表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もう姉妹には戻れない  作者: キノハタ
第2章 姉と妹とこはく

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/37

第17話 妹にキスされる

 くろえの気持ちに、私にはまだ答えが出せない。


 この関係が正しいのかもわからない。


 ただ求められていると想うと、どうしてか、少し身体がふわふわする。


 姉妹では抱くはずのない感情、心の奥が静かに揺さぶられていく。


 だから、だろうか。キスしたいって君が言った時、凄く恥ずかしかったけど、断ろうとも思わなかった。


 ああ、それにしもキスって、なんでこんなに気持ちがいいんだろう。


 唇が溶けるような感触が、お腹の奥の神経をなぞってく。


 耳から入る水音が、くろえの息遣いが、頭の奥をふわふわさせる。


 微かに開いた視界の中で、眼を閉じるくろえを見ていると、それだけで幸せな気持ちになる。


 誰としても、こんなに気持ちがいいのだろうか。


 それとも、くろえが上手すぎるのかな。


 私、他の人としたことないから、わからない。


 わからない、わからないけれど。今は、この快楽に抗うことすらできないままで。


 そのまま気持ちよさで、どこかへ飛んで行ってしまいそうな気さえする。


 思わずそうならないよう、抑えつけられてないほうの手で、くろえにぎゅっと抱き着く。


 そしたら、ちゃりっと、小さな音がした。


 回した手の先にあったのは、冷たい金属の感触、私が送ったネックレス。


 それを訳も分からぬまま、ぎゅっと握りしめる。君の首に着けた、私の証を、乱暴に。


 そしたら、それに呼応するように、君の身体が微かに揺れた。


 そして一瞬だけ、触れあう唇がそっと離れた。


 「――――ぁ」


 漏れた息と同時に、君との間に透明な雫が一粒堕ちる。


 胸の奥に、ほんの一瞬、小さな穴が空いたような錯覚がする。


 ただ、その意味を、自覚しきる前に。


 「―――――ッん――――ぁ」


 もう一度、奪われる。


 乱暴に。


 私の身体の中を、そのまま舐り尽くそうとするみたいに。


 わからない、どうして、こんなに気持ちがいいのだろう。


 無理矢理に、君に全てを奪われるこの感触が。


 どうして、こんなに幸せだと思えてしまうのだろう。


 わからない。


 でも、今は。


 そんな疑念すら、全て溶けるような快感に、塗りつぶされる。


 私という存在そのものが。


 全部、くろえのものになったみたいに。


 許されない関係なのに。許されない場所なのに。


 そんな微かに抱いた、背徳の香りさえ。


 今はただ、君の匂いに、染められる。


 それが、どうしようもなく――――心地よかった。


















 こつんと、小さな音がした。


 そしたら、くろえの視線が一瞬だけど、そっちに向いたけど。


 すぐにまた、唇を奪われた。


 何度も、何度も。


 貪るように。




















 ※


 

 あの後、私は走って家まで帰りついた。


 そしてお母さんに声もかけずに、ベッドにダイブして、そのまま夕食時まで、じっと枕に顔をうずめてた。


 お母さんが心配して声をかけてきたけど、今はごめん、って言って一人にしてもらった。この感情の置き所がわからないから。


 ……………………。


 …………………凄いものを見てしまった。


 なんとか灰琉先輩と約束して、黒江とちゃんと話ができる場所を整えて。


 あわよくば、そのまま見届けようと思ったけど、結局、黒江に追い出されて。


 まあ、仕方ないかなあって、思ったところまではよかったのだけど。


 その後、不意に魔が差してしまった。


 こっそりと、帰りに部室を覗くくらいならいいかなあ、なんて。


 ここまで頑張ったのだもの、ちょっと様子を見るくらい……。


 そう思って扉の隙間から、そっと二人のことを覗いたら。


 

 ―――してた。



 キスを。



 口づけを。



 接吻を。



 しかもディープなやつ。



 生で初めて見てしまった。映画とか、漫画とかなら、そりゃあるけどさ。あそこまで生々しいのを、しかも知ってる二人がやってるのを。


 凄かった。黒江が本当に、灰琉先輩の腕ごとをぎゅって抱き寄せて、そのままじっくりじっとりと。


 黒江に見られかけたから、一瞬しか見えなかったけど、それでも充分私の脳裏にはあの光景が焼き付いてしまった。


 唇を奪うって、大げさな表現だと思ってたけど、あれはもうそういう次元じゃなかった。なんか、えと、えろい!! すごい!! 


 それしか言えない!! 己の語彙力の無さが恨めしい!! 文芸部なのに!!


 想い返すだけで、私の体まで熱くなってきて、その熱をどうにか逃がすために、じたばたと足を暴れさせる。そのまま、うー、うーと、しばらくもがくけれど、一向に熱は収まらない。


 いい加減諦めて、ごてんと転がって天井を眺めたけど、身体はまだ興奮の余韻が残ってる。


 「あれが生ロマンスか……破壊力やばぁ……」


 我ながらそういうシーンのある小説とかは好きだったけど、今まで脳内で描いていたシーンが、どれほどお子ちゃまだったかを思い知らされる。


 リアルはすんごいのである。そして多分今後、キスシーンをフィクションで見るたび、今日の光景を想い出す気さえする。


 ふぅっと熱い息を漏らしながら、まあ、あんなのされたらそりゃあ小説の描写も変わるよねって納得もある。


 …………いや、ていうか、灰琉先輩、やっぱり実際の体験をもとに書いてたってこと? えろくない? ダメじゃない? 絶対、私なんかが見ていいものじゃなくない? でも次回作が出来たら、絶対見ます、ハイ。


 考えれば考えるほど、脳は沸騰しそうで、身体はエンジンみたいに熱くなる。漏れる息が、蒸気機関車みたいだ。湯気とか出ててもおかしくない。


 だってさあ、マジの姉妹だよ。親は違うらしいけど、それでもマジモンの姉妹であれはなんか色々ダメじゃない? エロさ的な意味で。禁断アリの背徳マシマシだよ。いいのかな、こんな身近にあんなのがあって。なんらかの法に抵触しない?


 ただそうやって、しばらくびたんびたんと暴れてから、一瞬ふっと考える。


 でも、多分こうやって、勝手に色めき立てるのは、結局私が他人だからだ。


 本人たちはきっと、どうしようもなく悩んで、自分の想いの置き所がわからないままなんだろう。


 でなきゃ、あのいつもな完璧な黒江が、あんな弱気な表情見せないだろうし。


 いつも優しくて穏やかな灰琉先輩が、あんな泣きそうな切羽詰まった顔はしない。


 「………………むつかしいなあ」


 何かの間違いで、明日から姉妹婚が合法になったりしないだろうか。まあ、そもそもまだこの国、同性婚すら法律になってないけどさ。


 ていうか、義姉妹だから法律的には関係ないのかな……、いや、そういう問題じゃないって話か。


 慣れないことに頭を使って、しばらくうんうん唸ってから、ふぅっとようやく一息ついた。


 もしかしなくても、あの二人の先行きは、多分、茨の道なのだろう。


 不安と、疎外と、疑惑の眼で、よく知りもしない誰かに否定されるかもしれない。そうでなくても、二人の関係を公に口にするのは難しいんだろう。きっと、それで嫌な想いもする。


 ………………。


 やだなあ、それは。


 だって、友達だもの。そして、先輩だもの。


 泣いて欲しくないし、いつも隣に居るんだから、どうせなら笑って欲しい。


 「うし…………!」


 なので独りでこっそり、決意する。


 これから、他の誰が敵に回っても、私はあの二人の味方でいることを。


 そして、この秘密を、あの二人が明かすまでは必ず守り抜くことを。


 ぐっと天井に拳を掲げて、一人でえいえいおーと、掛け声を上げてみる。


 ふふふ、まあ、それはそれとして、これからの進展が楽しみかもね。


 まさか身近にこんなときめきロマンスがあるなんて、思わず顔がにやけちゃうと言いますか。興奮しちゃうと言いますか。


 ……………………。


 なんかちょっと滾っちゃったから、布団の中にもぞもぞと潜り込む。


 ちょっとだけ落ち着いてから、ご飯食べにいこう。うん、ちょっとだけ。


 そう思った、まさにその瞬間のことだった。



 「こはくー、どしたー、体調悪いのかー?」


 「ほにゃぐにゃにゃわわわわーーーー!!??」



 背後から声が響いた。のんでりとした姉の声が。


 私は思わず布団をバンと蹴飛ばして、慌ててばっと振り返る。


 「おおー、意外と元気そうだな?」


 「ノックしてって言ってるでしょ!! しの姉!!」


 荒れる息で大慌てで怒りを表明すると、しの姉どこか半眼になって、私のことをじっと見つめる。


 うぐ……、困ったことに、この姉とても察しがいい。その察しの良さだけで、生徒会長やってるといっても過言じゃない。


 「ああー、すまん。…………だけど、そんな慌ててどうしたんだ?」


 「どうもこうもしてない! 出てって! プライバシーの侵害!!」


 怒りのまま、枕を投げつけてみるけれど、首を振って軽やかに避けられる。しかも、その間も考えるポーズでうーんと考察してやがる。く、くそう、なんで私の周りはこんな無駄にスペック高い奴らばっかりなんだ。


 「帰ってきてすぐに部屋にこもって……声かけたら慌てて……そういえば黒江の奴が今日は生徒会来てなかったな……」


 ま、まずい。そんな断片的な情報から事実に近づかないで欲しい。名探偵かお前は。私はロマンスは好きだけど、ミステリーはそんなだぞ。


 「まあ、色々察することはできるが、教えてもらえたりする感じ?」


 「言わない! ぜっっっっっっったい言わない!」


 いーって口をしかめて抵抗する。でも数瞬後にこれじゃあ、重大な秘密があるって言ってるようなものじゃんって気付いてしまう。し、しまった。はめられた。


 「なるほど、なるほど、黒江絡み……ていうか羊宮姉妹絡みで、なんかあったのな。おっけー、おっけー」


 「な、ち、違うし! 何言ってんのばか姉! 灰琉先輩がそんな変なことするわけないじゃん!!」


 したり顔で口角をあげるしの姉に思わず返事しちゃうけど、口にしてからこれも不自然じゃんって、脳内でツッコミが入ってしまう。ていうか、正直、ここまで察せられた時点で、うちの姉に隠し通すなんてことがほぼ出来ない。


 「りょーかい、りょーかい、何もなかったわけね。うんうん」


 「う……うぐぐ」


 口ではそう言ってはいるけれど、もうとっくにしの姉の頭の中では、あることないこと考えてるに決まってる。


 今でも、楽しそうに眼鏡を揺らしながら、くすくす笑ってるし。どうにかしたいけど、こうなったしの姉を止める手立てがない。


 「ところで、こはく。前言ってた、生徒会のクリパの件だけど、お前どうする?」


 ただ、しの姉はふっと切り替えたみたいに肩をすくめると、なんとはなしにそんな話を振ってきた。クリスマスパーティー? まあ、話が逸れたんならそれでいいけど。


 「えっと……確か、うちでやるやつでしょ? うーん……今年予定ないし、黒江も来るなら、私も顔だそっかな……」


 そういえば、しの姉、ちょっと前にそんなこと言ってたっけ。まあ、家族で静かに過ごすクリスマスも悪くないけど、折角の高校生だし、普通にそういうイベントは楽しみたいかな。


 私の返事を確認すると、しの姉はしたり顔で、スマホを取り出してどこかにメッセージを打ち出した。


 「おっけー。それじゃまあ、こはくが顔出すんなら、生徒会連中にも『家族は連れてきていい』って伝えないとな」


 …………でも、あれ。しの姉がこういう顔してる時、なんか悪いこと考えてる時じゃなかったっけ。


 「あー、結構大所帯だね。プレゼント交換とかする? あとピザとか頼む?」


 「ありだなあ。じゃあ、そのことも『灰色羊』先生に連絡しとかないとなあ」


 「うんー……………………うん?」



 しばらく思考が停止する。



 1・まず、生徒会のクリパがある。うちでする。


 2・そこに、ついでなので私が顔を出す。


 3・私が出るということは、生徒会の身内はおっけー。


 4・黒江の身内は当然、灰琉先輩である。


 5・しの姉は、黒江と灰琉先輩の間に、何かあったことを察してる。


 以上の条件から、しの姉の思惑を答えよ。



 …………………………。



 答:黒江と灰琉先輩のことで、なんか悪いこと考えてる。



 「ちょ! ま! し、しの姉!!」


 「よし、楽しみだな! クリスマス! ご飯早めに食べろよー!!」


 慌てて引き留めようとするも虚しく、しの姉は颯爽と部屋から出て行ってしまった。


 まずい! まずい!


 このままだと、しの姉に色々バレちゃう!!


 それだけは、なんとしても、止めないと!


 ただ、そう思案しかけた、その直後。


 ぶいーんとスマホが、通知を鳴らした。なに?! 今はそれどころじゃ…………。


 そう思って、スマホの画面をばっと掴んで、目に映ったのは―――。



 黒江『今日は、ホント色々ありがと』



 黒江からのメッセージだった。慌ただしい状況だけど、なんだか思わずほっと笑みが零れてしまう。まったく仕方ないなあ……。



 なんて思った直後だった。



 黒江『それはそれとして、次、()()()()()()()()()()



 文面を見ると同時に、身体中の血がさーっと抜けていくような感覚がする。


 想い起こされるのは、キスの現場を覗いていた時に、一瞬、ほんの一瞬こちらに向けられた黒江の視線。


 …………あ、あれで、バレてましたか。


 身体の奥に重りを、ずんっと乗せられたような感触が、どうしてか鮮明にする。どうしてだろう、さっきまで慌てていたのに、今ではすっかり気持ちはお通夜みたいになっている。


 本来は、色々伝えなきゃいけないこととか、しの姉に抗議しなきゃいけないこととかあるんだけれど。


 どうしてか今は、膝を抱えて、お布団の中に潜り込んでいたい気分だった。


 そして、そんな冬の、うすら寒い夜。


 くろえに布団でぐるぐる巻きにされて、海に運ばれていく夢を見た。


 そうやって出荷される私を、夢の中の灰琉先輩は泣きながら、しの姉は苦笑いで見送っていた。


 なんでかなあ!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ