11.翌日も驚き
「はぁ……疲れたわ……」
空が真っ暗になり、満月がもう少しで空の頂点に差し掛かりそうな時間に、リオラベルはシャワーを浴び終えて自室のベッドにダイブした。
記念すべきヴィニアスの魔法授業の1日目。
ヴィニアスの前で習得済みの魔法を見せたリオラベルは、その後の6時間ほどみっちり彼にしごかれた。
魔法士団団長と聞いたときから少しは覚悟していたリオラベルだったが、彼はそんな予想を遥かに上回るスパルタぶりだった。
『魔力が乱れてる。もう1回』
『魔力の流し方が違う。もう1回』
『魔力の練り方が雑。もう1回』
『威力が小さすぎる。もう1回』
リオラベルは、今日一日だけでこれまでの人生の何倍もの『もう1回』を聞いた気がする。
しかしヴィニアスがそんなスパルタ指導に出たのにも意味があった。
魔法を使う魔法士として生きていくにはヴィニアスのように魔法士団に入団して国家お抱えの魔法士になるか、魔法士の資格を取って民間の魔法士になるか、の二択しか存在しない。
魔法士の資格を取るのは魔法士団に入団するよりは難易度が下がるものの、魔法国家であるウァリデュス帝国では多くの国民が魔法を使えるので、その資格の倍率も高くなり、中級魔法を全部習得し、上級魔法のいくつかも使えるようでなければ資格を取ることは難しいだろう。
そんなこんなでヴィニアスによるスパルタ魔法訓練が幕を上げたのである。
もちろん、リオラベルには疲れるからと言って音を上げるつもりは毛頭ない。
今日だってヴィニアスは夕方には「夕食の時間だから帰る」と言って帰っていったが、その後ずっと今日教えてもらったことを復習していたのだ。
もしかしたらヴィニアスはリオラベルに諦めさせるために辛い訓練にしたのかもしれないが、リオラベルには逆効果だったようだ。
「ふふっ……絶対に上達してやるわ」
リオラベルの部屋にやる気に満ち溢れた声が溶け込んでいき、彼女はにやりと笑う。
(諦めてなんかあげないんだから)
心の中でそう呟いたリオラベルは満足げに笑い、枕に自分の頭をあずける。
そうして数分もしないうちにスヤスヤと深い眠りに落ちていったのだった。
***
そして次の日の朝。
「おはよう」
目の前で顔をしかめるヴィニアスに、リオラベルは内心ほくそ笑みながら優雅に朝の挨拶をする。
「なんで今日もいるんだ?」
先程まで眠気眼だったヴィニアスも、リオラベルの姿を見て眠気が吹き飛んだようで、はっきりとした口調で尋ねてくる。
「今日もレオンさんとばったり会ったの」
「えぇ、もう偶然ばったり会ったんですよ」
リオラベルの言葉に同調するようにキッチンからレオンが言葉を重ね、ヴィニアスは形の良い眉をギュッと近づけた。
「毎朝押しかけるつもりか……?」
「押しかける? なんのことかしらね」
飄々とヴィニアスの質問を躱したリオラベルは、食卓の席に座ったヴィニアスの向かい側に腰掛ける。
キッチンで作業をしていたレオンが、朝食を皿に乗せて運んできて、一つをヴィニアスの前に、そしてもう一つをリオラベルの前に置いた。
その様子に目を剥いたヴィニアスはバッとレオンを見る。
「ちょっと待て、なんでリオラベルの分がある?」
「聞いたところまだ朝食を食べてなかったようなので。材料も余ってましたし」
ヴィニアスの質問に軽く答えたレオンはエプロンをつけたままキッチンに戻っていってしまう。
苦々しげな表情でヴィニアスは目の前で「美味しそう……」と呟くリオラベルを見つめた。
「……なに? 別に私がせがんだわけではないわよ?」
「はぁ……分かってる……」
ヴィニアスの視線に頬を膨らませて反論したリオラベルは、ヴィニアスの返事を聞くやいなや「いただきます」と礼儀正しく言って朝食を食べ始める。
レオンの世話焼きにも困ったものだな、と思うヴィニアスだが、そんな彼の世話焼きさがなければ家事能力が低すぎる自分は生きていけないことを思い出して、何も言わないことにした。
「とても美味しいです、レオンさん!」
パクっとフレンチトーストを一口頬張ったリオラベルは、ほくほくとした表情でレオンに声を掛ける。
キッチンからひょこっと顔を出したレオンは頬をゆるませた。
「ほんとう? よかったよ」
レオンの言葉にコクコクと頷きながら料理を頬張っていくリオラベルから視線を外したヴィニアスは、目の前に置かれたフレンチトーストを一口サイズに切って口に入れる。
今日も今日とてレオンの作った料理は美味しかった。
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