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~魔王無双~ 転生した俺、無双しちゃうけど構わない?  作者: 六波羅朱雀
第三章 〜商業国家ルーグリナ連邦国編〜
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3-13.防衛隊の一閃


 一方、西側から回って洞窟を目指そうとする防衛隊は魔獣を呼ぶ魔物と遭遇していた。


 魔物。それは、魔獣と違って、その身に纏った魔力を具現化させる、つまり魔法を行使することのできる存在。防衛隊として国家を守り、貿易に使うルートの維持も担っている以上、無論戦った経験は豊富だ。学院の先生たちにだって負けないほどの熟練度であり、生徒たちの何十倍も連携には慣れている。


「抜刀」


 隊長エルドッド・ヴィクトの一声で、自身と魔法剣士サフィー・ルードルが剣を抜く。医療魔法の使い手でありこのチームでは唯一の女性であるリンネ・ヘルミアは後方待機、手に魔力を込め、彼らに強化魔法を付与した。盾持ちのドルイディ・シャーは無口ながら、前例に則って敵の第一陣の攻撃を受けるべく最前線へ立つ。基本的には非戦闘員であるリンネはその後ろに隠れた。


「来る……」


 ドルイディが端的にそう言った瞬間、狼の姿の魔獣が突進をしてきた。カァン、という甲高い悲鳴を上げた盾だったが、傷一つついていない。ドルイディが大柄な男であることもあり、一歩も後ろへ下がることなく攻撃を受け切っていた。


 恐らく、この個体は一番非力なリンネを狙って突進してきたのだろうが、その前に立つドルイディがそれを阻んだわけだ。つまり、獣と違って多少の知能がある。


「ナイスだ、ドル」


 それが当たり前であり日常であり定型であっても、感謝の気持ちを忘れてはならない。そんな信条を持つサフィーが礼を投げる。同時に、踏み込んだ彼は、『炎を纏いし剣』を両手で握って大ぶりの一撃を繰り出した。


 狙われたのは盾の前で怯んでいた狼個体。戦闘状態で硬くなっていた毛皮だが、サフィーの強化された肉体と大きな剣には無駄だった。すぐにざくりと肉を切り、狼は死んでしまった。


「体が、淡い……」


 サフィーたちが知る由もないが、その現象は別のグループでも起きていることだった。


「ロストウルフの身体が……」


 リンネもまた、サフィーの指摘で盾から顔をひょっこり出して、その様を見た。ロストウルフ。そんな名を持つ魔獣の身体が、半透明になっていく。


「気を抜かない、検証はあとですよ」


 そうだ、まだあと四体と肝心の魔物が残っている。エルドッド隊長の言葉でそう思い出したサフィーは再び剣を構えた。目の前の現象が他個体にも起こるのかを知る必要だってあるじゃないか。


「味方を呼ばれては叶わない、私が魔物を片付けよう」


 ずっと奥で指揮をしている魔物。それと対峙すべく、エルドッドは一歩、また一歩と近づいて行った。四体の魔獣はサフィーたち三名でやるように、という意味だ。


「そんな、一人で魔物をだなんて」


 見たことのない姿形の魔物に立ち向かう隊長にサフィーが声をかけ静止を試みるが、言い返したのはリンネだった。


「隊長の指示は絶対よ」


「……分かったさ」


 一見すると優し気な少女だが、このチームで最も信念が強いかもしれない、とリンネのことを思っているサフィーは素直に従うことにした。剣を構え、残った個体を倒すことに専念する。


「世界を見ないで、盲目なる(ブラインドネス)視界(アイズ)


 ドルイディが静かに詠唱する。途端、四体の魔獣はサフィーに一斉攻撃を仕掛けようとしていたにもかかわらず、その視線を唐突にドルイディに向けた。


 これは盾持ちという役目を持つドルイディがよく使う、慣れた魔法だ。光属性光魔法、光を行使して標的の視界を狭め、それによって注意を引くもの。本来であれば無理な戦闘に遭遇した時にしんがりを務める者がする技だが、彼らは好んで使っていた。


「サンキュ、ドル」


「うむ」


 四体が一斉にドルイディに迫る。大きな盾でそれを受けるが、さすがに大きな狼の攻撃だ。今度は二歩ばかり後ろに下がってしまい、また、盾で防ぎきれなかった狼の鋭い爪がドルイディの肩を引き裂いた。服が裂け赤黒い血が滲むが、ドルイディは全く痛みを感じさせない様子で盾を構え続けている。


「大いなる癒しを、燃え尽きる(ファイアーロスト)傷口(・ペイン)


 複合魔法であり炎属性炎水魔法であるそれをリンネがとなえると、ドルイディの傷は一秒もない間に燃やされ、洗い流され、その細かな原理はともかく、何も起きなかったかのように元通りになってしまった。


「……助かる」


「うん!」


 そうしている間に、背後からサフィーが全ての個体を倒してしまった。多少血まみれになった鎧だが、洗い流す暇はない。血の付いた燃える大剣を振り払って、血を落とすにとどめる。


「にしても、やっぱ半透明、だな」


「誰かが、魔力を、吸い上げている……」


「ドルの言う通りね」


***


 背後で四体の魔獣を相手に三人が戦っているのを感じながら、エルドッドは細い剣を、剣と呼ぶには鋭すぎる、レイピアと言う方が正しいそれを握って、魔物に近寄った。


「優秀な部下がいて、頼もしいですね」


 そう呟きながら、脳裏をよぎるのはつい三十分ほど前の出来事。クリストファーという少年に、大人げなく嚙みついてしまったことだ。別に激高したわけではないが、あれは我ながら情けないことをしたと反省だ。


「全く、クラッドなど、どうだっていいんですがねぇ」


 のんびりとした口調ではあるが、身体は動いている。剣を構え、口内に魔力を溜めて火球とし始めた魔物と相対している。


「あれは去年のことですね。随分と、時が経ったみたいだ……」


 昨年の実戦訓練のことを懐かしく思い出しながら、目の前の魔物に剣を向け走り出す。それは大きな狼で、毛の色は銀ではなく青だった。目の色もまた、青色をしている。見たことのない個体だ。ずっと、この国で防衛隊をしているというのに。


「進化、あるいは突然変異でしょうか」


 あの魔獣たちを従えていたとなると、言葉が通じているのだろう。それはつまり、元をたどれば同じ種族ということかもしれない。姿が狼というのも一致している。


「あの日の共闘は、気分がよかったですね」


 口内から勢いよく放たれた爆炎をよけながらも、追憶は止まらない。


 一年前の今頃。この隊の隊長になって日の浅かったエルドッドは、年上の部下を相手にどうすればいいのかよくわかっていなかった。そんな時に舞い込んできた、初めての実戦訓練。異国の少年少女を相手にどうすればいいのかも、皆目見当つかなかった。


 そんな中、まるで自信のない自分を馬鹿にしてきたのがクラッド・バーキン。正直に言えば珍しく自分がムカつくという感情を抱いたし、最終的にはボスに向かって一緒に立ち向かい、最高の共闘が出来た。


 だからこそ、そんな相手があっさりと、新入生相手に負けたと知った時の落胆は強かった。今年も二人で無双して、訓練を成功させるつもりだったのに。自分はこの一年間、勝ち続けて来たのに。


「ほんとうに、くだらない感情ですね」


 爆炎を放ち続ける魔物を相手に、周囲の木々を壁に見立てて飛び回り、遂に背後を取ったエルドッドはサフィーの大ぶりとは違って、刺突のように剣を繰り出した。見事に刺さったそれは、魔物の腹部を貫通。撃破だ。


「まさか、あんな魔力量の少ない(・・・・・・・)少年に負けただなんて……」


抜刀って言葉の響き、なんかロマンありますよね。


Q.防衛隊って魔法あんま使わないの??

A.そんなことはありません。みんな熟練です。ただ、彼らは一日中戦いをすることもあります。クリスがおかしいのですが、一般的な人間には魔力の枯渇というものがあります。使い過ぎるとすっごい疲れます。だから、何十回戦闘をすることになってもいいように、一回の戦闘に使う魔法は少ないんです。

さらに、魔獣や魔物は魔力を持っています。つまり、魔法に耐性があることが多い。そんな相手と一日中、あるいは一週間とか戦うとなると、伸びしろの弱い魔法より、剣技を鍛える方が効率がいいんです。


Q.ドルイディ、簡単に怪我したね。

A.大きな盾だけですんごい重量があります。長距離の移動を考えて、彼は鎧をすんごい軽装にしているんです。


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