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もう姉妹には戻れない  作者: キノハタ
第3章 姉と妹としの

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30/40

閑話 しのは舌を巻く

 羊宮 黒江という後輩は、端的に言うなら「異常に大人の振りが上手い子ども」だ。


 人の感情を手玉に取って、利害と論理で、望む結果をいとも簡単に手に入れる。


 要領もいい、見栄えもいい、そのくせ出来る奴特有の、鼻に付く感じもない。


 特別とか、完璧とか、そう周りが持て囃すのも頷ける。直下の贔屓目抜きでも、間違いなく私が見てきた中で一番出来た人間だ。


 ただ、そんな完璧な奴が、妙に子どもっぽくなる瞬間がある。


 仮面が剥がれるというんだろうか。わかりやすく動揺したり、感情がもろに出たり、いつものこいつなら簡単に答えを出すようなことで、うじうじと悩んだりする時がある。


 初めは、妙に落ち着かない日があったから、どうしたんだって聞いたんだっけ。


 返ってきた答えは、姉と些細なことで喧嘩したとかなんとか。


 話を聞いても、いつもの黒江なら、あっというまに解決しそうな話だった。確か、灰琉の誕生日の夕飯を何にするかとかじゃなかったか。


 適当に話を聞いて、さっさと謝れと促して。次の日、顔を合わせてみたら、子どもみたいに喜んでいたっけな。ちゃんと仲直り出来たって。


 その日は、ご機嫌なあいつの仕事が早すぎて、役員全員でUNOをするくらいしかやることがなかった。


 それからも、偶に調子が良かったり悪かったりする日は、よくよく聞いてみれば大体姉絡みの話だった。


 姉に褒められたから調子がいい、姉に叱られたから落ち込んでる、姉と遊びに行く予定が出来たから今日の予定はすぐ終わらす……とかとか。


 別にそれが、露骨に見えてるわけじゃない。よくよく観察したら、わかるくらいのそんな差でしかない。事実、私以外の役員は別に気付いていなかった。


 黒江自身も、そんな自分のことをよく把握していて、動揺してる時こそ意図的に冷静に振舞っているようだった。


 そういう本心を隠す上手さは、天性の物なんだろうな。自分が他人にどういう風に見られているか、それをどうすればコントロールできるか直感で理解している。


 だからこそ、内面の子どもっぽさは成長することなく、隠し通されてしまったのかもしれないが。


 そんなだから、私には時折このよく出来た後輩が、随分と危うく見えた。


 全てを理解している、全てを見通している、自分も、他人も。


 だからこそ、偶に人を使い捨ての駒のように見ている時がある。


 どうすれば、操れて、どうすれば、潰せるか。全て解ってしまうから。


 そして、そんな大層な力を、内面の幼さを抑えこんだまま振るっている。


 危うい……といより、今、皆に慕われる副会長なんてしてるのが奇跡に近い。


 一歩間違えれば、簡単に詐欺師にでも、独裁者にでもなれただろう。


 よくそんな性質で、増長せず、人を人とも思わない何かにならず、まっとうに成長してきたものだと、いつも感心していたわけだけど。



 なるほど―――と、思った。


 

 「ほら、くろえ―――」



 「傅いて―――」



 灰琉は同級生の中では、大人しくて目立たないほうだ。自己主張が乏しく、グループにも上手く混ざれない。書く小説は好みだが、それだけで内面を推し量れるものじゃない。


 何があの黒江をそこまで、惹きつけているのか、ずっと気になってはいた。


 だから、今回のパーティ少し焚きつけてみようと思った。


 まあ他にも狙いはあったが、何より、あの完璧な黒江をただの子どもに戻すような何かを。灰琉がどこに秘めているのかと、少し期待はしていたんだが。


 

 「王様の命令は絶対でしょ?」



 「ほら、おいで。くろえ」



 これは……とんだ、眠れる女王を起こしたかな?


 さっきまで臆病に震えていた姿は、もう見る影もなく。迷いも、惑いも、何もない視線で、灰琉はまっすぐと黒江のことだけを見つめてる。


 ちらりと隣の後輩の顔を窺う。


 そこにいたのは、完璧な副会長でも、特別に大人びた誰かでもなく。


 ただ年相応に……いやそれ以上に、幼く不安げな表情を浮かべた子どもがいるだけだった。


 なるほど、ともう一度理解する。


 この姉妹の歪で、それでいて深く根の底まで、結びつきあったような関係性を。


 それと同時に、内心軽く舌を出す。


 どうみても『普通』の姉妹、じゃないだろ、これ。


 そんな私の思惑なんぞ、知る由もないこはくや役員たちは。


 ただ、唖然と羊宮姉妹を、見守ることしか出来ないでいた。


 そして、誰もが声の一つも出せない中。



 「おいで―――大丈夫だから」



 灰琉だけが、淀みなく、黒江に語りかけていた。

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