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~魔王無双~ 転生した俺、無双しちゃうけど構わない?  作者: 六波羅朱雀
第三章 〜商業国家ルーグリナ連邦国編〜
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3-19.染みわたる声は呼び覚ます、ただ一時の、悪逆なる未来を。

半年ほどぶりに書きました。文章のクセ、変わってないといいけど……。今は他の作品で忙しいですが、そちらが一段落つきそうなのでそしたらパパパッと第四章を書こうかと。やっぱり、異世界転生ものって書くの楽しいですね。


設定ミスってないか心配。


 誰だ。そうとしか浮かばなかった。


 白い空間ということもあって、ミラージュやマジェスティのことを思い出す。いやしかし、ここは睡眠中の世界ではない。天使の魔法の中だ。


『とっとと目覚めたらどうなんだぁ?』


 荒々しい言葉遣い、ため息混じりの呆れ声。一瞬ヴァルかと思ったが、そうじゃないのは分かる。


 ──お前は、誰だ?


 ここは何人たりとも動けない、そういう場所じゃなかったのか。この空間で自由に行動する手段があるのか?


『全く、呆れるぜ。こんなクソみてぇな魔法、破っちまえばいいのによお』


 出来ることならそうしたいし、出来るならばとっくにそうしている。


『ふーん。あぁ、そーいやテメェはまだ……』


 まだ、なんだろうか。


 しかし相手は続きを言わなかった。


『テメェはあの悪魔を助けたいんだったな』


 ──当たり前だ。……まさか、何か手立てがあるのか?


『ある。あるぜ。このオレ様にだってな、特別な力ってやつがあるんだよ』


 ──特別な、力?


『おうよ。ほれ、テメェのことを異世界に送ったやつがいるように、オレ様にだってそういう力があるってもんだ』


 異世界に送る……ミラージュのことか。しかし、そうなるとやはり、この声の主も六つある人格の一つということか?


『ま、そういうわけだ。だからほら、オレ様を統合しろ。そうすりゃ、テメェはオレ様の力を使えるようになるってもんよ』


 人格の統合。マジェスティが俺に依頼してきたことだ。


 しかし、人格がなぜ天使の魔法の中に? それに怪しすぎる。この者の言う力のことも、人格の統合のことも。


『なんだ、迷ってんのか? 情けねぇな。悪魔を助けたいんじゃなかったのかよ』


 嗤うような声でそう言われ、今1番優先すべきことを思い出す。


 そうだ、俺はヴァルを助けるのだ。天使に囚われているヴァルを。


 ──一つだけ、聞かせてくれ。お前はどうして俺に協力する?


 その問いに、相手は笑って答えた。なんてことないように。


『そりゃ、天使に恥かかせられるなら、命だって投げ出すぜ。さ、分かったらオレ様に名をつけな』


 名前、か。


 こいつが何者なのか、まだ詳しくはわからない。人格の一つというだけで、天使を欺く力がなんなのかも教えてもらっていない。


 しかし、天使に対する手立てが何一つ思い浮かばない絶体絶命のタイミングで声をかけてくれたのだ。ここからが叛逆の時なのだ。


 女神のようで儚いミラージュ、命令口調で威厳あるマジェスティ。ならばきっと、この者の名はこれがいい。


 戦う者を奮い立たせる、鬨の声。


 ──お前の名前は、バトルクライだ。


『バトルクライ……良いだろう。じゃあ、お前に統合されるとしようじゃねぇか』


 体が発光する感覚。鉛のような何かが体内に踏み込んで、どことなく鉄の香りがする。世界は白から黒に塗り替えられ、手足は痺れてやはり動かず。どうしようもない眠気に襲われて、瞼を閉じて──。


***


「ぁ……」


 虚ろな声を挙げて瞼を押し上げれば、眩しい光が視線を焼いた。太陽だ。それから、ほんのりと鼻孔を突く森の香りも。


 戻って来れたのだ。


 状態を起こして横を向けば、目をかっぴらいて驚いたように固まっている少女の姿。


 そうだ、天使フリューゲルはこう言っていた。魔法を解除した場合、必ず術者の傍に落とされるという仕組みなのだと。


「どうして、マスター、さんが……」


 少なからず動揺している様子の彼女の傍には、敵がいなくなって小さな小鳥に姿を戻した化け物、いいや、守護獣フギムニ。


 沸々と、内臓が沸き上がる感覚を覚える。怒っているのだ、いいや、憎んでいるのだ、あるいは、殺したくて仕方がないのだ。


「やあ、天使フリューゲル」


 理屈は分からないが、あの声の主バトルクライのおかげで白い世界から離脱することが出来た。しかし、まだヴァルが戻って来ていない。白い空間に囚われたままなのだろう。この野郎。


「白い空間、あれは殺風景でつまらないね。あんなところに俺の大事な仲間を閉じ込めるなんて、あり得ないなあ」


 心の中で声がする。魔法を、魔法名を、唱えろと。誰かが俺に命じている。


「……すごいわね、驚いちゃった。こんなこと、始めてよ」


 小鳥を撫でながら感嘆の意を漏らしたフリューゲル。もうこいつが可愛い少女に見えることはない。


「さあ、早く魔法を解いてくれよ。それとも、力付くがいいか?」


「アレは神様に捧げるのよ。それより、どういう方法を使ったの……?」


「ああそうか、解かないか。なら、力付くだ」


 頭の中で声がする。魔法を、魔法名を、唱えろと。バトルクライが俺に命じている。


 ──そうだ。俺にはあるじゃないか。魔法があるじゃないか。


 感情が沸き上がるように、魔力もまた沸き上がる。全身を巡るそれは血のようで。穴という穴から耐えきれずに血が噴き出しそうだけれど、幸いそんなことにはならなかった。


「使うのは、二度目だな」


 思い出す。寒い冬の日、空を舞ったこと。グレイと初めて出会った、その日を。


 本来ならばきっと、天使を相手に出来るだけの威力と技量はまだない。けれど、バトルクライが、俺の中にいる今ならば。


運命作家(ストーリーテラー)


 静かに、ただそれだけを紡げば良かった。


「そんな魔法、聞いたことないわ……」


 動揺するフリューゲルの顔は美しく可憐で、だからこそ歪む様を見るのは楽しい。でも、俺の大切な仲間を倒そうとするだけでなく、嘘をついて隙を突くなんて。ヴァルを取り戻すだけでは、この怒りは収まらない。ああ、こいつには指でも詰めさせようか。


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