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もう姉妹には戻れない  作者: キノハタ
第3章 姉と妹としの

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第20話 妹とクリパの誘い―①

 人に恋をするって、どういうこと?

 

 『私ははるのこと好きなわけじゃん、性的な意味で』


 自室に戻って、電気もつけずに枕にぼふんと顔をうずめて、考える。


 『で、はるの身体に見るところがあるかどうか、って話だっけ……?』


 くろえの言葉を、頭の中で漫然と反芻する。


 『―――あるよ、一杯ある。隅から隅まで、舐めまわしたいくらいにあるよ』


 小説や物語の中のことならわかる。些細なきっかけでその人のことが気になって、段々と想いが募って、心が身体がその人のことを求めだす。甘く、熱い、胸が蕩けそうになるような、そんな想い。


 それはわかる。拙いけれど、自分で書いたこともある。想像するだけで頭が熱くなって、喉の奥が焼けてしまいそうな想いだった。


 でも、それはあくまでも物語の中に過ぎなくて。


 現実の、このみっともなくてちっぽけな私に、誰かが恋をしているという事実を、心が上手く理解してくれない。


 しかも、あの誰より完璧で、誰からも好かれている、自慢の妹の―――あのくろえが。


 あるわけがないと思う。そっちのほうが自然に思う。


 逆はあっても、私が恋をされる理由がない。


 だから、理解が出来ない。


 なのに―――。


 『好きだよ―――はる』


 わからない、向き合おうと思えば想うほど、何かが掛け違っているような気がしてくる。


 『私は、はるに―――ずっと恋をしていたの』


 わからないのに、思い返せば思い返すほど、胸の中で心臓はバクバクと脈打ち続ける。


 そもそもさっきだって、私なんであんな必死になってたんだろう。くろえが言ってることの方が正しくて、それなのにあんな意固地になって。どうしてあそこまで、くろえに距離を置かれるのが嫌だったんだろう。


 しかも、あの時どうしてか―――。


 『それとも誘ってるの? 無理矢理されるのが好み? もしそうなら、期待に応えてもいいんだけれど―――』


 胸が信じられない程、高鳴った。頬が焼けてしまいそうなほどに、熱くなった。


 心の中に、何か今まで感じたことのない、蕩けるような何かを感じた。


 ……………………。


 なんとなく、指が身体に伸びていく。


 くろえが触った場所を、そっとなぞっていくように。


 耳に息が吹きかけられて、くすぐったかった。


 首筋をそっと優しくなぞられて、ぞわぞわした。


 手がゆっくり抑えつけられて、身体が震えだしそうだった。


 それから、それから―――。


 くろえの、指が。


 鎖骨をなぞって。


 その下に。


 ……………………。


 ちらっと、その場所を自分で覗いてみる。


 寝間着の中、キャミソールの下、暗がりの中の肌色を。


 貧相だと、我ながら思う。少し脂肪はついて、膨らんでるけど、くろえみたいに綺麗じゃないし。スタイルもよくないから、なんだかちんちくりんで子どもっぽい。


 こんな身体に誰が魅力を感じるのだろう。


 『でないと、ホントに襲われても知らないよ?』


 誰が―――。


 だけど、瞼を閉じたら蘇るのは、くろえのどこか熱に浮かされたような、蕩けた視線と紅潮した頬。いつも、落ち着いて静かに細められている、熱に浮かされたように滲んだ眼差し。


 指を伸ばして、そっとなぞっていく。


 もし、あの時、くろえが指を止めなかったら。


 鎖骨から下にゆっくりとなぞっていくと、やがて境が訪れる。


 肋骨の上、皮膚の下、確かに柔らかなふくらみがそこにある。


 ここから先を、くろえがもし触っていたら。


 私は、どんな気持ちだったのだろう。


 指がゆっくりと降りていく、くろえが触らなかったその場所を。


 指が少し沈んで、神経が指の先へぎゅっと詰まったみたいに、さわさわと甘くじんわりなぞられていく。


 漏れた吐息が音を出しかけて、そっと口を噤んだ。


 もし、万が一、くろえに聞かれたら……。そう想ったから。


 抑え込んだ息を堪えながら、ゆっくりと身体をなぞる指が止まらない。


 もし、この指がくろえだったら。私は何を感じるんだろう。


 もし、くろえがそういう意思を持って触った時に、私はどんな声を出すんだろう。


 そもそも、触れることを許すのだろうか。


 わからない。でも頭の奥は熱でどろどろに溶けたみたいに、皮膚の感触と止まらない妄想に染まってく。


 「……………………っ…………ぁ」


 声にならない息が、暗い部屋の中で、微かに漏れる。


 熱くて、甘くて、なのにどこか切なくて。


 この感触に、一体何の意味があるんだろう。


 わからない。


 許されていいはずがない、そう想いはするのだけれど。


 なのに、瞼を閉じた先に浮かんでいるのは、細くて綺麗なくろえの瞳。


 そして、熱で溶けそうな私の身体を、そっと撫ぜる冷たい指の柔らかさ。


 ―――そんな資格ないはずなのに。


 そんなことを想いながら。


 冬の夜はゆっくりと更けていく。


 誰にも言えない、許されるはずのない、妄想の湖に耽ったまま。


 その全てを、暗い部屋と胸の内側に隠してながら。


 私は、眼を閉じていて。


 くろえのことを、想ってた。








 ※







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