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19.雷

窓の外では市場の店主たちが言っていた通り、強い雨が降り始めている。



「それで? 治癒魔法は練習は続けていいの?」



 気を取り直したように、きらきらとした瞳で明るく聞いてくるリオラベルにヴィニアスの口から言葉がついて出る。



「前から思っていたんだが」

「うん?」

「割と強引だよな」

「誰のこと?」



 あははっと笑いながらすっとぼけるリオラベルをじとーっと見つめてから、ヴィニアスはにやりと意地悪く口角をあげた。



「そうだな。図々しい、とも言えるか」

「失礼ね。そこまでじゃないわ、多分」

「強引な自覚はあって何よりだ」



 ムッとした表情で口を尖らせたリオラベルの頭をくしゃりと撫でながら、ヴィニアスはくつくつと笑う。

 それから一息ついた彼はリオラベルの目の下に広がる隈を見て、スッと千草色の瞳を細めた。



「治癒魔法を練習するのを反対しないし、使えるようになるまで付き合う__」

「ほんと!? それじゃあ、今からやりましょ!!」



 ヴィニアスの言葉を捉えて彼の話を遮って全身から喜びを溢れ出すリオラベルに向かって、彼は無愛想な表情で口を開いた。



「その前に、寝ろ」

「……なんて?」

「寝ろ」



 言葉が繰り返されてなお、意味がわからなくてきょとんと首を傾げるリオラベルは少ししてから何かに考え至ったのか、気迫のある睨みをきかせながらギュッとヴィニアスの腕を掴んだ。



「私が寝てる間に帰るつもり?」

「はあ? なんでそうなる?」

「絶対そのつもりでしょ!」

「そんな訳あるか」

「……嘘だ」

「嘘じゃない!」



 しばらく互いに睨みあった二人だったが、やがてヴィニアスがはあーっとため息をついた。



「……誰がどう見ても寝不足の顔をしている。魔法の練習中に倒れられても面倒だから、先に休め。寝ろ」

「え? そんなに酷い顔色してる?」

「割と」



 目を見開いてぺたぺたと自分の顔に触れながらヴィニアスに尋ねたリオラベルに彼はしらーっと言う。実際のところ、前回会ったときのほうが顔色は悪かったが、今も良くはないのだから嘘は言っていない。


 その時。ピカッと窓が光り、しばらくおいてからゴロゴロと雷が暴れている音が響く。


 市場の店主たちの予報通り嵐になったな、と窓の外を見たヴィニアスがリオラベルの方へ視線を戻すと、そこには軽く唇を噛み締めて窓の外を怯えるように睨みつけている姿があった。まるで目を離してしまえば襲われると思っているかのように、彼女は瞬きもしないで固まっている。

 その様子に少しだけ自身の姉が重なったヴィニアスは小さくため息をついて、リオラベルの腕をそっと取った。



「っ!? え、なに!?」



 決して強い力で掴まれているわけではないけれど、なぜかその手を振り払えないリオラベルはヴィニアスに引かれるまま自身の寝室まで連れて行かれる。

 ヴィニアスはガチャっと扉を開けて、ベッドの近くまでリオラベルの手を掴んだまま進んでいく。



「寝ろ」

「えぇー……」

「側にいてやるから、ほら」

「側って……幼児だと思ってる?」

「そんなものだろう?」

「違いますけど? 私もう19歳よ?」



 心外だ、というふうに返したリオラベルをまるっきり無視して、ヴィニアスはベッドと窓の間に椅子を持ってきてそこに腰掛ける。そして椅子と一緒に持ってきた部屋のドレッサーの上に置かれていた魔法書のページをめくり始めた。


 その様子を見ていたリオラベルは少し嫌そうに顔をしかめながらも、おずおずとベッドの中に入っていく。ちらりとそれを見たヴィニアスは横になったリオラベルの上に、ふわりとタオルケットをかける。それに目を丸くしたリオラベルはすぐに口を尖らせた。



「レディーの部屋に勝手に入るなんて、マナー知らずよ」

「この前、魔法の練習をしてて動けないからって寝室においてある魔法書を取ってきてくれって頼んだレディーはどこの誰だ?」

「……私か」

「ご名答」



 ぐうの音も出ないリオラベルはちらりとヴィニアスを見上げて、再び口を開いた。



「やっぱり落ち着かないわよ、寝れないわ。だから、魔法の練習を__」

「目を閉じたら寝れるだろ? 2、3時間したら起こすから」

「そんな簡単なことじゃないわよ」

「喋ってたら寝れるものも寝れないぞ」



 魔法書から一切視線を動かさないヴィニアスをなんとかこっちに向かせようとリオラベルは躍起になる。



「寝れるものもって……寝れないから言ってるの」

「……」

「ちょっと、無視? ヴィニアース? おーい、ヴィニアスさーん?」



 まるでそこにリオラベルが存在しないかのように見向きもしないヴィニアスに向かって、リオラベルはこれみよがしに大きくため息をつくが、それでもヴィニアスが魔法書から視線を動かすことはない。

 ようやく諦めたリオラベルは、ごろんと寝返りを打って目をつむる。


 数分後。

 雨が窓を叩く音の合間に規則的な寝息が混じり始める。ヴィニアスがちらりと魔法書から視線を動かしてベッドの上を見ると、リオラベルはヴィニアスに背を向けるように丸まって眠っていた。


 小さな寝息とともに僅かに上下する華奢な肩をじーっと見つめたヴィニアスは、ふっと軽く笑って魔法書へ意識を戻すのだった。

お読みいただき、ありがとうございました。

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