3-1.驚きの新人勝利で学院は大忙し
日開いちゃいましたし、とりま1話投稿しますね(当初の計画である毎日投稿はどうした)。
頑張って明日、サッカーの試合見ながら2話目以降書きます!!
「昨日はいろいろありすぎたな……」
翌日目を覚ましてみても、上手く寝付けなかったせいで目元にクマが残ってしまっていた。手鏡を手に、ムスッとした自分の顔とにらみ合う。
「昨日は魔力の消費がいつもより多かったでしょうからね」
「そうだね、グレイ。戦闘中はヴァルへの魔力供給をしていたし、そうでなくても、五属性の魔法だし」
未だに俺のベッドを半分以上占領して寝ているヴァルからは、睡眠中だから気が抜けているのかやや黒い魔力が漏れている。人前では完璧に隠しているが、こうして俺たちだけの時なんかは微弱だが漏れる。そもそも少しであっても隠せているのが悪魔的才能だ。一般人であれば、寝ているヴァルを見ても全く黒を感じられないものだろう。
「今日は一個しか授業がないし、終わったら街にでも出てみる?」
「街!!」
ヴァルがベッドから飛び上がって起きた。布団がボスっと音を立てる。
そういえば、ヴァルには頑張ってもらうかわりになんか買ってあげるとか言ったような記憶があるぞ。どうしよっかな。ジャンさんからもらった今月分のお金はまだ使ってないし、これを使うか?
ここへ来るときに少し見ただけだからあんまり分からないけれど、石とか煉瓦とか木材とかが主で、東京やアメリカのような電気街ではなかった。魔法がある世界とはいえ、階級制度のようなものはあり、中世ヨーロッパのような発達度だ。
思えばこれまで、前の世界との差をあまり意識したことがなかったけれど、魔法世界の発達の仕方っていうのは蒸気機関的なものが遅れているもんなんだな。蒸気機関車を作るよりも、魔法で飛んだ方が早かったりするし、ガスコンロをつけるよりも炎の魔法を使う方が早い。
「電力切れる、みたいなことないもんなあ」
魔力っていうのは大気中に満ち満ちていて、耐えることがない、のだろう。無詠唱を行使できる俺のような人はそもそも体内に魔力が満ちているような状況だから大気と一体化しているともいえる。
「魔力が耐えることって、あるのか?」
「ん? ああ、なくはないな。巨大な魔法を行使し続ければ、辺りの魔力は使いつくされる。とはいえ、原理的に可能というだけで、不可能に等しいがな」
ヴァルがそう言うのなら、きっと伝説級を複数回使ったって耐えることはないのだろう。逆に言えば、もし、万が一、奇跡的にも、魔力が枯渇することがあれば、そこには魔物がいないんだろうな、きっと。魔物って魔力を有し、魔力を使用できるケモノなんだし。
「この世界の人が繁栄する代わりに、敵もまた繁栄するわけか……」
嗚呼、無常であるなあ。
「何を言っておるのだ。ほら、早く授業を済ませて街へゆくぞ」
「ちょっとヴァル押さないでよ、授業の時間は変わらないんだから」
「ヴァル、主に無礼であるぞ」
「あー待ってグレイ、大丈夫、大丈夫だから、その氷の魔法やめて止めて」
「よーっす坊主、ッて、さわがしいなオイ」
「あ、イヴァン寮長、ども」
小さな体躯がノックもなしに踏み入って来る。一見すると愛らしい少年だが、こやつは寮長、それなりの魔力が漏れ出ている。
「廊下まで聞こえていたぞ」
「マジすか……すんません」
大声だすとダメだな、こりゃ。悪魔とかのワード聞こえてたらヤバいわ。その日のうちにジャンさんと俺の親が呼び出されて責任問題になって、退学ののち政府の特殊機関に連れていかれてひっそりと、人知れず打ち首だわ。
「今のオレ様は機嫌がいい。……昨日、良く勝ったなァ、坊主!!」
バシン、と容赦なく肩を叩かれた。痛い、痛いって。肉体強化の魔法でもしてるんですか貴方。とはいえここで泣き叫べば笑われる。俺は表情を作ると、前世で培った「何があっても上司に礼儀正しく」の精神でお礼を言った。
「皆さんが応援してくださったおかげですよ」
「謙遜すんなって。オマエあれ、伝説級だろ?」
「ん?」
昨日の戦いでは運命作家は使用していないのだが、はて何のことやら。
「ほら、五属性の魔法だよ。咄嗟にあんなシロモン思いつくとかバケモンだなおい。教師たちが泣いてたぞ、もしクラッドが死んでいたらヤバかったとか言ってよ。ま、正直アイツに一泡吹かせたのはおもしろかったが、訓練の一環って名目の戦闘で人死んだらやべえわな」
でん、せつ、きゅう……伝説級? あれが、伝説?
運命作家と同等であると? でも相手の魔法には干渉していないから、伝説級と認定されるレベルには達していないんじゃ……ああけど、炎と水の二つはヴァルとグレイが展開した魔法か。使い魔のものであれば勝手に関与できるのが普通なのか? いや、そうでなくても伝説級にはもう一個、規模・威力のデカさというものがあったな。まさかそれか?
「でも、まさか五大属性ってくらいで伝説なんてそんなぁ」
ねえ、ヴァル、グレイ。二人もそう思うよねえ。
「伝説級であるな」
「伝説級ですね」
…………うそお。
「クリスよ、よく考えろ。一般的なヒトに属性の違う五つもの巨大魔法を同時に扱えると思うか? そのような者を見たことがあるか?」
「主よ、よくお考えください。オレのように魔物の上位として君臨するドラゴンであっても、基本的に属性は一つです。故にグレイシャードラゴンだとか、ファイアードラゴンだとかいうのです」
……確かに、ヴァルは闇が最も得意だというし、グレイは水が最も得意だという。種族名に得意な魔法のタイプが冠せられるほど、複数の属性を扱うのは難しいのか。
「ま、どうすっかについては教師たちが審議中だがな。オレ様は確実に伝説級だと思うぞ。五つ同時とか初めて見たワ。それも互いの効果を打ち消さねエとか。このオレ様でも二つが限度だってのによ」
……まじかあ。
なんか、もう、色々ありすぎて、むしろ息が抜けていくというか、肩に力入れる暇もないというか。つーかさ、ミラージュさんよ、いくら転生補正入れるっつったって限度ってもんがあるでしょうが。ぼちぼちでいーのよぼちぼちで。普通でいいのよ。平均でいいのよ。強いのも楽しいし、前世の分も謳歌させてもらっているけどさ、幸運値強すぎてヌルゲーと化しておるのよ。このままじゃ、俺が異世界人であることがバレるかもしれないのよ。
「ま、くわしーことは教師任せとして、ダ。今日はそんな真面目な話をしに来たわけじゃァねえんだワ」
ニヤリと口角を上げたイヴァン寮長はガシッと俺の肩を組み、一言。
「祝いだ、飲むぞ」
「……へ?」
魔力の枯渇というのは、ヴァルがいうように滅多に起こりません。
しかし、魔法の行使をしまくれば、ヒトそのものが疲れて倒れます。それこそ、器量のない人が無理やり伝説級を行使すれば死にかねないほどに。
わかりやすくいえば、酸素が枯渇することはそうそうないけど、酸素の吸いすぎは体に毒、みたいな。




