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もう姉妹には戻れない  作者: キノハタ
第3章 姉と妹としの

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第25話 姉と王様ゲーム

 「よーし、全員取ったな? 次の王様だーれだ?」


 「あ! ……私です!」


 「お、琥白ちゃんか。うしし、じゃあ、命令なんにする?」


 「こ、琥白ちゃん……頑張って!」


 「えーとですね。じゃあ……5番と3番で……ハグで!! ロマンスたっぷりでお願いします!!」


 「お、俺だ5番。……ていうかハグか、これ相手女子だった場合まずくね?」


 「あ、そっか。もしかして、私やっちゃった……?」


 「大丈夫、その心配はないわ、ザキ。だって3番、木瀬だから」


 「ん…………」


 「そうか、やるぞ! 木瀬……!」


 「んー…………!」


 「なんか無駄に熱いわね」


 「ロマンス!? いや、……本当にロマンスですかこれ?」


 「あはは……どうだろ……」


 そうやって生徒会男子の熱い抱擁を、みんなできゃーきゃーいって囲いながら、パーティはつつがなく進んでく。


 最初ははるも少し距離があったけど、なんやかんや、馴染めてるみたいで良かった。そこらへんまあ、白乃さんの仕込みと、役員たちの人懐っこさのなせる技かな。


 壁に背を預けて、そんな様子をぼんやりと眺めていたら、隣にすっと人影が差す。


 意地の悪い表情の上司をちらりと眺めて、まだきゃーきゃーいってる皆には聞こえないよう、小声で口を開いた。


 「で、どういうつもりですか? 白乃さん」


 そんな私の言葉に、白乃さんはコーラを啜りながら、軽く肩をすくめる。


 「んー? 何が?」


 解りきってる癖に、あえてすっとぼける様に、思わず軽くため息を吐く。


 「わざわざイカサマしてまで、私らにキスさせようとしたことですよ」


 言いながらちらっと、手の中にあるトランプを裏返す。ハートの2と書かれたそのカードは裏面の模様に、小さく時計が映ってて、文字盤は2の位置を示してる。これで相手が何を引いたかわかる、よくある手品用のトランプだ。13は針がないとかそういうのかな。


 「なんだ、バレてたか。……まあ、お前なら気づくか」


 いいながら白乃さんは、もう一枚のトランプのカードを、みんなに見えないよう手首からこっそり出した。ああ、あれとジョーカーを交換してたわけね。


 「でないと、あんなピンポイントで私らにキスさせられるわけないでしょ。で、どういう意図ですか?」


 私らの関係を衆目に晒したかったんだろうか。愉快犯ではあるけど、そういう趣味の悪いことはあまりしない人だと思ってたけど。


 「別にー、どれくらい進展したかなと思ってさ。思ったより受け容れられてるみたいで、よかったじゃないか」


 そう言って白乃さん、どこか意地の悪い笑みで、私のことを見つめてくる。私は軽く目線を逸らしながら、この上司の察しの良さに多少辟易する。


 「はるが、受け容れてるように見えましたか?」


 言いながら、瞼の裏にさっきのはるの、どこか期待するような顔が浮かんでくる。どこか潤んだ眼元と、差し出されていた唇。しまったな、これは墓穴掘ったかも。


 「あの物欲しそうな表情で、拒絶してるは無理があるだろ?」


 案の定、したり顔で窘められてしまった。思わず舌打ちしそうになったのを、そっと抑える。


 「まあ、()()はそれなりに調教したんで」


 しかし、我ながら、姉に対して出る発言とは思えない。


 「おおう……、身体はねえ。心は?」


 しのさんも、呆れたように目線を細める。


 「それが出来たら苦労しません」


 そんなことが出来てしまえば、この胸に残る淀みも少しはマシになってただろうか。ただ残念ながら、はるはいつだって私なんかの思い通りにはなってくれない。


 「ふーん……」


 ただ、まあ。


 「でも、答えは探してくれるらしいんで」


 そう言いながら、この前、放課後にはるが告げてくれた言葉を想い出す。


 すぐに答えは出ないといった。それでも探してくれるといった。


 私の想いを聞いてくれた。


 今は、それでいい。


 そうやって息をふぅっと吐く私を、しのさんはどこか興味深そうに眺めてた。


 「……もしかして、告ったか?」


 相変わらず、言語化してないとこまで、平気で拾うなこの人は。


 「まあ、一応……。ちゃんとした返事は貰ってないですけどね」


 どうせ隠しても、勝手に妄想されるだけだろうから、いっそあけすけに事実を伝える。


 ただ、そうしていると、何故か白乃さんの手が私の頭にぽんっと乗せられた。


 そして、そのままよしよしとどこか大雑把に撫でられる。はるのそれより、だいぶ粗雑なその手を、私は疑問符を浮かべて眺めることしか出来ない。


 ………………どういうつもりだろう?


 「いやあ、よかったなと思ってさ。とりあえず、一歩進めたんだろ?」


 「一歩ていうか、答えはまだ出てないんで。多分、半歩くらいですけど」


 これが進展だという保証も別にない。ただ白乃さんは機嫌よさそうに、にぃっと笑ってた。


 「充分だろ、お前ら結構、拗れてたから。むしろちょっと安心したよ。ちゃんと進めてるんだな」


 「…………まあ大半、琥白のお陰ですけどね」


 あのやり取りも、お膳立てはほとんど琥白がしてくれてたし。


 「だとしてもさ、口に出来たのはお前だろ。頑張ったなら、ちゃんと自分で褒めとかないと、いざって時にちゃんと自分を信じてやれないぞ?」


 だけど、白乃さんは、どこか満足そうに私のことを見つめてくる。どこか慈しむような、私たちの進展を本当に喜んでいるような瞳をして。……こういう所は、この人も姉なんだなと偶に思い知らされる。


 そして、はるといい、この人といい。こうやって喋っていると、普段の自分がいかに大人のふりをしているだけなのか見せつけられた気分になる。


 そのせいか、そこからは年上にぼやく子どもみたいなやり取りが続いてしまった。


 「まあ……善処はしますよ」


 「そうしとけ。ていうか、あんま拗れてないみたいでよかったよ」


 「私達言うほど、拗れてました……?」


 「自覚ないんか……。私はワンチャン、こいつら駆け落ちでもするんじゃないかと思ってたよ」


 「…………まっさかあ」


 「おい、ちゃんと眼を見て返事しろ」


 「しませんよ……そんなこと」


 「信用ならねー……」


 「…………」


 そうやってぼやきながら、ぼんやりとみんなの中で、まだわいわいしているはるをじっと見る。


 はると私の関係は、これからどうなっていくんだろう。


 いくら気持ちを伝えても、現実的な問題は何も解決していない。


 女同士で、姉妹同士で。そんなもの気持ち悪いと誰かに言われた時、返せる言葉は何もない。


 そうでなくても、はるが私を受け容れてくれる保証もない。


 そして、きっとどんな答えを出しても、傷つくのは誰よりもはるの心だ。


 そんな残酷な事実を、私は本当に受け入れられるんだろうか。


 言葉を告げても、不安は残る。どころか、新しい不安は、また気づいたら湧き出してくる。


 際限なく、止め処なく。


 それでもはると一緒ならと、信じることしか、今の私にはできないけれど。


 「お前はもうちょっと、愛されてる自覚持った方がいいと思うぞ?」


 そうやってぼんやり考えていたら、白乃さんはどこか呆れた視線を私に向けていた。


 「誰からですか?」


 口から漏れた言葉は、少し渇いてる。後で何か飲もうかな。


 「そりゃあ灰琉から。あとはまあ、琥白とか他の役員の連中から」


 「白乃さんは?」


 「ん? まあ、私も気に入ってるよ。……って言わせんな恥ずかしい」


 「自分で、愛されてるがどうのとか言い出したんじゃないですか……」


 そうやって二人で曖昧にぼやき続ける。


 愛されている……か。それはきっとそうなのだと思うけど。


 「妹としてですよ」


 「ふーん」


 「あと皆は副会長としてでしょ」


 「琥白は?」


 「琥白はまあ、友人としてでしょ。あの子は、根が普通に良い子なので」


 そんな私の答えに、白乃さんは軽く肩をすくめた。仕方ない奴だなとでもいうように。


 「お前らは、もうちょっと素直になれば、いいだけだと想うけどな?」


 私もそんな答えに、そっと軽く肩をすくめ返した。


 「それが出来ないから、苦労してるんでしょ」


 10年という時間で積み重ねてきた関係は、二つの樹木の根が絡み合うように、深く複雑に、際限なく折り重なってしまったものだ。


 愛しているのに、伝えられなくて。


 近くにいるのに、触れあえなくて。


 求めているのに、一つになれない。


 そんなのが結局、今の私とはるの関係だ。


 面倒くさいって言われたら、自信をもって頷き返してしまう。


 「難儀だなあ……」


 案の定しのさんも、困ったように苦笑いを浮かべてた。


 そう難儀なんですよ、私達。


 そうやって話していたら、ちらっとこっちを見たはると目が合った。


 少し疲れたような表情をしているのは、久しぶりに人との関わりがあったからかな。今日はいつもの三倍くらい人と喋るの頑張ってるから、当然って感じもするけどね。


 そんな、どことなく覚束ない足取りのはるは、ふらふらとこっちに歩み寄ってくると、じっと私の方を見上げだす。


 それからちらっと、隣に居る白乃さんの方を見た。


 なんだか……珍しく、少し剣呑な表情で。


 普段あまり見ないそんな顔に、白乃さんと二人して、少し首をかしげていると。


 ぽんっと、私の頭の上に、はるの手が乗った。


 ……………………んー、これは。


 柔らかくて、優しいはるの手が、よしよしと私の頭を撫でていく。


 髪の毛の一すじまで労わるように、ゆっくりとなぞられていく。


 それだけで、胸の奥のこわばりが溶けていく。さっきまで抱えていた懊悩が、一つ一つ解かれていくように。


 嬉しいのだけど、どういう意図で撫でられているんだろう。


 少し不思議に思って、はるの表情を見てみると、どうしてか微かに怒っているようにも見えた。…………怒りながら、褒めてるの?


 「…………はる?」


 そうやって聞いてみるけど、何故だか口は一文字に結ばれて、さっぱり返事が返ってこない。


 その間にも、私の頭は優しく撫でられているばかり。


 なんでだろう、わからないね。


 わからないけど、悪い気がしないのも困りどころだ。


 そのまま、言葉の一つもないままに、しばらく私ははるに撫でられ続けた。


 そんな私たちを、白乃さんはどこかしたり顔で眺めてた。


 「愛されてんねえ……」


 「……ですかね」


 「………………むー」


 そんなやり取りをしていると、はるは何故だかさらに不機嫌になってしまって。


 そうしてまた、どこか当てつけのように、頭は優しく撫でまわされる。


 一体、どういうことなんだろね……。


 わからないけど、まあ、いっか。


 そんなことを想いながら、私は甘んじて撫でられ続けてた。


 あなたにこうされている間は、不思議と不安を感じないから。


 今日もまたうちの姉の行動は、予測が出来ません。


 まあ、そこがいいんだけどね。

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