四章 「東京探検」 その2
「もーダメっ」
「流石にこの数はしんどいな……」
「明日も続きだよね、ちょっとキツいかな……」
日が沈んだ午後六時、作業は視界の悪さ疲労など様々な要因で中断となり、橋の脇の土手の斜面で寝転がりながら各自音をあげていた。
「もー今日はさっさと寝ようか。夕飯は保存食でいいっしょ」
「さんせー」
「それじゃ、私持ってくるね」
「「お願いしまぁ~す」」
上半身だけ起こし、車のほうへ歩いて行く優ちゃんの背中を見送ると、再び斜面に大の字で寝転がる。
かすかな草いきれに包まれている間に意識が霧散していく。
あと夕飯食べて寝るだけなのに、もう少しくらい頑張ってくれよ私の体……。
「あれー?高山くーん、保存食ってどの辺に仕舞ってあったっけ?」
「黒田のボストンじゃなかったっけか?」
「んー。あっ、これかも。み―っけ」
おなか……すいた……すぅ。
意識が徐々にフェードアウトしていく。
おやすみ、明日はどこまでいけるだろう。
*
翌日、作業は再開された。
前日から引き続き、移動の方法を試行錯誤しながら徐々に道をあけていく。
そして、正午を少し過ぎたころ、やっと道が開通した。
逸る心を、いやまだ早い、と抑えつつも、車へ戻る足が自然と速くなっていく。
一足早く車に戻っていた女子二人が早く車を出せとせかしてくる、急いでエンジンをかけ、車を出す。
くねくねと曲がりくねった狭い道を慎重にハンドルを操作して通過する。
そして―
「「「東京上陸ーっ!!」」」
水色の鉄のトライアングルの連鎖が途切れ、足元にはしっかりとした地面の感触。
とうとう橋を渡りきったのである。
第一目的地である東京。
まだ都会というよりは下町といった風景だが、青く霞む遠方には高層ビルが林立していた。
その様を見て、ふと思い出したことがあった・
去年くらいだっただろうか、友人に勧められ読んだ小説に、戦争とそれに起因する汚染で滅亡した首都を舞台にしたものがあった。
挿絵には、傾いたビル、コケやツタまみれになった学校や工場、ガラスが砕け散りカーテンが風にたなびいているマンション、そこらじゅうがひび割れて雑草が顔をのぞかせている道路など、荒廃しきった首都が描かれていたが、実際に似たような状況になってみると、そんなことは一切ないのだ。
いや、戦争は起きてないとかあまり年月が経っていないとかの違いはあるけれど、少なからずどっかしらは崩れているだろう、なんてぼんやりとした予想は当たらなかった。
今までもそうであったが、視界に広がるのは、人が消える前とほとんど変わらない建物の数々。元々を知らないので断言はできないが、たぶんこんな感じなんだろう。
今までの世界―人=今の世界といった感じである。
荒れるでもなく、ただ静かに佇んでいるだけだった。
時が止まった、という表現が正しいかもしれない。
ただ、嫌に静かに無機質な建物が林立している様を見ると、時々空恐ろしく感じる。
「ちょい、なにぼーっとしてんのカズっち!」
「早く行こうよ!」
二人の声で、意識が現実に引き戻される。
とりあえず、今は前に進まねば。
「それじゃあ、行きますか」
さっさと車に乗り込み、身を乗り出せるように窓を全開にし、早く早くコールをしている二人をなだめつつ、高山は運転席に座る。
橋の上と違って、通れない道があれば迂回するといった融通がきくため、車はスムーズに進んだ。
右、左、ここは無理そうだから横道へ、ハンドルを操作する。
東京についても、ただひたすらに人がいなかった。
一台の車のエンジン音がただ虚しく響いた。