天使と悪魔の1つの夢
私は、変な夢を見る。
私がゆっくり目を明けると、そこは暗闇。どす黒く何もかもを黒に染めるような暗闇。
回りが真っ黒なのに、自分の姿だけが見えて。そこに私は寝ていて。
――なんにもない。
孤独感に胸を締め付けられ、無抵抗に出てきてしまう涙を拭くことができない。
動けと体に命じても、それに反するかのように、体の動きは固まっていく。
金縛りのような感覚だ。
いや、違う――力が抜けていっているんだ、私は。
――あぁ、そうだ。私は天使だった。
体から生えた翼も動かすことが出来ないし、自分の薄桃色の髪の毛は枕のように床に寝ている。
天使の赤い瞳は、憂鬱そうに一切の光を宿さない
――私がしたことが禁忌なのですか?
その行為が、もし禁忌になるとするならば、私は大切な……愛していたあの人のために、禁忌を犯した天使なのです。
ちっとも罪悪感の感情に襲われなく、むしろなんでこういうことになったという疑問しか思いつかない。
しばらくすると、自分を繋いでいる鎖から、静かな殺意を感じた、気がした。いや、憐れみの気持ちか。
地面に倒れている自分を見下すように、少年が立っていた。いくらも年の違わない少年が。
この真っ黒の空間で、天使とその少年の姿がはっきりと見えた。
「どうして貴方は禁忌を犯した?こんなくだらない"人"のために。」
――なんでそんなことを聞くのです?
天使はなぜか口を動かせなかった。だから心の中でそう思う。少年はその思いを、天使の目で感じ取った。
その少年の表情を見て、天使は少し微笑んだ。
まったく動かない体を最期の力を振り絞って無理やり動かし、天使はゆっくり話した。
「あなたのため、な・・・ら・・・わ、わたしは・・・この身を、捧げて、も、いい・・・」
暗闇の中ではっきりと見える天使の体から、大量の血が出てきた。これが原因で、体が思うように動かず、死を待つのみとなっているのだ。
大量に止まることなくあふれ出る血が、徐々に天使の周りへと広がる。
何かで刺されたような傷口は、天使の腹部にあった。意図的に傷つけられた傷だ。
「だ、から・・・後悔、しないで・・・」
力が抜けて、もう意識が途切れるだろう。それでも天使はにっこりと笑いながら、残っている力でまだ喋り続ける。
それを慰めるように、天使は少年の記憶に残っているのと同じように微笑んで見せた。
「わた、し、は・・・貴方、の・・・こと、を・・・」
少年の手には、そのか弱い天使を殺した包丁が握られていた。
少年は泣いていた、自分の無力さを嘆いていた。
「あ、いして・・・た、の、です・・・よ・・・」
そこに立っていたのは悪魔の少年と、そこに死んでいたのは天使の可愛い少女だった。
天使はそれ以上喋らないし、動かなくなった。糸の切れた操り人形のように、もう二度と動かなくなった。
少年は目から出た涙を、手でぬぐった。そして次に出た言葉は、自分の本音そのものだった。
「それはこっちの台詞だ、つーの・・・」
悪魔の少年は、天使の手を握ってその手にキスをした。そっと優しいキスを。
貴方のことは忘れない、そんな約束のキスを。
――それが、悪魔と天使が愛し合った物語の結末だった。
そんな夢を私は見る。
誰も救われない、悲しいバットエンドの夢を。
「蒼空ー早くしないと授業始まるよー?」
「あ、うん。今行く。」
机の中から授業の道具を持ち出すと、自分を待っている友達の所へと行った。
「まったく・・・なんで学校で昼寝なんて・・・」
「だって、眠いんだもん。」
私の日常には、まったく関係のない――
そんな夢。
短めの短編です。こんな天使と悪魔だっていたっていいじゃないか?と思って書きました。この後の解釈は人それぞれご自由にどうぞ!