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もう姉妹には戻れない  作者: キノハタ
第3章 姉と妹としの

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第31話 姉との帰り道

 「じゃ、お疲れ。また来年な」


 「ではでは、灰琉先輩、黒江、よいお年をー!!」


 そんな八木原姉妹の声に背を押されて、私たちはクリスマスパーティを後にした。


 最後まで元気よく手を振っている琥白に、しばらく手を振り返しながら、はると二人ですっかり暗くなった帰り道を歩いてく。


 ふと見上げた夜空は、真っ黒でどんよりとしていて、吹きさすぶ風は凍えそうなほどに肌を冷やしていく。


 さっきまでの喧騒が嘘みたいに静かになって、なんだか少し現実感がない。


 まあ、色々あったから、脳の処理が追いついてないのかもしれない。生徒会のメンバーに悪い人はいないから、今日のことで立場が悪くなったりとかはないと思うけど……。


 ふぅっと吐き出した息が白く棚引いて、風に流されていく。隣のはるも同じように白い息を吐きながら、手をさすって温めていた。


 「…………」


 「…………くろえ?」


 まだ、八木原家から離れて、そう距離は遠くなってない。他の役員に見られる可能性もゼロじゃない。そんな葛藤を、コンマ数秒だけ抱えたけれど。


 まあ、今更かと、息を吐き直して、はるの方にそっと手を伸ばす。


 ぱくぱくと、何かを期待する様に、その手を軽く開いてみる。


 はるはしばらく、私の手をぼんやりと眺めていたけど、やがてくすっと笑うとその手をそっと取ってくれた。仕方ないなあとでも言うように。


 冬の風で、凍えて仕方なかった指が、ほんのりと温かくなる。


 「寒いからね」


 眼を閉じて、その温かさを感じながら、そうぼやいたら。


 「そうだね、寒いからね」


 はるはくすくすと笑いながら、ぎゅっと私の手を握り返した。


 ごうごうと夜風が私たちの身体を薙いでいく。コート越しでも段々と体温は奪われてる。現に握ったはるの手は、繋いでる部分こそ温かいけど、それ以外の所は酷く冷たい。


 こんな寒い夜は、早く帰ってしまおう。風邪を引いてしまうから。


 そう想って少し足を急かしかけたけど。ふっとポケットに入れておいた小包に指が触れる。


 …………無理に今、渡す意味はない。帰ってからでも、別に構わない。


 でも、なんとなく、今、渡したくなった。


 非合理的だね、我ながら。でも別にいいかと、そう想う気持ちも同時にある。


 だって、クリスマスの夜だもの。


 こんな夜ぐらい些細な幻想(ゆめ)を見たって、罰も当たりはしないだろう。


 「ねえ、はる」


 「なあに、くろえ」


 ぎゅっとあなたの手を握りながら、空を見た。雲ばかりで、真っ暗な、そんな夜空を。


 「ちょっとだけ……寄り道していい?」


 そんな私の言葉に、あなたは静かに頷いてた。






 ※






 白い息を吐きながら、小さな丘の階段を昇ってく。暗くて危ないけど、幸い微かな街灯が私たちの足元を照らしてく。


 凍えるような寒さと、少し歩いた熱で、頬が少し火照った感じがする。


 最後の一段に、二人揃って足をかけて、軽く周囲を見回した。


 丘の上の小さな公園は、他に誰もいない。こんな凍えた夜だもの、そりゃそうだよね。


 小さな街灯に照らされたベンチに、二人一緒に腰掛ける。寒さから身を護るように、肩を寄せ合って。


 「ふぅ……さすがに、ちょっと疲れたね」


 「あはは……だね。……でもくろえが疲れてるの珍しいかも」


 言いながらはるは、どこか楽しそうに笑ってた。私は思わず、そんなはるを細めた横目でじっと見る。


 「誰のせいだと思ってるの……?」


 「…………うっ、まあ、私のせいですね。……はい、ごめんなさい」


 はるはそう言って、すごすごと肩をすぼめて小さくなる。まあ、そこまで怒ってはいないけど、そんな姿を見ていると少しだけ溜飲は下がる。


 頭を傾けて、重み少しあなたの方に預けながら、私ははあと一つ息を吐く。


 「王様ゲームの時は、ほんっと、焦ったから」


 「あはは…………」


 隣から力ない笑みが漏れてくる。大人げないけど、今日は愚痴っても許されると思う。


 「まさか、はるが、あんなSM趣味だとは思わなかった。いつのまに、そんなキャラになってたの?」


 「いやぁ……、あの時は、ちょっと自分でもテンションがおかしかったといいますか……。溢れるお姉ちゃん欲が抑えきれなかったといいますか……えっと」


 貯まったもやもやの分だけ、問い詰めてみるけれど、はるは気まずそうに視線を逸らすばかり。指はもじもじと所在なさげに擦られていて、あの時の威厳は見る影もない。


 「あーあ、冬休み明けたら噂されちゃうなー。副会長は、夜な夜なお姉ちゃんにSMプレイさせられてるって。困ったなー、どうしよっかなー」


 「あう……あう……」


 当てつけのようにそう言ってみると、みるみるうちにはるは涙目になっていく。なんとか謝ろうとしてるのか、震えて私の方を見てるけど、あえて目は合わせてあげない。今日は一杯振り回されたもの、これくらいはいいでしょう。


 ただしばらくそうやって、つーんと拗ねるふりをしていたら、隣のはるが本気で泣きそうになってしまった。……まあ、これくらいが限度かな。


 「………………ふぅ」


 「ご、ごめんね、くろえ…………。な、何でもするから許して…………」


 ……そういう安請け合いは身を滅ぼすよと、お説教したいとこだけど。今回の寄り道の本題はそこじゃないので、ぐっと我慢する。


 「…………いいよ、まあ、結果的に悪い感じにはならなかったし」


 改めて、生徒会のメンバーが善人ばかり良かったとそう思う。あそこに、ちょっとでも悪意が混じってる人間がいたらまずかった。


 まあ、白乃さんがそういう人を選んで集めたんだろうけどさ。……肝心の白乃さんが、善人かは置いといて。


 「うう……ごめんねホントに……」


 そうやって、すっかりとしょげ倒してるはるに、私は軽く息を吐きながら、ぼすっと体重をあえて重めに預ける。


 「別にいーよ、気にしてないから」


 言いながら、自分でも子どもっぽい声になってるなと思う。


 「…………声が、怒ってるじゃん」


 案の定、はるはまだしょげた感じで、そんな私にされるがままだ。


 「怒ってないし、怒ってるとしたら、そこじゃあないし」


 「ぐうぅ……妹心が難解すぎる……」


 ぐりぐりと頭の頭頂部を、はるの身体にドリルのように擦り続ける。実は、ちょっと楽しくなってるのは内緒。


 「主導権取られて悔しいとかないし、本当は私も王様したかったのにとか、絶対ないから。拗ねても怒ってもいませんよーだ」


 我ながら、言ってることが幼児みたいで、滅茶苦茶だな。琥白に見られたら一生ネタにされそうだ。


 「…………もしかしなくても、そっちが本心?」


 はるも、段々おかしいと感じ出したのか、むむっと眉根が寄せられてる。


 私は思わずくすっと笑って、そのまま頭ドリルを続行する。


 「さあ? どーだろね?」


 「………………むむむ」


 ただ、これ以上やっても仕方ないかと、すっと頭をはるから離してにっと微笑む。胸の中に溜まっていた、わだかまりや不満は、たったこれだけで風に流されるように消えてしまった。


 「ふふふ」


 そんな私にはるは、軽く肩を落として、諦めたように息を吐く。


 「わかった、こーさん。どうやったら、機嫌治る?」


 言いながら言葉通り、はるの両の手がひらひらとあげられる。私はそんな姿に微笑んで、眼を閉じて、そっと首を傾げた。


 「別に機嫌損ねてないけど……そーだなあ。……『続き』をしてくれたら、治るかも」


 我ながら、滅茶苦茶言ってる自覚はある。外で副会長してる時は、絶対誰にもこんな理不尽なことは言わない。


 でもまあ、今はどうせ、はるしか見てないし。


 クリスマスだもの、これくらいの甘えは許してくれるよね?


 ちらっと片目を開けて、はるの方を窺うと、顔を赤らめながら少したじろいでいるようだった。


 ふむ、まあ今まで私からキスしたことは何度もあるけど。はるからしてもらったことはないもんね。


 私達の関係も、私側からの性的な好意は示したけど、はるの気持ちはまだ何も聞いてない。


 ただ、結局は王様ゲームと一緒だ。こういう遊びは暗黙のルールで、本当に嫌がることは絶対にしてはいけない。


 そんなことはわかってる。このおねだりも、はるが嫌がるならすぐに止めたってかまわない。


 でも、なんでだろうか。


 眼を閉じると、ごうごうと丘の上を吹く冬風の音がする。後聞こえるのは、あなたが傍で、微かに身じろぎする衣擦れの音だけ。


 根拠はない、ただの直感。


 それでも、揺るぎない確信が胸の中にある。


 顎を少しだけ、あなたの側に向けて、餌を待つ小鳥のように唇をそっと差し出す。


 凍える夜風が、その唇の先から、体温と湿り気を徐々に奪ってく。


 それでも待つ、あなたの心の準備ができるまで。


 そう、時間はかからない。


 どうしてか、それを知っているから。


 胸の奥で、期待が熱を持って震えだす。


 口の中に溜まった、甘い唾液を、そっと喉の奥に流し込む。


 その瞬間に、ごうっと風が、一際強く吹いた。


 その音が、あなたの身じろぎの音を隠してしまう。



 でも。



 なんでだろう、わかってしまった。



 それが触れる、その前から。



 ほのかに暖かくて。



 いつもより、少しだけかさついて。



 それでも確かな柔らかさを持った何かが。



 そっと、私の唇に蓋をした。



 眼を閉じたまま、その感触をただ味わう。



 胸の奥でとくんと静かに鼓動が鳴った。



 冬の風が吹いている。凍えるような、震えるような、そんな風が。



 なのに、その全てが、今は遠くて。



 眼を閉じたまま、私はただ感じてた。



 あなたがくれる、この安心を。



 甘えるように、その甘い触感を。



 凍える様な夜空の下、二人っきりで。



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