白い結婚宣言されたので
逆ハーしていたヒロインが王子ではなく別の人と結婚したらどうなるかなと思ったらこんな結果になった。
乙女ゲームの悪役令嬢に転生したなと思ったけど、わたくし――サンドラ・マーシアは特に気にしなかった。
悪役令嬢として主人公に悪事を働いて最後は婚約破棄の末に処刑されるのを阻止したいから主人公と仲良くなろうというつもりもなかったし、わたくしの婚約者のトラウマとやらを防ぐつもりもなかった……というかわたくしで防げるような内容ならとっくの昔に防いでいる。
かといって、ならば悪役令嬢として悪事を働くかというとわたくしの性格上なんでそんなことをわざわざする必要があるのかと思ったので表向きのことはしないで、裏でしっかりそれらの関係の所に報告はしておいた。
まあ、王子が一時の火遊びにかまけているだけなら報告を受けた者らも表立って動くことはしない。ここで下手に注意とか諸々したらそれが逆に若い王太子の気持ちを盛り上げるスパイスになるだけなので、気付いているが何もしないで見張っていくだけだった。
だから、婚約者である王太子との交流は普通に過ごして、王子妃教育もつつがなく行った。
乙女ゲームのヒロインは転生者ではなかったようで、攻略キャラたちと友情を築き、その中で一番好感度の高かった商会の息子と結婚して、自分が学生時代に欲しかった道具とかを発明してもらいそれを販売している。
そう、そこまでなら何の問題はなかった。
見事ヒロインにフラれた王太子との結婚式はつつがなく終え、さて初夜となった段階で、
「お前との結婚は所詮政略に過ぎない」
「……………はぁ」
新婚で夜やることは一つしかない状況で言われたセリフはこれ。
「おまえのような悪女。私の妻に相応しくない。私の妻に相応しいのはハディの様な可憐な笑顔が素敵な女性だ」
「……………」
ハディ……ヒロインの名前だ。
いや、悪女と言われたが、悪女らしきことをした覚えはない。せいぜいヒロインであるハディと一緒にいるのを報告しただけだ。
まあ、学生の時の火遊びだろうと大目に見ていたし、周囲もその認識だった。
火遊びで将来を棒に振るような愚か者ではないだろうし、一人の女性のためにすべての障害を乗り越える逞しさがあれば、それもまた王の器だろうと周りも実は期待していたのだ。
その時には婚約を解消するのも受け入れてくれと言われていたが、結局はハディは別の男性を選んだし、商会の息子と結婚を決めただけではなく、仲良くなった貴族令息ごと商会の太い客に仕立て上げた手腕は、顔に泥を塗られたとか思うよりも以前に逞しさを感じて、彼女ならいい仕事ができるのではないかと思わされるほどだった。
なので、商人として認める程度の仲で終わると思ったのに、何でここで夫になった殿下からそのハディの話が出てくるのか。
「何を言いたいのでしょうか?」
「はっ、頭の回転が悪い奴だな。ハディは身分を考えて私と結婚という形をとれなくなったが、それでも私とハディは魂で結ばれている!!」
「……………」
誰か通訳できる方はこの場にいませんか。わたくしには理解できない言語が出ているのですが……。
「頭の弱いお前でも理解できるように教えてやろう!! お前と子供を作るつもりはない。三年子供が出来ない場合は側室を迎えることができる。側室ならば身分は問わない。そう、ハディをその時に迎えるのだ」
確かに側室制度はある。だけど、独身女性の場合のみだ。女性が結婚している場合は、愛妾と言うべきだろう。
「だから、お前は一人で夜を過ごせ」
これは命令だとばかりに告げてさっさと出ていく夫になったはずの王太子。
「っ!!」
怒りが湧いた。
王命だから婚約した。
王命だから結婚した。
わたくしが嫁ぐことで国の未来を託されたと思ったから。
学園生活ではただの火遊びで片付いたと判断したから結婚したのに。
「………聞いていたわね」
天井に向かって、壁の鏡に向かって、洋服ダンスに向かって声を掛ける。
王太子は理解していない。
無事に初夜が済まされるか。わたくしは処女だったか迄を確認する役目の者がそこかしこに控えている事実を――。
「白い結婚を申し込まれました。すぐに報告を――」
去っていく気配。
「馬鹿にしているわね」
王太子はわたくし一人を侮辱しているわけではない事実に気付いているのか。
結婚を命じた王すら侮辱しているのだ。
それから数か月後。
「どういうことだっ⁉ サンドラ!!」
医務室で医師に診察されているわたくしのもとに駆け付ける王太子。
そんな王太子に向かって、
「「「おめでとうございます!!」」」
と次々に声をかけていく医師団。
「おまっ……不倫したのかっ⁉」
こちらを指差してそんなことを叫ぶ。
「不倫?」
「そうだっ!! 私はお前と白い結婚を」
「ええ。そう言われましたね」
「ならば不倫」
「――知っていますか。誰かに嫁いでいる状態で王族が手を出せば、不倫ではなく愛妾になれるのですよ」
にこやかに毒を込めた言葉を紡ぐ。
「優しくしてくださいました……息子の不甲斐なさを詫びて」
「ち、父上が……そんな……訳……」
「ああ。そうそう。ハディさんたちと連絡が取れなくなったそうですね。あれだけ男性陣に囲まれて人気だったハディさんを自分の妻に出来た商人が愛妾に狙われていると知ったらどうすると思います?」
至宝の存在をそっと隠していくのは当然でしょう。ましてや商人。信頼を仕事にするものだ。
「ハディさんも喜んでいましたよ。貴族の学園では貴族に溶け込んでいないと生活しにくかったので、貴族相手をしない立ち位置で仕事ができると」
商人を選んだのは愛妾になるための準備だとこのお花畑が考えていたようだが、商人になるのが性に合っていたのと商人の青年を好きだったからと惚気られた。
王太子含む貴族令息は扱いを間違えると自分と家族が闇に葬られそうだったからと慎重に行動しての結果だったが、それならば商売の顧客だと思って相手すればまだましだと思ったとか。
一歩間違えればカスハラの客だったようだが。
その話を聞いた時にやはり彼女は逞しいなと思えたものだ。そんな存在こそ気にいる陛下は面白いからわたくしに贈る物をそこの商会で買うとまで言っていた。
「サンドラ……」
「殿下。仮初の夫の役目頑張ってください。――ああ、わたくしに何かしようとしたら陛下の手の者が動きますので」
そうひっそり病気療養とか、ひっそりお亡くなりとか………。
わたくしの脅しが利いたのか戸籍上の夫は黙ってしまう。
「ふふっ」
王族の子供を産むのだ。相手は王族であればだれでもいい。そんな立ち位置だ。
王太子が学園中の火遊びの結果次第ではわたくしは陛下の側室に入る予定も出ていた。公務もその頃行っていたし、知り過ぎていた。
野放しにするくらいなら側室にするというのが水面下で話があったが、火遊びで終わったから安堵したものだ。
だけど、この裏切り。
陛下はわたくしの身の振り方を選ばせてくれて、わたくしが今回の話を持っていったら豪快に笑っていた。
陛下は、逞しい存在がお好きだ。男性でも女性でも。
そして、そんな陛下に憧れていたからこそ、そんな申し出をしたのだ。
そっとお腹を撫でる。王太子はそのうちこの子に移行するだろう。その前に王太子が何らかの動きをするのならそれはそれで陛下は根性があると判断されるだろう。
(さて、どうしますか?)
まだ混乱して頭が追い付いていない仮初の夫を見ながら微笑んだのだった。
サンドラさまが初期の設定と違いすぎるキャラになった………。当初は離婚するつもりだったのに。




