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もう姉妹には戻れない  作者: キノハタ
第3章 姉と妹としの

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第30話 妹とプレゼント交換

 「では! 琥白、引きます!! とりゃ!!」


 「おう、掛け声の割にちっこいの出たな。誰のだー、このプレゼント」


 「あー、私ですね」


 「黒江?! ねえ、中身何これ?」


 「それなりに高くて、すっごく書きやすい、シャーペン」


 「それなりに高くて、すっごく書きやすい、シャーペン…………」


 意気揚々とプレゼントの封を開けた琥白ちゃんが、みんなの前で木目調のシャーペンをじっと見つめてる。


 そして、白乃さんが適当に出した紙に、シャーペンを滑らせておお……っと声を漏らしてた。書き心地が違うのだろうか。


 しかし、くろえらしいプレゼントで、琥白ちゃんっぽい反応だね。


 そのまましばらく、シャーペンを無言で滑らせる琥白ちゃんを尻目に、白乃さんは続きの番号を読み上げていく。


 っていっても、もうあと黒江と白乃さんしか、残ってないけど。


 「それにしても会長、副会長で、びりっけつ争いとはなー」


 「はは、でも二人とも運悪いのなんか解釈一致だわ。運よりも実力派だもんね」


 「んんー……」


 そんな役員たちの野次を受けながら、二人で、もう残り少ない番号を淡々と埋めていく。


 今のところ、白乃さんがダブルリーチで、くろえは穴こそ一杯開いてるけど、不思議とリーチになってない。


 「はい、次、43番。……うーん、一個開いたが、そこじゃないんだよなあ」


 「くろえは開いた?」


 「…………外れ」


 ちらっと隣のくろえのカードを覗き込むけど、本当にびっくりするくらい綺麗に呼ばれた番号が避けられている。それを睨むくろえの顔も、珍しくちょっと不満そうというか。意外と負けず嫌いだもんねえ。


 よしよしと、慰めに頭を撫でたら、ちょっと拗ねたように口を尖らせられてしまった。あらあら、副会長殿は、ご機嫌斜めだ。


 ただ、そんな反応すら面白いのか、周りのみんなはどこか微笑まし気に私達を見ている。こういう子どもっぽい部分も、あんまり見せてなかったのかなあ。


 そう考えながら、ふっと思い出したのは部会の光景。上級生相手に一歩も引くどころか、むしろ言いくるめるくらいの勢いで、渡り合っていたあの姿。……まあ、あれがデフォルトだと、こういう姿は珍しいよね。


 くろえは、いつも誰よりも『特別』で、誰よりも頑張っている。


 そんな姿は、もちろん姉として、とても誇らしい物ではあるけれど。


 出来るのなら、こういう側面も、みんなには知って欲しいと思う。これだけ素敵な妹の、一層可愛い部分だもの。広めないと勿体ないでしょう?


 そんな想いに、嘘は一つもないのだけれど。


 少しだけ、胸の奥にしこりがあるのも確かだった。


 思わず、くろえを撫でていた手が、ぴたっと止まる。くろえの視線が、少し不思議そうに私に向いた。


 「はい、次は……56番。トリプルリーチ! いや、逆に運悪くないかこれ」


 「おー、黒江はー?」


 でも、八木原姉妹のそんな声で、視線がすっと私から逸れる。


 「え? ああ……、開いた。リーチだね」


 おっ、と周りの空気が少し期待にざわつく。やいやいと笑い声混じりの雑音が、部屋の空気を満たしていく。


 そんな空気の中、私はそっと膝を抱いて、少しだけ目を閉じる。


 胸の奥で、じわりと染みのように広がる感触だけ、感じたまま。


 くろえが皆に受け入れられるのは、嬉しい。嘘じゃない。


 くろえの弱い部分、可愛い部分を知ってもらえるのも、嬉しい。それも嘘じゃない。


 ただ、少しだけ想うことがあるとするのならば―――。


 膝に顔をうずめたまま、ちらりと隣のくろえの顔を窺う。その横顔が、唇が、つい少し前まで私に傅いていた事実が、私の胸の中のざわつきを強くする。


 わかってる、独り善がりなのは。


 くろえに答えを待たせているのに、こんなことを想うのがずるいのも。


 でも―――。


 すっとその横顔に指を伸ばした。柔らかくて、少し冷たいその頬を、そっとなぞるように優しく撫でる。


 気付いたくろえが、少し不思議そうに私のことを窺うけれど、私はそっと首を横に振る。


 なんでもないよと、そう告げるように。


 そんな瞬間に、白乃さんがまた番号を口にする。


 「次ー、64。……えーと、ない!」


 「あ……あった」


 そんな声と同時に、くろえのカードに最後の穴が開く。周りがざわっとざわついて、やっとだなーと騒ぎだす。


 これで、くろえがプレゼントを選べば、残りは自動的にしのさんのものになる。それでこのプレゼント交換はおしまいだ。


 そして、後選ばれていないのは確か、柿崎さんのプレゼントと……私のプレゼント。


 プレゼント交換だもの、誰の手にわたってもいいものを選んだ。値段の上限も決まってたし、そんなに大したものじゃない。


 そんなことわかってる。それでも頭の奥で、何かに急かされているような感じがした。


 まるでいたずらを思いついてしまった子どもみたいに、心臓が微かに跳ねている。


 だから、立ち上がる君に一瞬だけ顔を寄せて、他のみんなに聞こえないくらいの小さな声で、そっと囁いた。



 ―――手のひらくらいの小さな箱。



 立ち上がりかけたくろえは、一瞬だけ身体を止めたけど、そのまま何食わぬ顔でみんなの前に出た。そんな後姿を、私はぼんやりと眺める。


 「うし、じゃあ、黒江。ちゃっちゃっと引いてくれ。残りが私のだかんな」


 「はいはい、じゃあ引きますよ」


 白乃さんとそんな、軽いやり取りを交わして、くろえはそっと、まだ膨らんでいる袋の中に手を入れる。そして軽く中をまさぐって、すっと何気なくプレゼントを取り出した。


 その手の中にあるのは、手のひらくらいの、小さくラッピングされた箱。


 私が、用意した、プレゼント。


 くろえはそれを素知らぬ顔で、さっとみんなに見せる。


 白乃さんは軽く微笑んで、ちらっと私の方を見た。


 「で、このプレゼント誰のだー? 柿崎か? 灰琉か?」


 うーん、もしかしなくてもバレてるかもしれないけど、私はそそっと小さく手を上げる。他のみんなはおおー、と軽く声を上げているだけだ。不審に思われたりしてないよね……。


 「私です……えっと、黒猫のマグカップです」


 「ん、ありがと、はる」


 くろえはそのまま、何食わぬ顔で小さく頷いた。


 もちろん、くろえに送るつもりで買ったプレゼントではないのだけれど、やっててなんだか出来過ぎなような気もしてくる。


 ただ、そんな懸念を感じる暇もなく、白乃さんがぱっと最後のプレゼントを袋から取り出していた。中から出てきたのは、両手で抱えるほどの大きな包み。


 「てなると……これは柿崎か。で、なんだこれ?」


 「え? そりゃあ……うまい棒詰め合わせだよ。設定金額限界分の」


 「でっっっっか」


 「んん~…………」


 「おう……さては生徒会室のおやつ用だなこれ?」


 「くそう、バレたか」

 

 なんて談笑に部屋の中が少しざわつく。


 それを見ながら、私は思わず頬を軽く掻く。


 あんなに大きいのが残ってたら、私のプレゼントをわざわざ耳打ちしなくてもわかったかな……。いやでも、それだとくろえが引いてくれるかわからないし……。


 なんて思考をしていたら、くろえがすっと隣に戻って来ていた。そして、私の頭にプレゼントの箱をこつんと軽く乗せながら、そのまま腰を下ろした。


 しばらくみんなが騒ぐ中を、二人で目配せしながら、軽く微笑み合う。


 そんな私の胸の中には、今、矛盾した心がある。


 くろえのことを、みんなに知って受け容れて欲しいという気持ち。


 そして―――そんな、くろえを誰にも知られずに隠してしまいたいという気持ち。


 この気持ちの名前は、なんと言うのだろう。


 改めて問わなくても、答えは出ている気もするけれど。


 少しだけ目線を伏せて、誰にも見えないよう、後ろに置かれた君の手に、そっと私の指を伸ばした。


 ざわざわとざわめきを残しながら、長いようで、短いようだったクリスマスパーティは終わってく。そんな最後の喧騒から、少しだけ離れた場所で。


 私は誰にも知られずに。


 人差し指を、君の指へと、そっと絡める。


 そしたら、少し冷たいの君の指が、私の指にゆっくりと絡め返される。


 そんな感触を味わいながら、喧騒の中、私は瞼を少し降ろした。


 胸の中に沸いた想いの意味を、その指先で探すみたいに。


 じっと、じっと。

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