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2 「刀花ちゃんプロフィール!①」



「よいではないか姉上……近頃はご無沙汰だったのだ。この一度だけでよい。一つになろう、姉上……」

「……もう、仕様のない弟なのですから。一度だけですよ?」


 そうして姉上は弟を甘く嗜めながらも、嫋やかな指先をそっと俺の固いモノに伸ばし──、


「『人鬼一体』」


 紡がれる呪言は災禍の顕現。

 逞しき双角が天を衝き、和服の袖も暴風にはためく。少女の握る刃は血に穢れ、ただひたすらに"斬る"ことを求め猛り狂っていた。


「──滅相刃」


 斬撃の形をした死が放たれ、柄を握る者の敵を殺す。否応なき死を与えることは強者の特権であり、その結果というものは我等の目前にたちどころに現れ──、


「はい、ピカピカになりましたね。まったく……『滅相刃で掃除を一気に済ませよう』などと。よいですか? 人の生活とは家での生活。それはつまり家を守る意識へと繋がり、ひいては常から家を綺麗に保たんとする──」

「う~む、やはり姉上に握られるとしっくりくるな」

「聞いていますか愚弟?」


 話し半分に聞いている。

 現在、まだまだ夏休みの盛り。ブルームフィールド邸は周囲が森に覆われているためか若干涼しげはあるものの、蝉の大合唱が我等の体感温度を数度は上げている心地である。

 そんな悪環境の中で、だ。異世界だの英国遠征だので家を長らく空け、埃や雑草だらけとなった屋敷を汗水垂らして掃除するなど変態まぞのやることだと思わんか。

 かつて人の生活に寄り添うことこそ戦いであり肝要であると鬼に教えた姉上だが、そこはそれよ。俺はそう上申し、姉上は渋々ながらも受け入れた。なぜなら姉上も暑さが苦手だからだ。たまにはこうして楽をする日があっても罰は当たるまい?

 加えて、今日は珍しく屋敷に人がおらんことも助けとなった。綾女はバイト、ガーネットは仕事。リゼット、ティア、エリィは街に出た。いつも仕事着のティアとエリィの洋服を見繕うために。こうしたセンスはご主人様に任せた方がいい。洋服に詳しくない俺では助けにならん。ゆえに、俺は後で着物を二人に贈るつもりだ。白金色の髪をした修道女だろうと、金髪ショートカットのメイドだろうと、それら全てを和服は優しく包み込んでくれる……そう、和服ならばな……。


「うむ」


 そうして新築同然となったブルームフィールド邸を視界に収めつつ、姉上の隣に立つ俺は仕事の出来映えを認めるように一つ頷いた。


「よいデキだ。やはり我が斬撃にてゴミを一掃するのは心地好い。それも妖刀に最も適正のある姉上の手によってとなると、充足感も違うな」

「妖刀に適正のある……それは褒めているのですか?」

「それはもう。姉上は陰気が強い。それはつまりねちっこく、執拗に敵をいたぶることに快感を覚え、一度覚えた些細な恨みすら決して忘れぬような湿度を──」

「えい」


 笑顔で頭を叩かれた。なぜだっ。

 俺が頭を押さえ、姉上が「はいはい私はどうせ辛気くさい女ですよ」と可愛く唇を尖らせる中……、


「むふー、やっぱり姉さんの人鬼一体姿は凛々しくってカッコいいですねっ!」


 横合いから我等の行動を逐一スマホのカメラに収めていた刀花が、ホクホクした顔で姉を褒めそやす。我等が妹の笑みは、今日も夏の向日葵より眩しく咲き誇っている。

 そんな可愛い妹の笑みに、姉上も抱いていた不満はどこへやら、朗らかに唇を綻ばせた。


「クス、ありがとうございます刀花ちゃん。普段から体力のないお姉ちゃんですが、童子切安綱ようとうを握ればこれこの通り。お掃除も一人でこなせちゃいます♪」

「さすが姉さんです! 和服美人さんが鬼の角を生やし、日本刀を振るう姿からしか得られない栄養素があります!」

「もう、刀花ちゃんったらお上手ですね♪」

「──九十五点♡ 是非そのまま、私とお手合わせしていただきたいと思うほどの覇気と圧力を感じます……♡」

「ぴぇっ」

「実際、異世界での第一回早い者勝ちお嫁レースではしてやられてしまったわけですし……むふ。姉さん……? ちょっと立ち合いませんか……? さきっちょだけでいいですから……姉さんの影や黒を駆使した絶技、刀花は肌で実感してみたいです……♡」

「ぴえぇっ!」


 いかんな。

 異世界のノビノビした生活と、英国での俺とアーカードのぶつかり合いを間近で見たことで、刀花の頭が戦闘脳のうきんになってしまっている。

 既に姉上を越える湿気と圧力を纏う刀花に、俺は兄として「どうどう」と手で制した。


「ところで刀花。今の姉上の格好よい写真を"ぶろぐ"に上げんでよいのか? 姉上の勇姿を見せつける絶好の機会のように思えるが、それを逃してよいのか?」

「はっ──! いけません! 妹には! 姉さんを推す使命が! 更新します!」

「ほっ……」


 こちらの助け船に、姉上は胸に手を当てて一息つき、刀花は鬼のようにスマホを連打し始める。流暢にスマホを扱う刀花は現代っ子だ。俺や姉上なぞ、いまだに人差し指でノロノロやっておるからな。


「さ、刀花。中へ」

「はーい!」


 この場に留まり、乙女の柔肌を焼くるは宝の損失。

 やんわりと刀花の背を押し、涼しい談話室へと通す。その間に姉上は流れるように食堂へ行き、冷たい緑茶を淹れてくれていた。

 文明の利器(くーらー)は素晴らしい、とその恩恵に姉弟で預かっていれば、刀花はスマホに目を落としたまま「ふむん」と思案するように唇を突き出す。


「せっかくですし、皆さんのプロフィールも更新しちゃいましょうかねぇ……こういったことは、思い立った時にやりませんと」

「個人情報を公開しているのか? あまり詳細なことをネットの海に放流するのは感心せんが」

「基本的なことしか書いてませんので大丈夫ですよっ♪ アイドルさんのプロフィールみたいなものです! これを書くことにより、兄さんや姉さんの魅力に気付いてくれる方が増えたらいいなって!」

「ほ、ほどほどにお願いいたしますね……?」


 しっかり者の妹がやることのため大丈夫だとは思うが……気になるな。


「ふーむ……?」


 刀花がスマホにのめり込む中、俺と姉上も一つのソファに肩を寄せ合い座りつつ、ぎこちない手つきで妹の運営する"ぶろぐ"に接続する。

 そうして数ある項目の中、『みんなのプロフィール!』と色鮮やかに銘打たれたそれをポチっと押せば……ほう。

 刀花の邪魔をせぬよう、俺と姉上は小声でそれらを確認する。


「刀花の視点で、皆の情報が書かれているようだな」

「そのようですね」


 ブルームフィールド邸に住む者…ひいては、刀花の大切な人達のことが書かれている。もちろん、刀花自身のことも。


「どれどれ……『酒上刀花。酒上家の可愛い妹。身長百六十センチ。誕生日は四月十日(兄さんといっしょ!)。好きなモノは家族。苦手なモノは細かい計算。趣味は縫いぐるみを編むこと』……この辺りは、確かに基本的だな」

「クス、刀花ちゃんらしくて可愛らしいですね」


 む、しかし……下に行くにつれ……?


「──『得意な武器、日本刀(兄さん!)。扱えない武器、特に無し。握力のみで惑星を割る、つよつよで可愛い妹です! 最近では神の力を手に入れました。今日も大好きな家族を守るため、日々これ修行! 挑戦者、いつでもお待ちしております!』」

「武者修行中の格闘家……?」


 姉上が首を傾げているが……まぁ、刀花らしいと言えば刀花らしい……のか?

 確かに致命的な情報の漏洩は無いが……俺もまた首を傾げつつ、下に"すくろーる"する。次は俺か。


「ふむん?『酒上刃……無双の戦鬼。身長百八十センチ。誕生日は四月十日(妹といっしょ!)。好きなモノは血の繋がった姉と妹。苦手なモノは接客業、おねショタプレイ。趣味は美しいお姉ちゃんや可愛い妹とイチャイチャ(時々えっち!)すること♡』……基本的だな」

「情報の選別に若干の恣意が感じられますが……」

「確かに。俺はマスターに奉仕することも好きだ」

「お前がそれでよいのならよいのですが」


 事実だ。だが、うむ……?


「……『その力の真髄は斬撃を媒介にした概念攻撃であり、その神威は死そのもの。私でも約五百ある兄さんの残基を半分ほどしか減らせず、いまだ兄さんはその底を見せてくれません。いつか兄さんに本気で運動してもらうのが妹の目標です! もちろん百点満点♡』、とあるな」

「やはり荒武者……?」


 俺は兄想いのいい妹を持った……。

 続いて……、


「綾女のことも書いてあるな。『薄野綾女。喫茶店ダンデライオンの可愛い看板娘さん。身長百四十五センチ。誕生日は五月二十三日。好きなモノはお客様の笑顔。洋菓子。苦手なモノは家に入ってくる系の虫。趣味は休日の喫茶店巡り。』、ふむふむ、さすが綾女だな。委員長らしい、実直な自己紹介──」

「いえ、待ってください」


 だが姉上が更に下へ画面を移行させると……、


「『神刀・血吸という、私の知らない兄さんの一面を担う女の子。その真白の霊気で全てを洗い流す"旭光刃"は厄介ですが、戦いの中で成長する私とは相性が悪いかもしれません。ですがまだまだ神刀使いとしては成長中のため、伸び代はあります。期待を込めて八十点とさせてください!』、か」

「少しの嫉妬と将来を見据えた戦闘への期待が見え隠れしているように思えるのですが……」


 姉上の顔色が少々悪い。

 む? だが綾女にはまだ続きがあるな。


「『──しかし、夜の方面は私達の中では飛び抜けています。兄さんをその気にさせることが本当にお上手なんです! あの理性を溶かすような誘い受けは、計算でできることではありませんよ! 悔しいですが、私の時より強く早い兄さんの腰使いを見た瞬間に敗北を悟りました。こちらも日々精進です。九十八点! マイナス二点は兄さんに赤ちゃんプレイを強要したからです! 特殊プレイの根底には愛を!』か……少々、内容が危うくなってきたな」

「少々ですか? そして気になる点が一点」

「一点のみで済むとは姉上も麻痺してきたな」

「こほんっ……お前が苦手とするモノはおねショタと記憶しておりましたが、赤ちゃんプレイ? いつの間に下方修正されたのですか?」

「綾女はな、俺が可愛ければ正直なんでもよいと思っているキライがある。ククク……こわい」

「ポリアモリーの代償とはいえ、惚れた少女の性癖に付き合わされるというのは少々労しいところがありますね……わ、私でしたら……」

「む?」


 トン、と。肩に甘い感触。

 恐れる弟に肩を当て、優しいお姉ちゃんはいじらしい上目遣いで誘った。


「真のお姉ちゃんたる私でしたら……頑張る弟に、そのような思いなどきっとさせませんのに……♡」

「ほぉ……」


 元来、甘やかされることが苦手な戦鬼だが……綾女のように妙な圧もなく、乙女としての恥じらいを覚える姉上ならば……。


「姉上」

「は、はい」

「──今夜、部屋にお邪魔しても?」

「……おいで♡」


 まだ"ぷろふぃーる"の途中だが興奮してきたな──!!

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