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2-19.この世の初めの、五大魔法。

魔法考えるの、大変だけど、楽しい。


 ヴァルとグレイと三人で、敵とはグレイの生み出した氷の壁を隔てて作戦会議をする。俺が思いついた案を中心に、ヴァルは炎、グレイは水を用いた巨大魔法を構成する。


 上空に浮かぶ、五つの魔法陣。色はそれぞれ、赤、濃い青、茶、水色、白に近しい眩い黄。そう、五大魔法の色だ。巨大な魔法陣は、空の妖精リリアが作ったあらゆるものの出入りを禁止する透明な天井、つまりは結界の高さギリギリに位置している。


「二人とも、準備は?」


「うむ、よいぞ」


「いつでも大丈夫です」


 敵さんは壁を壊すのが困難だと理解したらしく、こちらが話し合いを終えるまで自分たちも話し合うつもりのようだ。ま、好きにしてくれである。


「おおっと、なんだあの魔法陣はあ! まさか五大魔法全てを使用するのか!?」


 この試合一番の盛り上がりを見せる会場。司会はもはや司会であるということを忘れ、人々は賭けの行方など忘れ、純粋にこの魔法陣に見入っていた。


「んじゃ、いこうか。グレイ、壁を消して」


「はい」


 俺が頼むと、グレイはすぐに氷の壁を消す。氷河のように聳えていた分厚いそれは一瞬にして蒸発したかのように、少しばかりの白い煙だけを残しどこかへ行ってしまった。


 さあ、あとは考えた魔法を発動させるのみ。大丈夫、失敗したって観客へ害はなさない。学院が生み出した鉄壁の結界があるのだから。ゆえに、ここは遠慮なくいこうじゃないか。俺も自分に与えられた転生補正による強さや魔力量がいかほどか、試してみたい。


「せーの」


 俺の一声で、二人も魔法を唱えた。


炎の(ファントム・)幻影(インフェルノ)


 ヴァルが言うと、赤い魔法陣が赤く光り輝いた。


水の精の(ローレライ・)鎮魂歌(レクイエム)


 グレイが言うと、青い魔法陣が青く光り輝いた。


大地の(モノリス・)破滅(カタストロフィ)


 俺が、まずは茶の魔法陣を茶に光り輝かせ。


熾天使の(グラディウス・)大剣(セラフ)


 次に水色の魔法陣を光らせて。


蝕まれた楽園(エクリプス・エデン)


 ラストを飾るのは、ほとんど白に光り輝く黄の魔法陣。


 さあ、これでヴァルが炎、グレイが水、俺が土と空と光の魔法名を呼び、計五つの魔法陣が今か今かと起動の時を待ち構えている。


 二人と視線を交わし、勝気な笑みを湛えて何が起こるのかと四体の妖精と共に結界を張って身構えているクラッドを見た。さあ、仕上げといこうか。


「「「新たなる星(ネオ・ノヴァ)」」」


 楽し気に重なった三つの声で、五つの魔法陣から線が伸びる。赤い線が、青の魔法陣へ。青い線が、茶の魔法陣へ。茶の線が、水色の魔法陣へ。水色の魔法陣が、黄の魔法陣へ。黄の線が、赤い魔法陣へ。それぞれが五角形の角に位置し、五つの魔法陣が一つの魔法陣を形成する、前代未聞の光景に誰もが息を呑む。司会も職務を忘れてしまっていた。


 だが、これで終わりではない。魔法はまだ宙にとどまっており、発動されていない。


「「「無秩序の(エンペラー・)皇帝(アナーキー)」」」


 連なる三色の声で、一つとなった魔法陣が輝きを極めた。


 発動されたのは、五つの上級魔法が一つに合体されたことにより生み出された上級魔法。いや、これはもはや。


「伝説級といっても、いいのでは……」


 司会の吐息のような声が、会場を静かに廻った。そう、これはもはや、世界への干渉ではなく威力の強さによって伝説級へ選ばれてもいいほど。ただこの場には、それをすぐに明言してしまえる騎士団のような大人がいないだけ。


 ヴァルが生み出した赤い魔法陣からは、幻影の炎が。そう、あくまでも幻影(ファントム)なのだから、本物の炎がそこにあるわけではない。けれど、物凄い魔力を有しているため、それは人々の精神へと働きかけ、そこに本物の火があるのだと錯覚させることで死に至る怪我さえ負わせることを可能とする。しかもやっかいなのは、やっぱり幻影には違いないのだから、一般的な水なんかでは消えないことだ。濡れたタオルではたこうと、意味はない。対抗できるのはより強い魔法か、圧倒的な精神。人と物を容赦なく包む幻影の赤は、クラッドや妖精の体を捉えた。


 グレイが生み出した青い魔法陣からは、大量の水が。洪水のように発生したそれはすぐにターゲットの足元一帯を水没させ、床を見えなくさせた。その後水は凍り始め、クラッドは動けなくなる。妖精たちは常に宙に浮いているから足場に問題はないが、主人の危機は魔力供給や存在維持を受けている使い魔にとって大いにピンチ。そうでなくとも、降り続ける雨は羽を濡らし、浮かぶのがきつくなってくる。クラッドは足を掴む氷を破壊しようと試みるが、どうにも壊れない。見えない床に飲まれるように、本当に少しずつ、クラッドは沈み始めた。放っておけば、きっと、あるはずのない水底へ連れ去られていくだろう。


 さあ、ここからは俺の魔法だ。


 茶の魔法陣から、落雷のような細い電撃が地面に落とされた。途端、大地が轟音を立てる。コロッセオのようなこの会場の地面が、割れたのだ。会場中の誰もが悲鳴を上げた。水魔法によって凍っている大地が、凍りながら裂けるのだ。それも、存在しないはずの奈落が見えるほどに。ただ、本当は少し裂けた程度だと俺たち三人は知っている。全ては幻影であり、偽物の光景だ。それでも当人は永遠に落ちるような感覚を味わうだろう。


 水色の魔法陣からは、あまりに巨大な空気の大剣が生まれた。そう、まさに熾天使(セラフ)が扱うにふさわしい、透明だというのにあまりの密度によって白く見える長剣。ぶんぶんと容赦なく振り回される剣は、クラッドの峰を容赦なく打ち、彼を助けようとする妖精を薙ぎ払う。おまけに観客を守る結界にぶつかっている。これも最初の炎と同様、非常にやっかいな魔法だ。何せ、全ては空気でできているのだ。物質的な何かで受け止めようにも、直前で空気が分散して形を変え、再形成されるだけ。対抗できるのは圧倒的な魔法のみ。


 最後は、黄の魔法陣だ。それは陽炎を起こすように、空気を歪ませて、光を吸い込んだ。暗くなる世界で、ターゲットにはもう、一筋の光も射さない闇にしか見えないことだろう。果てしない闇は光だけでなく、ともにクラッドや妖精の魔力すら吸っている。これは想定外の効果だ。俺としては、方向感覚失ったり精神摩耗に繋がるかな、くらいだったのだが。感覚的に今生み出した(・・・・・・・・・・)魔法だったが、色々な効果を生むものだ。


「こ、これは、どういうことでしょう」


 纏わりついて消えぬ炎、凍り付いて動けないまま沈む足元、裂ける大地が寄こす落下、巨大で透明な大剣の衝撃、希望すら見えぬ真の暗黒世界。


 もはや、クラッドの状況は絶望的だ。早いところ降伏と言うか、あるいは戦闘不能状態になってくれればいいのだが、クラッドはまだ立っている。


「こ、これは、まさか」


 ようやく喋るという仕事を思い出した司会が、あるいは何か言葉としてまとめなければ目の前の光景を信じられないと思ったのか、静まり帰った会場に向けて導き出した推測を呟いた。


「複合魔法、五大属性全てです……信じられない……ですが、炎と水、凍る大地と裂ける大地など、本来であれば矛盾する魔法が干渉し合わずに成り立っているということは、これは五つで一つの魔法として成立している証拠です……!!」


 ざわつく会場に、俺は少しばかり得意げに笑った。俺に賭けなかった奴は、大損だなあ?


「にしても、思い付きの魔法でも案外うまくいくもんだなあ」


「さすが我と我の仲間であるぞ!」


「調子に乗るな、ヴァル。主よ、お見事です」


「ま、まってください、今あの新人は、思い付きだったと言いましたよ!!」


 司会が聞き逃さなかった俺の言葉に、会場は、またしても動揺をあらわにした。


 さあ、五つの魔法の効能を一身に受けたクラッド、そしてその使い魔たち。

 そろそろ降伏の時間だが?


***


「イヴァン、あれは……」


「いやア、よくやったなア!! あとで褒めてやろう! オレ様大儲けだ!」


 観客席にて、寮長たちは一列に並んでいた。特に、クラッドが所属するフェンリル寮の寮長イグアルとキマイラ寮の寮長イヴァンは先ほどからよく会話している。


「そうじゃなくて、あれはもはや上級魔法の域をでちゃいないか?」


「ま、そんときゃ学院長さんが動くだろうヨ」


 目を見開いて驚きに包まれるイグアルを適当にあしらい、イヴァンはいくら儲かったかを考え始める。


「まさかオメエ、クラッドに賭けたのか?」


「いや、どっちにも賭けてねえ」


「ふーん。クラッドが勝つとは思ってないが、別の寮生に賭けることもできなかった、か。立場と仲間意識を重視するオメエらしいナァ」


 だが実にもったいねえ、とイヴァンは続けた。


***


「まさか、あれ全て、上級魔法……」


 クリストファー・ガルシアが使った光魔法くらい暗い部屋での議会は続いていた。


「それを統合し、一つにしたあれは、伝説級かもしれんぞ」


「それよりも、思い付きだと」


「ああ、炎と水は見たことがない魔法だが、あれは使い魔がやったから種族特有のものだとしても……」


「土魔法のやつは別の魔法の応用といえるが、無限に落ちるよう錯覚させるなど、困難だぞ」


「いいや、問題は光魔法のアレだろう。アレでは光と言いながら、闇魔法のようではないか。光を吸い込むなど……」


「空魔法の大剣は中級魔法の応用だが、あれほど巨大に、それも物に当たる直前で分散し即座に再構成など、なんと高性能な技を……」


「だから、やはり問題は光魔法であるぞ。闇魔法のようであることは置いておいても、魔力を吸収する光魔法など前代未聞だ」


 どこへ進めばいいのか、もはや先の見えなくなった議会と参加者たち。ただ一つ言えるのは、少し前に言っていた言葉。


「新しい魔法を作ったら、まるであの者と同じ、使える戦力、でしたね」


 青年の声だ。彼が取り付けた約束が成功したことを訴えている。


「あ、ああ、だが、あまりにも制御困難だぞ、アレは」


「いいじゃないですか」


「なんだと? あの者がどんな裏切りをしたか、覚えていないのか?」


 ニタリ、と青年の声の持ち主は笑った。否、嗤った。


「覚えていますよ? 実に、愉快でしたね、あれは」


クリスがどんどん化け物になりつつあるね。えへへ。

まるでテトリスのような魔法の連続コンボ、楽しいね。

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