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1 「メインヒロインのHシーンが一つしかないのおかしくない?」



「そう思わないのあなた」

「すまん。何がだ」


 "たんばりん"を叩くのに夢中で、あまりご主人様の言葉を聞いていなかった。聞いていたとしても恐らく内容は分からんかったろうが……。

 ──現在、『今日は何をして過ごそうか』と話し合った結果、我々八人は街へと繰り出し、カラオケ店に足を踏み入れていた。

 理由はいくつかある。少女達が単純にカラオケが嫌いではないこと。最近の遠出続きにガーネットが歌の練習をしたがったこと。

 そしてなにより……我等のような集団はどこへ行っても目立つゆえ、こうして完全個室で遊べる場が少ないことが、カラオケ店を選んだ主な理由として上げられる。休日であるというのに、常に修道服とメイド服を着込む女が二人もいるのでな。夏休みの間に、こやつらの私服を見繕う機会も作っておくべきだろう……和服を着る者も二人いる? 日本人は洋服ではなく和服を常に着るべきであろうが!!

 ……そんな美少女達が集まって歌を披露し、鬼が盛り上げ、メイドがしきりに"どりんくばー"を行ったり来たりして給仕する広めのカラオケ大部屋にて。

 俺が勝手に日本人の美意識に義憤を感じている間にも、同じく"たんばりん"をシャンシャン叩いてガーネットの歌唱を盛り上げていた綾女がリゼットに問う。こうして盛り上げておらねばガーネットが怒るからな。


「なになに? 何のお話?」

「えっ、聞こえてた? あ、あの……改めて聞かれると、あれなのだけれど……え、えっちの、お話……」

「──聞きましょう」


 いかん。委員長むっつりどすけべがやる気になってしまった。やはり個室にしておいて正解だったな。

 ガラステーブルに両肘をついて聞く姿勢となった綾女に、リゼットは赤い顔で俯き、黒タイツに覆われた足をモジモジと動かす。


「だ、だって……私だけまだ一回だけなんて……ず、ずるいし……」

「可愛いなぁリゼットちゃんは。ところで初体験はどんな感じだった? 映像は残ってないのかな?」

「純真な笑顔でなんてこと聞くの。残してるわけないでしょうあなたじゃないんだから」

「えーーーっ!?」

「甚だ疑問なんだけどそのリアクション。残ってるのがおかしいの、分かる? それを妹とシェアしてるのだっておかしいのも分かる? おかしいって言ってるのは倫理観とか頭のことね?」

「……刀花ちゃん、刀花ちゃん」

「むふー、ガーネットさんお歌お上手です~♪ あ、はいはい。なんでしょうか綾女さん!」

「……リゼットちゃんの初体験について、何か聞いてない? 絶対素敵な夜だったと思うから知りたいな~って……」

「それが……親友である私にも教えてくれないんですよ~。リゼットさんはケチさんですっ。同じ釜のご飯を食べた仲! ないしは同じ兄さんのおち○ち○を挿入れたナカ──」

「あなたに焦がれてる全男子に録音して聞かせたい日本語」

「あのぉ~、刀花様……? 今のお話で思い出したのですが~……」

「今の話で思い出すようなことある?」


 段々と話の輪が広がっていく……今度は白金色の長髪を靡かせる修道女までもがコソコソと会話に加わってきた。


「刀花様の運営されておられるブログにある、主に十八禁エピソードを投稿する『あぺんどぱっち!』が、なかなか更新されておられないようですが~……?」

「修道女が官能小説読んでるんじゃないわよ」

「やはり今のようにネタ不足で……? バチカンの同僚が『まだですか!?』ってなぜか私の背中を叩いてきててぇ~……」

「違うんです、ティアさん。書く気はあるんです……」


 ティアの問いかけに、我が妹は沈痛な面持ちで首を横に振る。まるで"すらんぷ"に陥った文豪かのような佇まいだ。動きに合わせて揺れる黒髪ポニーテールもどこか元気がないように萎れて見える。


「もちろん、全てのシーンを書く気でいるんです……ですが書く際、切実な問題がありまして……」

「な、なんでしょう……? 上手い表現が出てこないとかですか……?」

「もっと切実です。普通の記事ならおうちにいる時はパソコンで書きますし、お外ならスマホでも書いちゃうんですけど……」


 そうして刀花は、なんとも悔しそうに琥珀色の瞳をぎゅっと瞑る……!


「書いてると──おパンツがビショビショになっちゃうんです。ですので気軽に書けないんですっ。私は……! 弱い……!!」

「股がゆるいってこと?」

「おぉ、主よ……」

「こんなことで祈られてる神かわいそう」

「実際結構困るんですよね……世の官能小説家さんやエッチな漫画家さんはどうされているのでしょうかっ」

「プロなんだから仕事中は興奮しないんじゃない?」

「姉さん! 姉さんは知ってますかっ」

「『津軽海峡~♪ 冬景色~♪』」


 お姉ちゃんは演歌おうたが上手い。

 そして恐らく、聞いていて惚けているな。耳が赤いぞ。


「──おい何を猥談で盛り上がってんねん! あたしちゃんが歌ってたでしょうが! 現役トップアイドルの生歌がコンテンツ力で下ネタに負けてるみてぇじゃねぇかオォン!?」

「負けてるんじゃない? だってあなた旅先でもしょっちゅう歌ってたし」


 先程まで歌いつつ"ふぁんさ"も大盤振る舞いしてくれていたガーネットがキレながら参加してきた。このアイドルは自分の歌っている番に誰かが席を立つとキレる厄介な性質を持っているのだ。ちなみに今歌っている姉上には信奉者エリィがうっとりと聞き入っているので大丈夫だ。

 そうしてピンクの髪を振り乱し、ガーネットは瞳を三角にしてリゼットを睨む。


「へんっ。箱入りお嬢が浮わつきやがってよ……一回抱かれたくらいで恋人ヅラしないでよねっ」

「恋人ヅラも何も恋人だしご主人様なのよ。そもそも彼氏がいて何回も抱かれてるアイドルがいる方がおかしいのではなくて?」

「ところで実際何の話してるのん?」

「都合が悪くなるとすぐ話逸らすこのセンパイ」

「あはは……えっと、刀花ちゃんが官能小説書く時、いっぱい濡れちゃって困ってるんですって。先輩、何か良い方法ありませんか?」

「にゃるほどね……だが答えは得た。素晴らしい提案をしよう。刀花ちゃん──君もオムツをはく人(オムツァー)にならないか?」

「"も"って言った? このセンパイ、日常的にオムツはいてるの?」

「色々と"捗る"からオススメだゾ☆」

「う~ん……私、妹の矜持として常にミニスカートですので、オムツはちょっと丈的にはみ出ちゃうと申しますか……」

「ワ○メちゃんみたいで可愛いじゃんね? あ、ごめん今のワカ○ちゃんってのは、別にワカメ酒とは何の関係もなくって──」

「誰に対する弁明?」

「兄さんはどう思いますか? 妹のミニスカートからおパンツではなくオムツがチラチラしていたら」

「む? 赤ちゃんのようで可愛らしいと思う」

「──前向きに検討いたします」

「惚れた女のことならなんでも受け入れるドルチェ&ガバ穴野郎がよ」


 罵倒を受ける意味が分からんな! 俺は少女達の全てを愛している──!!

 ふんぞり返っていれば、ガーネットがジュースで喉を潤しつつ「まーまー」とリゼットを宥める。


「あっせんなよ。どうせ数なんてその内に嫌でもこなしてくんだから」

「歌いながらどうやって話聞いてたの」

「歌いながら聞いてたんだよバカチン。アイドルの客席に対する敏感さは対○人レベルぞ? あたし、対魔○の素質あるかもよ?」

「というか『嫌でも』って。嫌なことは普通に嫌なんだけど」

「でも金持ちっていうかお嬢様ってエグい性癖持ってそうだしなぁ……」

「あなた達には負けるわ。詳しくは知らないし耳に入れないようにしてるけど負けるわ」

「どうせ初夜もアブノーマルなことしたから隠してんでしょ? ガーネット知ってるよ」

「はぁっ!? してないわよ! 普通よ! 普通!!」

「実際どうなのダーリン」

「異世界で抱いた時のお前のようだったと伝えよう」

「~っ! ~~~っっっ!!」


 本気で照れた顔でこちらの足を執拗に蹴ってくるガーネットは大変に乙女だ。あの夜は互いの愛を確かめ合う、とてもしっとりとした夜だったからな。


「ああ、しかし……」


 姉上が歌い終わり、エリィもまたこちらに耳を傾け始める中で。

 そういえば、と。マスターが以前言っていたことを俺は思い出していた。


「『他の子にシたこと……私にも全部して』とは言っていたな」

「えっ、つまり姉さんと3ピー(規制音)を!?」

「えっ、つまり街中で首輪つけてワンちゃんみたいな激しい交尾を!?」

「えっ、つまり男子トイレでなおかつ全裸で後ろからねっとり!?」

「えっ、つまり刀花ちゃんと3ピー(規制)するのですか!?」

「えっ、つまりどちらが多く相手を絶頂させたかを競うセックス・バトルを!?」

「えっ、メイド服を着て無理矢理!?」


 俺は悪鬼なのだ。


「あなた達本っ当にサイテー……ん? ちょっと待って。エリィあなた……」

「あ……な、なんでもありません……ヨ?」


 ところで悪鬼がメイドをつまみ食いしたことが今ので露見したようだな。


「ジン?」

「おう」

「私より小さくて金髪の子に手を出すなんて……とりあえず"オーダー"よ。『死になさい』」

「グエー」

「兄さんが死んじゃいました!!」

「この人でなし! いや悪鬼だし吸血鬼だしで最初から人ではないんだけど。まぁいっか、コイツは死んでいいヤツだから……次、歌う人~?☆」

「ご主人様が鎮魂歌を歌ってあげるわ」

「今チ○コっつったか? かーっ、処女を捨てたら貴族のお嬢もすぐこれですよ……あたし達の物語にちじょうも下品になったもんだな」

「いつも通りじゃないの」


 我等の日常は、今日も平常運転だ。

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