その5
児玉がスーパーから持ってきた諸々をトランクに詰め込み、夕食の片づけが終わっていたころには、もう夜の九時を過ぎていた。
吉川は寝袋、俺たちはいつも通り車のシートで寝る。
「そういえば、お前らいつも何時くらいに起きてんの?」
「そうですね、ちょっと前までは六時でしたけど、今はもう全員起きたら、ってなってます。まあ、時間気にしても仕方ないですし。こいつも、今となっては正確かどうかの確信もありませんし」
そういって、腕時計の風防を指先で軽くたたく。
「そっか。んじゃ、お休み」
「おやすみなさい」
「おやすみぃ~」「おやすみなさい」
車に戻り、LEDランタンのスイッチを切る。
「……ねぇ」
「ん、どした児玉?」
「私たち、もうすぐ東京に着けるのかな?」
「そうだな……、吉川さんについていけば都心への最短ルートくらいは教えてくれるだろうな。まあ、後は俺らの努力次第ってわけだ」
「そっか。でも……」
「でも?」
「……私たちの旅、そこで終わらないよね?」
「終わるわけないさ。東京に着いて、しばらく都会見物したら、またどっか別のところへ行けばいい。旅の目的地なんて別になくてもいいだろ。―ってか、お前が最初に言った事じゃん?」
―目的地なんてなくたっていいじゃない。
かつて、この旅の始まりの場所であるあの駅で言った児玉の言葉を思い返す。
「……そっか、そういえばそうだったね」
「そう。俺らが生きている限り、旅は続く。言うなれば……旅は俺らの人生だ」
「……そ、そうだねっ。」
「ん?」
「な、何でもないっ。おやすみ!」
「お、おやすみ…」
半ば強引に話を切られた俺は、さっきの児玉の言動は照れ隠しだったと自分に言い聞かせ、気にせずに寝ることにした。
なんで照れたのかは、わからなかったが。
*
太陽が高く昇って、真上に達した正午ごろ。
ところどころ遠回りに感じる道を走り、やっと吉川の言う東京方面へ向かう国道にたどりつくことができた。
「やっと着いたなー、いやーうろ覚えだったから心配だったんだよなぁ」
「実際かなり迷ってたっぽいしねぇ」
「それは言わないでよぉ咲ちゃん……」
やっぱりこの二人はなんだかんだで馬が合うようだ。
「それより、ありがとうございました。態々道案内までしていただいて」
「や、お安い御用だよ。でも気をつけな、大体予想はついてると思うけど、この通りは普段から交通量が多い分無人放置の車が大量にある。けど、もし通れなかった時の迂回用の横道もたくさんあるから、まあ困らんだろう」
最後まで気のきく、明るくていい人だ。
「はい、ありがとうございました。では、またどこかで」
「ありがとうございました」
「ありがとう、匠っち」
またどこかで、か、と吉川はつぶやいてから、
「まあ、そうだな。こんなになった世の中何があるか分からないしな、もっかしたらまた何処かで会えるかもしれないもんな。じゃ!また何処かでな!」
そう言い残すと、高山達とは反対方向。青い道路標識を見ると「千葉」とか「木更津」と書いてある方向へは走り去って行った。
「んじゃ、俺らも行こうか」
「そうだね」
「れっつごー、ですな」
少しバックしてから、道路標識に「東京」と書いてある方向に車を進めた。
今日も風が吹き、白い透き通った砂を巻き上げる。何百万もの人が通ったであろう道を洗うかのように。
砂の波面より前を走る車に乗っている三人は、それには気付かない。
*
もはやただの鉄の塊となり果てた運転手を失った自動車を、慣れてきた手つきでハンドルを操作し反射的によけながら、高山はある事を考えていた。
昨日、自分が児玉に言った言葉、旅に目的なんていらないさ、という一言。
そんなことを人に言っておいて、未だに俺は心のどこかで旅の目的を探し続けている。
そうしてごちゃごちゃ考えて、いつも最終的にたどりつくものがある。
こんな世の中、生きていて意味があるのだろうか?
大切な人や親しい人が消え去り、夢や希望さえも消え失せ、ただ今を生き延びるだけの日々。
そんな中に、生きる意味などあるのだろうか?
でも、俺たちはこうして生き、生きて旅をしている。
旅をしていなくとも、まだこの世界には生きている人がいるに違いない。
その人たちは、何を糧に生きているのだろうか?
俺たちが旅をしている目的は、なんなのだろうか。
そして、思う。
それは、「生きる意味」を見出すためなのだ、と。
こんな世界になっても、生き続けることのできる確かな何かを見出すためなのだ、と。
だから、これは目的のない旅ではない。
―「生きる意味」を見つけるための、旅なんだ―
*
またしても更新が滞ってしまいました。
さて、この話はここで一つの区切りを迎えました。
短ッ!と思うかもしれませんが、自分の中では大きな区切りです。
あとはそれなりに続いて、そして終わる予定です。
自分の拙い文章力で書いてきた「世界が終わってもなお、続くこの世界で・・・。」。
前述したとおり、あとそれなりの長さの連載となりますが、どうぞよろしくお願いします。