどが黒田の胃に収まり、見事完食となった。

片付けも終わり、そろそろ寝るかという時、

どこかから、ドサッ、という音が聞こえた。

自分たち以外が立てる音は滅多に聞こえないので、ちょっとビビったが、

「何だろう?今の」

「さ、さあ?」

「ま、いいか」

黒田も気付いたようだが、特に気にすることなく二言三言交わした後そのまま眠りについた。


―この音の正体を知ったのは翌日、移動を始めてすぐの事だった。


可能性はゼロとは言いきれなかった。

だが、本当にそれを選んでしまった人がいるとは思いもしなかった。


こんな世界、何があってもおかしくない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ