3 「刀花ちゃんプロフィール!②」
「ところでなのですが。オカルト絡みの裏事情まで明記されていて……大丈夫なのですか、これは?」
「ここに辿り着ける者は、『一定以上の霊力を宿す者、もしくはそうした道具の担い手』であるらしい。ゆえ心配いらんようだ」
「……どういった仕組みで?」
「さてな。刀花曰く『こうだったらいいなって、思って作ったらできちゃいました!』だそうだ」
「そうですか……」
姉上の遠い目が理解を放棄したことを告げている。俺達の妹は条理の外に生きているのだ……さすがは我等の中で最も早く不老不死へと至った少女である。愚かな兄には最早、刀花が可愛い妹であることしか分からない……。
姉弟でしばらく思考をフワフワさせ、脳に空き容量を確保してから続きを読み始める。次はガーネットか。
「『吉良坂柘榴さん。とっても可愛いアイドルで魔法使い! 身長は百六十三センチ。誕生日は一月一日。好きなモノは甘いお菓子♪(実際はレッスン後の牛丼)。苦手なモノは喧嘩・戦争(実際はアンチさんからの声援。思わずレスバしそうになるから)。趣味はお菓子作り・カフェ巡り♡(実際は魔道書を読むことや魔法薬の研究)』か。こちらは普通だな」
「色々とバラされているようですが……」
「なに、ガーネットのファン達も分かっていてそうしている節がある。悪鬼と付き合っているという情報さえ無ければ大丈夫だろう」
「そ、そうでしょうか……?」
姉上は懐疑的なようだ。友人想いだな。
「して、刀花からの講評は……『普段は飄々とされていますが、内側には誰よりも熱い情熱を秘めている頑張り屋さんで気配り屋さん! 常に皆さんを導く天性のカリスマは、さすがナンバーワンアイドルさんです!』だそうだ」
「ふふ……本人は照れて否定しそうですが、さすがキラちゃんですね」
友人が褒められ、姉上も機嫌良さげに微笑む。
こうした笑みを姉上が浮かべられるのも、ガーネットが率先して歩み寄ってくれたおかげだろう。諸人であれば、どうしても姉上の美貌と思考に線を引いてしまうからな。
「『そして戦闘では、意外な角度からこちらを殴ってくれるトリックスター! 火力面はそこそこでしたが、兄さんと使い魔契約を果たしたことによりそこも克服! 理屈っぽい部分が少々危ういですが、戦闘経験さえ積めば戦ってとっても楽しい魔法使いさんになるはずです! 八十五点!』か。なるほど、よく分析している」
「使い魔契約は、どの程度無双の戦鬼の力を行使できるのですか?」
「こちらが許可さえ出せば、人鬼一体もできるだろう。本人の"ぽりしー"を考えれば、そうはせんだろうが」
「『光のアイドルは鬼になんてならない!』と。言いそうですね」
クスリと姉上が笑う。あのアイドルは、強大な力を持つことの責任をよく知っておる。まぁ気分屋でもあるため、振るう時は戯れに振るうだろうが。
「次は……おぉ姉上か」
「な、なんだかそわそわしてしまいますね」
「どれどれ……『酒上鞘花。いつも綺麗で大好きな私のお姉ちゃん! 身長は百五十五センチ。誕生日は七月二十六日。好きなモノは家族・和菓子・静寂。苦手なモノは人間・喧騒。趣味はお琴や三味線・読書。誰もが羨む大和撫子さん! 私の永遠の憧れです!』だそうだぞ?」
「……むふー♡」
おぉ、姉上の珍しい『むふー』が出てしまったな。ただでさえ可愛い妹に『憧れ』とまで言われてしまえばその喜びもひとしおであることだろう。
照れ臭そうに前髪をクシクシ弄る姉上を可憐に思いつつ、俺はスマホの画面を下へと動かす。最早スマホを持つ係は俺のみとなっており、俺と姉上は一つの小さなスマホを肩を寄せ合って眺めていた。
「『赤ちゃんだった頃から私のことを育ててくれて、とっても頑張り屋さんで苦労人さんなお姉ちゃん。ですが今や妹も弟(兄さん)も成長し、そんな姉さんの支えになれていたらと思っています! 姉さんの笑顔こそが私の喜びです。大好きな大好きなお姉ちゃんです!』」
「刀花ちゃんったら……」
少し、姉上がスンと鼻を鳴らす。俺も妹と同じ気持ちだ。十代の少女が背負うに余りあるその重荷を、今は支えてやれていると思いたい。
「『なお戦闘面では影や暗闇を用いることが多い印象で、カッコいいお姉ちゃんにジョブチェンジ! 恐らく陰陽局所属時代に術技のご本も読破されていると思いますので、戦闘となりましたらそういった不思議な術を使いこなしちゃうのだと予想されます! 刀で斬るのは最後の手段で、触れることなく相手を倒す……カッコいいですね……! 九十七点!』か。そうなのか、姉上?」
「はい。お姉ちゃん、大和撫子ですから。見知らぬ殿方に触れるのは、極力避けたいものですね?」
なるほど。ゆえ、影などを用いるか。戦闘となっても慎みがある、嫋やかな戦い方をするのであろうな姉上は。
胸に手を当て誇らしげな姉上を横目に、結びの文を口にする。
「『なお全身敏感肌ですので、夜ではよわよわでかわかわなお姉ちゃんに。このギャップがたまりません!』か。とても理解できる……情欲と快楽に濡れた瞳と、普段からは考えられぬほどの可愛らしい鳴き声が──」
「っ、っ!!」
真っ赤な顔でテシテシと叩いてきても可愛いだけだぞ姉上よ。いかんムラムラしてきたな……。
細い手を取り、その甲に小さく口付けを落として「ぴゃあっ」と驚く姉上を制しつつ……次はティアか。
「『ユースティア=ペルフェクティオさん。バチカンからやって来られました修道女さんで凄腕エクソシストさん! 身長百六十七センチ。誕生日は十月一日。好きなモノはお酒と可愛い女の子。苦手なモノは異教徒。趣味はボランティア活動。今年で二十八歳の大人のお姉さんです!』」
「お一人だけお歳を暴露されていますね……」
「そういえば誕生日は知らなかったな。十月一日……なんぞ謂れでもあったか?」
「ふむ。十月一日は、俗に日本酒の日と呼ばれておりますね」
誕生日の贈り物が決まった瞬間だった。今から希少な日本酒を出す酒蔵に抽選を申し込んでおくか……。
「『ちょっぴりお酒と兄さんと可愛い女の子にだらしがありませんが──』」
「修道女として致命的では……」
「『ですが、その人生経験から親身になって相談に乗ってくださいますし、とっても真摯に対応してくださいます。静かにこちらを見守ってくださる姿はまさに聖母! いざという時に頼れる大人のお姉さんですね!』か。確かに、年頃の少女が多いこのブルームフィールド邸では、俺では相談に乗れぬこともあろうからな。ティアはよくやってくれておる」
「そうですね。大人の女性が近くにいてくれるというのは、やはり安心感が違うと思いますよ」
姉上の超然とした態度で勘違いしそうになるが、この酒上鞘花とて十八歳の未成年だ。ティアの存在は、我等にとってとてもありがたい。酒癖は悪いが……。
「『戦闘面において、その出力と速度で他を圧倒する様はまさしく世界つよつよランキング三位の実力に相応しい貫禄です! 武装が二丁拳銃&聖剣というのもロマンがあって大好きです! 九十八点! 私ともっと一緒に修行して高みを目指しましょうね♡』か。よくやってくれておる」
「いつもありがとうございます、ティア殿」
姉上が合掌する。刀花と"遊んだ"後、いつも真っ青な顔をしておるからな。刀花の遊び相手が務まるのは、そうした実践経験も豊富なティアしかおらん。ありがとう、光の修道女。礼として悪鬼が種付けしてやるからな。
「む、エリィのものもあるのか。『エクスカリバーさん。愛称はエリィさん! 身長は百四十七センチ。お誕生日もご年齢も不詳ですが、中学生くらいの見た目の可愛いメイドさんです! 好きなモノは可愛い服装やアクセサリー。苦手なモノは男性。趣味は……今は特になさそうな感じでしたので、いつか一緒に見つけてあげたいです!』か。刀花は優しいな」
「エリィちゃんも、もう少し自我を出してくれたらよいのですが」
姉上が頬に手を当て、心配そうな吐息をつく。
まぁ、胸中では『優しくされたい』と思っているような聖剣だ。その内、皆がその愛らしさに気付き、たっぷりと構われることとなるだろう。俺もそうするつもりだ。好みも今知れたゆえ、近い内になんぞ可愛い服でも贈ってみるか。
「さて、最後はリゼットだろうが……む?」
「おや?」
刀花の一番の友たる、リゼット。
だがその欄を見て、俺と姉上は首を傾げた。
「……『リゼット=ブルームフィールド。イギリスからやって来た、吸血鬼のお嬢様。身長は百四十九センチ。誕生日は十二月二十五日。好きなモノは紅茶・ゲーム。苦手なモノは運動。趣味はオンラインゲームや美術館巡り』……ふむ」
基本的なことは記されている。記されている、が……。
「……これだけか?」
「はて……」
それ以降の、これまでにあったような刀花の主観を交えた講評がなかった。そんなことはないはずだが……更新の途中なのだろうか?
「刀花」
「刀花ちゃ──」
気になり、対面のソファで更新中の刀花に声をかけようとしたところ──、
「……むすぅ~」
「「っ!?」」
と、刀花が……。
常に向日葵のような笑顔を浮かべる妹がっ、なんとも不満げに頬を膨らませてこちらを見ているではないか!
俺と姉上はその表情にビクリと肩を上げつつも、努めて冷静に妹へと問いかけた。その不満げな仕草が、リゼットのことを記さぬことへのヒントとなることを願って。
「……どうした、刀花」
「なにか、嫌なことでもありましたか?」
「……だって」
彼女はソファで膝を抱え、琥珀色の瞳を上目遣いにしてこちらを見た。
「私……リゼットさんが抱える秘密を、知りませんもん」
「──っ、ああ……」
なんともはや。合点がいった。
英国にてアーカードと対峙し、姉上はその卓越した頭脳で真実を見出し、俺は打倒し真実を手繰り寄せた。
俺と姉上は、リゼットが抱える秘密を知っている。
だが……一番親しい友であるはずの、刀花は……。
「私、リゼットさんのお友達なのに……実は、リゼットさんのことあんまり知らないのかなって思うと……」
「それは違う」
「それは違いますよ刀花ちゃん」
いじけてしまう妹に、兄と姉は即座に否定した。それは絶対に違う。
「刀花。確かに俺達は秘密を知っている。だがそれは、リゼットが自ずから隠したものでなく、本人すら自覚しておらぬものだった。そして、本人や周囲が知る必要もないことであったのだ」
「刀花ちゃんは、リゼットちゃんの一番仲の良いお友達ですよ。それにお友達だからといって、秘密を全て明かさなければならないということもありますまい? 秘密の有無というものは、程度はあれど友情となんら関わりのないことでしょうや。ね?」
「うぅ~~~……」
刀花が膝に額を当て、うずうずと揺らす。
理解はできる。友の抱える悩みに寄り添えぬことを、俺達の妹は決して良しとはせぬだろう。だが秘密の内容が内容だ。妹であれ、おいそれと明かすわけにはいかない。刀花は生命の奪い合いに関しては冷徹だが、心根では優しい。
もし真実を知り、リゼットに向け妙な気遣いを見せれば……頭のよいご主人様だ。何かに勘づく恐れがある。それは……まだ早いのではないかと思うのだ。
俺と姉上は席を立ち、心細げな刀花に両側から腕を回す。
そうしてその背中を優しく撫でながら、慰めの言葉を紡いだ。
「安心しろ刀花。俺の妹は、マスターの最高の友だと胸を張って言える」
「秘密は、いつか明かします。まだ早いというだけで。いつか……もっともっと、二人の心に余裕ができた時に。ね?」
「………………リゼットさんの中に、竜を見たんです」
……なに?
視線を下げたまま、ポツリと呟かれる言葉に聞き入る。竜だと?
刀花が利き手である右手を上げる。
その指先が──少し、震えていた。
「……異世界から帰って来て、兄さんと私でリゼットさんにかけられたオーダーを一時的に斬った時……感じたんです」
リゼットの中に眠る──竜を。
それは恐らく、リゼット=ブルームフィールドが擁する本来の力。世界最強の吸血鬼が大きく力を削いでようやく眠りにつかせることができる、大いなる力。竜とは、その形なのかもしれん。吸血鬼……ドラキュラとは『竜の息子』という意味を持っているからな。
武に関して卓越した感覚を持つ刀花だからこそ、リゼットの奥に眠る本来の力を感じ取ったのだろう。
高貴な王族の血と、最強の吸血鬼の血。それが合わさる吸血姫の力とは……もしかすれば、刀花の様子を見るに、剣神にすら匹敵するかもしれん──、
「……ただ待っていれば、いいんですか?」
「……いいや」
少ししょぼくれた妹に向け、首を横に振る。
「その竜は、いつか解き放たれる時が来る。その時、その竜は……きっと深く傷付いていることだろう。ゆえに──」
励ますように。
そして激励を送るように、俺は妹の背中をポンと叩いた。
「その痛みに寄り添えるよう。刀花にはもっともっと、リゼットと仲良くなっていてほしい」
「なかよく、ですか?」
顔を上げ、瞳を瞬かせる妹に深く頷く。
「そうとも、我が妹よ。リゼットはいつか知るだろう。いや、より深くその痛みを知ることになる。大切な者を失う痛みをな」
「……はい」
「その痛みを最も知る者は刀花──お前しかおらん。かつて姉を失い、妖刀を握ったお前だけが、あの子の傷を強く理解し……きっと寄り添ってやれるだろう」
「──っ」
「あれは本人を深く傷付け、そしてリゼットを深く愛する者ほど傷付ける呪いだった。あれを知った時、刀花もきっと傷付く。酷なことを言うようだが……どうか、共にその痛みを分かち合ってほしい」
「そのため、には……」
「ああ。今よりももっと、ずっと、仲良くしてやってくれ。そうすれば、目覚めた竜は猛り狂うことなく……一雫の安寧を、友の姿に見出すだろう」
「っ、分かり、ました……!」
「刀花ちゃん……良い子ですね……」
悔し涙をぐしぐしと拭う妹の頭を、姉が優しく撫でる。
ああ、きっと。その竜の痛みに共感し、共に傷付き、そして寄り添ってやれるのは……酒上刀花、この子をおいて他にいないだろう。
「っ」
そうして刀花は再びスマホを手にし、リゼットの欄に一言こう付け加えた。
『私の、最高のお友達です!』と。
俺は確信した。
たとえこの秘密を知る日がいつか来ようと……リゼットが絶望に染まることは決してない、と。
「むふー、こうしてはいられません! 兄さん、姉さん! 妹はこれから、リゼットさんと仲良し大作戦を開始します!」
「ふ、そうか」
「あらあら」
ピョンと立ち上がり、刀花は拳をぎゅっと握る。
ああ、やはり……俺の妹には、こうした笑顔がよく似合う──……。
「今から──リゼットさんのお部屋で3ピー(規制音)しましょう!!」
「「──」」
絶句した。
「リゼットさんったら、最近兄さんとご経験したからか反応が悪いんです! 私が話しかけてても、ぼ~っとして兄さんとの夜を反芻してますし! 私のこと『はいはい』って妙に大人ぶって流しますし! ですのでっ、思い知らせてあげます! スルーなんてさせてあげないくらいのものを!」
「と、刀花ちゃ、それはさすがにっ」
「お、落ち着け刀花……!」
「思い切って言っちゃいますと、姉さんの紹介を書いてた時からムラムラしてたんですよねっ! ですのでもう辛抱たまりません!」
「刀花ちゃんっ、わ、私はっ、今日──」
「安全日ですよね知ってます! 姉さんの周期は全部把握してますとも! もう朝から生エッチしましょうよ! 三人でするのもお久し振りですし……むふ~♡ イキますよぉ~!」
「「あぁ~~~~……」」
そうして俺と姉上の腕をガッシリ掴んで離さぬ刀花に引きずられ──、
結論として……。
できる限りの現場復元は施したのだが、当然のごとくご主人様にはバレてしまい……俺と刀花、姉上は一週間ほど口をきいてもらえなかった……ナカ○シ作戦は失敗に終わったのだ。ご主人様の脳はもうズタズタに破壊されてしまった……。
「……うぅ~む」
確信、したのだがなぁ……。




