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1-9.不可侵領域


「うわあ、すごい」


 思わず感嘆の声が漏れる。


 怪しみながら入った暗い洞窟だが、中身は凄かった。


 その辺で拾った木の枝に炎魔法で火を点けて灯りとし、辺りの気配に気を配りながら進んで行くと、左右の壁、というか洞窟内部だから土?岩?に歴史ある絵みたいなものが描かれていた。


 こういうの何て言うんだっけ、確かイギリスかなんかにもこういうのあったよな。ええっと……。


「洞窟壁画、とかそんな感じの安直な名前だった気が」


 羽の生えた何かが降り立って人間がそれに頭を下げている絵。


 その何者かの羽に抱かれる人々。守護してもらったのかな。


 羽の生えた何者かが他五名の同じような姿の者相手に、戦っている絵。


 何者かが負けて死に、人々がその亡骸に縋る様。


 高濃度の魔力攻撃を喰らったために四散する亡骸。


 人々が羽の生えた何者か、五名相手に牙を向く絵。


 人々が負け、羽の生えた何者か計五名が大きくなる様子。


「意味わかんないけど、なんか壮大だなあ」


 ストーリーがあるのかな。昔この洞窟に誰かがいたとか?


 乱雑に描かれているから順番もよく分からないや。


「まあいい、進もう」


 暗い洞窟内を松明で照らし進み続け、やがて開けた場所に出た。


「洞窟内はさすがに寒いな……」


 薄着で来てしまったことを後悔しながらも、空間を把握しようと試みる。


 古い文明の儀式をするみたいな場所だ。とても広い空間で、随分とボロボロではあるけれども立派な場所。入って正面を進むと祭壇のような何かがある。棺みたいな、ベッドみたいな、人一人横たわれるくらいの横長の石。その奥には墓石のように縦に聳える、巨大な石。


 棺風の方には何やら石か何かで書かれた文様があり、けれど埃か何かをかぶっているせいでよく見えない。


 墓石の方には古代語のように壮大な文字が書かれているけれど、これもまた何て書いてあるのか読めない。


「ううん……」


 目を凝らして、文字を眺める。手を触れさせてみると砂埃が舞って思わず咳が出た。


「うーん? 読めねえなぁ」


 どうしたもんかなぁ。マジェスティからの干渉もないし。


 他に何かないものかと、文字の解読を諦めて辺りを見渡す。すると左右に等間隔で細長い何かが並んでいるのが見えた。近づいてみると、それが火を灯すための長い棒だと気づく。先の方、天井を向いた場所に火を点けられる。


「こういうの、何て言うんだっけなあ」


 思い出せないもやもや感を抱いたまま、手に握った魔法の炎付き松明で試しに火を灯して見る。


 全部で八個、左右四つずつのそれに灯し終えると一気に空間が明るく照らされた。


「おお、綺麗だな」


 なんかすごい荘厳。洞窟内の岩の空間っていう素朴な場所だけれど、トレジャーハントの映画でありそうな雰囲気がある。ああ、久しぶりに映画みたいな。この世界、娯楽少ないもんな。


「さてと、次は……」


 背後を向いて、もう一度棺風の石と墓石風の石を見つめる。


「やっぱ読めないよなあ……って、あれ? 棺の模様、あんなだったか?」


 棺風の石の前に立ち、まじまじと模様を見る。


 うん、おかしい。


 さっきまでは縁をちょっと飾るくらいの模様だったはず。それこそ、蔦みたいな模様が。


 けれど今では中心となる場所に円が書かれている。埃をふうっと息で払ってよく見ると、それは魔法陣だった。


「これは……何の魔法だ? 模様が細かいから、低級魔法なんかじゃないよな……上級魔法かな。それにしても見たことないや」


 恐る恐る眺めても何も起こらないので、試しに手で触れてみる。


「うん、冷たいな、当然だけど」


 くだらない感想を零した次の瞬間、俺は安易に手を翳したことを後悔することになった。


 そしてこの出来事が、俺の人生とのちの世界を大きく変える歴史の転換点になるのだとは、俺はまだ知らない。


 違和感を感じて自分の手を見ると、魔法陣から右手が離せなくなっていた。


「はあ! おいおい、嘘だろ」


 拘束系の魔法か? 解除は……無理かな、術者を倒そうにもここには見当たらないし、第一上位の魔法陣の破壊は難しい。


「ちょっと待ってくれよ」


 焦る俺を置いて、魔法陣は光始める。魔法陣そのものは紫色に、そしてそこから飛び出した何かは黒色に。


「え、ちょ、なにこれ……」


 訳が分からないままに、ソレは魔法陣より現れた。


「久しぶりの人間だなぁ、二百年ぶりくらいかあ?」


 低い声で、ソレは言う。


「おいおい、ビビってんのか? 安心せよ、今すぐ殺して食ったりはしない」


 大きな大きな、黒い双翼。赤い目、金の短髪、服装は半裸で、黒いスーツのズボンみたいなものを着こんでいる。


「お前、名前は?」


 棺風の石の上にヤンキー座りで乗っかって、ソレは俺を見つめた。


 ヤバいヤバいヤバい、これ絶対上位のなんかじゃん!

 さっきの魔法陣、たぶんだけど召喚か封印関連の魔法じゃん! 

 それも黒い羽、本で読んだだけだけど悪魔か!?

 じゃあこれ、ある意味棺だったんじゃ……。

 悪魔を封印していたんじゃ!


「おい、名前は」


「は、はい! 俺はクリストファー・ガルシアです!」


「ふむ……お前、何か変な匂いするな」


「匂い!? くさいですかね!?」


 森を長々散歩したから、汗かいたかな。


「はっはっは、そういう意味ではないわ。お前、もしかして異世界人か?」


「へ?」


 異世界人……え、バレた!? なんで!?


「はっはっは、クリスよ、お前は顔によく出るのぉ」


「あの、いえ、その、異世界人と言いますか、死んでこっちの世界に生まれ変わったって感じですから、一応はこの世界の人っていうか」


「おお、お前、召喚されて呼ばれたわけじゃないのか。転生者の方だったか」


「召喚?」


「おう。この世界には三種類の異世界人があってな。一つはお前のような転生者。一つが何らかの影響で迷い込んだ迷い人。それで、もう一つが召喚されてやって来た救世主だ」


「救世主……」


「うむ。各国が自国の戦力を底上げするため、あるいは何か強力な魔物なんかを倒すために何十人もで日々魔法陣を囲い祈りを捧げ、呼び出すのだ」


 そういった理由で……。


 ん、待てよ、ということは。


「異世界人は俺だけじゃない!? っていうか、普通に認知されていることなのか!」


 つまり俺が両親に「実は俺転生者で~、異世界の知識いっぱいあるの~」って言っても変人じゃない!


「うむ。まあ、驚かれはするだろうがな。転生者というのは珍しいゆえ」


「そうですか……」


「ま、そう落ち込むな。ところで、クリス、お前が我をこの棺から解放してくれたんだろう?」


「え? ……あ」


 やっべえええええええええええええええ!!!!


 ついうっかり友人感覚で喋ってたけど、これ突如現れた不審者だったああああああああ!


「二百年も封印されて、退屈だったからなあ。久しぶりに受肉できて良い気分だ」


 やっぱあれ封印だったのかあああああ! 解き放っちゃいけないやつじゃん!


「礼を言うぞ、クリス。そして一つ提案だ」


「いや、あの、お断りを」


「提案だ」


「……は、はい」


 ヤンキー座りの状態のまま、悪魔らしき男は顔を近づけてくると、満面の笑みを浮かべ、言った。


「我と契約しようではないか。我はお前の使い魔となり、お前は我に居場所を提供するのだ。ふっふふ、良い条件であろう?」


 拝啓、父さん、母さん、リーゼ。


 俺は、これから、家に帰ります。


 怪しい男(悪魔?)を連れて、帰ります。


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