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1-8.森への侵入、白い霧


 親に相談するわけにも……いくまいな。


 急に息子が、「実は俺、異世界から来た転生者なんだ! 中身は二十五歳の青年なんだ! すっごい不運な人生を哀れんだ何者かが転生させてくれたんだ!」なんて言ったら頭狂ったと思われても仕方ない。


「マジェスティの言ったことは、本当なのか?」


 一人、部屋でごちる。


 マジェスティはミラージュが俺を転生させたことを知っていた。だから、ある程度の信頼はできる。ミラージュと関係のあることは証明されている。


 六つの人格、か。それが統合された本来の人は、どんな人なんだろう?


 というか、どんな理由で人格が六つに分裂するんだぁ? 魔王に倒された勇者とかか?


「うーん、現段階では何も言えない……」


 となれば、やっぱり森へ行ってみるしかないか。


 もしそこで俺にとって悪い事、あるいはマジェスティが嘘を言っている証拠が見つかればこれから先、彼ら六人格の言うことは無視しよう。


 幸い、ミラージュが俺を転生させたのは本気で哀れんだからで、あのとき取引なんかはなかった。言うこと聞かなくてもいいだろ。


「ある程度の上級魔法は使えるし、何が起こるかは知らないけど、森へ行ってみてもいいかな」


 というわけで、俺は母さんにちょっと遊びに行くと言って一人でこっそり森へと向かったのだった。


 テクテク歩いて三十分。


 エマとしょっちゅう、というか毎日のように冒険しているこの森に知らないところはないというほど熟知しているのだから、今更何かが起こるとも思えない。案外、あのマジェスティは俺が森において天才であるという事実を知らずに言ったのかもしれない。


 そんな風に侮っていたからか、異変に気が付くのが遅れてしまった。


 マジェスティの命令は森に入ること。森の何処か特定の位置を目指せと言われたわけではないから、夜が近いことも考慮してあまり深く踏み入ってはいないはずだった。にもかかわらず。


「ここ、何処だ?」


 気が付けば辺りは薄い白の霧に囲まれていて、現在地が分からない。村からそんなに遠くないはず。とはいえ、どの方向へ進むべきなんだ?


 下手に動いたら余計に位置の把握が難しくなる。俺は一度その場に座り込んで、魔法を発動させた。


 その名も、惑星迷宮(アース・ラビリンス)。中級魔法かつ複合魔法であり、土属性土風(どくう)魔法である。


 効果はとても便利なもの。これが使えるようになってからというもの、エマとの冒険は安全さが増した。というのも、これは半径十キロほどの地図が分かるという便利魔法なのだ。頑張れば五十キロくらいはいけるけれど、それはさすがに魔力が吸われる。


 俺が願うと同時、地面に水色の魔方陣が現れ、その上に半透明の地図が浮かび上がった。


 さてさて、現在地は……。


「っておい! 分かんねえじゃねえか!」


 普段であれば、森の部分は緑、湖は水色、といった風にいい感じに雑な色付けと、地名を黒い文字(日本語じゃない言語の筆記体だけどなんか読める)で書かれているというのに! なんで! 全面真っ白! それが霧を現しているのは分かるけれど、それにしても地名くらいは分かるだろ!


「つーことは、ここはいつもの森じゃないってことか?」


 いやいやんな馬鹿な。だって俺、森に入っただろ? 村の近くにある、たまに強い獣が出る森に。


「けど、これじゃあ詰んだも同然だな……」


 どうしたもんかなぁ。


 本や両親の話から現状を考えるとすれば、あり得ることは二つ。


 一つ、何らかの自然現象の影響により、魔力が揺らいで異空間へ繋がった。その場合、この霧が気になるな。


 二つ、誰かが魔法を使った、あるいは突如この森に強力な魔物が発生した。魔法だった場合は迷いの森でも作る魔法だったんだろうし、魔物だった場合は獲物を捕らえるための罠にでもはまってしまったか。


 いいや、あり得ることはもう一つあったか。


「マジェスティが、何かやったのか?」


 この森は父さんの領地の一部だ。伝説的な魔物なんかが存在したという伝承が残っていないことは知っている。どちらかといえば獣しかいない、のどかな森だ。


 とすると、外部の意思が関与しない限り急に強力な魔物が出るなんてあり得ない。人に関してもそうだ。こんな辺鄙な田舎の森を凄腕の人が通るわけない。


「となれば、進んだ方がよさそうだな。マジェスティのたくらみがこれなら、成るようにしかならないだろうし」


 一応、この森は魔力に満ちている。もっと言えば、いつも以上に満ち満ちている。敵に出会って上級魔法を連発しても魔力切れにはならないだろう。


「うし、行くぞ」


 生まれて八年ではあるが、前世の二十五年間では中々に鬼畜の所業も経験したんだ。今更、恐れるものなどあるまい。


 俺はずかずかと歩き出すと、先の見えない霧の中へと突っ込んだ。


 そして何分が経っただろう。迷子になっている感覚を無視して進むこと、体感二十分。辿り着いたのは見たこともない洞窟だった。入り口部分は穴というより、荘厳に掘られた扉のように模様が施されていた。


 古代の文字、だろうか。あるいは俺も知らない魔法関連の文字か。分からないけれど、読めないや。


「怪しい、よな」


 奥は暗く、覗いてみても見えない。ここへ来るまでの何処よりも魔力が満ちているから、魔力源はここか。


「見たことない、よな」


 この森にこんな洞窟があるなんて知らない。聞いたこともない。


「行くしか、ないよなぁ」


 マジェスティの狙いがあるとすれば、この怪しい洞窟だろう。


「入るかぁ」


 何があるか知らんが、どのみち帰り方分からないしなあ。


「行くかぁ……」

 

幼少期編はあまり長くするつもりはないので、とっとと行きます!

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