2-18.ただいま戦闘中
ちょっと短いカモ鴨。
光の参戦により、グレイの戦いが動いた。炎と光というのは案外相性がいいのかもしれない、相手の連携は完璧なものだった。どちらも熱に関係しているからだろうか。
無詠唱によって次々と繰り広げられる相手の攻撃に、こちらの二人もまた無詠唱で迎え撃つ。遊んでいるのか、相手の魔力の消費を狙っているのかは知らないが、二人は決定的な一撃を打たないでいる。ヴァルは恐らく前者だな、完全に遊んでいるのが分かる。
「思っていたよりは、強いな」
クラッドがそう言った。距離をあけて向かい合った俺たちは、使い魔の戦いを見ながら言葉を交わす。
「そっちは、思っていたより弱いね」
挑発すればさっさと攻撃しまくって魔力消費を進めてくれるかと思い、言ってみる。そうしている間にもヴァルが土の壁を足蹴りで壊し、空気砲を手で払っている。それも、実に楽しそうに大笑いしながら。
「悪魔」
ヴァルを見るクラッドがそう言った。思わず、悪寒が走る。その一つの単語で、俺の背中にはすうっと汗が伝っていった。心臓が、速まり始める。
俺が知らないだけで、ファイアードラゴンは本来妖精より弱いのか?
ヴァルは少し、遊んでいるとはいえ力を出し過ぎているのか?
それとも、悪魔には何か特殊なオーラだとかがあって、強者には分かるのか?
無数の考えがよぎって、やはりヴァルは人前に出すべきではなかったのかもしれないと思うが、全ては遅い。相手の次の言葉を待つ他ない。キン、カン、ヴォッ、と魔法戦特有の効果音と、観客たちの歓声だけが轟いているが、俺の耳には己の鼓動しか聞こえなかった。
「悪魔」
もう一度クラッドがそう言った。
「悪魔みたいだ」
繰り返された言葉に、ようやくポジティブな考えが浮かぶ。
──こいつ、ヴァルが強いから悪魔って例えただけか?
そう思うといっきにほっとする。冷たくなりそうだった心臓が、物凄い勢いで血を巡らせていた肺が、落ち着きを取り戻していく。俺の早とちりだったみたいだ。
「なんだ、急に焦ったな」
「ヴァルは本気を出していないってのに、そっちが諦めモードになったから、ちょっとやり過ぎなのかと心配しちゃってね」
目ざといクラッドを相手に適当に、挑発を絡めて返してみる。いや、今日の俺は調子がいいな。口が回る回る。小説の中のキャラクターたちが異世界転生しても堂々としていたのは、こういうわけか。なんだかよく分からない理屈だが楽しいぞ。
うおおおお、なんかほんとよくわからんがやる気に満ち溢れてるぞ!! 早く俺も戦いたいな! 故郷ではできなかった魔法がたくさんあるから。ここなら多少失敗してもオーケーでしょ。
「ヴァル、グレイ、俺も戦いたくなってきたんだけれど」
ヴァルは絶賛、土と空の妖精と戦闘中。あ、ヴァルが放った火の息吹……ファイアーブレス的な?のが土の壁をぶち壊して貫いてシーラにぶち当たったな。どんまい、土の妖精さんよ。転生者の最初の戦いってな、だいたい相手が無双して主人公に目標ができるか、主人公が無双するかの二択なんだよ。そして俺の場合はミラージュによって転生補正ついてるから、後者なんだよなあ。
「む、ならばこういうのはどうだ? あ、だが話したら相手にばれるな。ではこうだ」
苦々しい顔になったヴァルが、唐突に声をかけてくる。これはもう慣れたぞ、念話だ。
「三人で大きな魔法を構成」ね。なるほど、昨晩の予定は全部なくすことになるが、せっかくならば計画から逸脱した楽しい方へ進んだ方がいい。
「オーケー」
グレイにはこちらから念話で伝える。すぐに返事がなされ、同時に瞬間移動でも使ったのかというほど素早い速度で隣に現れた。ちなみに炎と光の妖精は、グレイが作った巨大な氷の壁でとどめられている。光の妖精、見た感じ光の槍を飛ばしたり眩しくしたりしているけど、案外、初心者的な妖精なのかもな。中級魔法程度にとどまっている気が。
「それで、どのようなものを?」
「我は炎を使いたいぞ!」
「でしたら、オレはやはり氷を」
「うーん、だったら俺は……あ、相手が四属性だろ? だったら俺は──」
いいことを思いついたぞ。当初の予定とは違って、学院で目立ちまくっている気がしなくもないが、ジャンさんのためにもこれくらいはいいだろう。ジャンさんも一応貴族っぽいし、バーキン家よりも目立つのはいいかもしれない。多少やりすぎたって、ジャンさんは副団長なんだから構わないだろう、うん。
「おおっと、何やら展開が動いた様子! なんだなんだ~!!」
司会の煽りに、会場が呼応した。
***
「あの二体、何者だ」
「ドラゴンだとか」
「ふむ」
「怪しいな」
「うむ、実に怪しい。あれは本当にドラゴンか?」
何処かの暗い部屋での議会は、続いていた。幾人ものローブの者たちが、会話を繰り広げ、厳めしい顔をしてはまた口を開く。それの繰り返しだ。
「実に、うさんくさい。嫌な香りだ」
くんくん、と誰かが鼻を鳴らす。
「ああ、あの二体がドラゴンなど、誰が信じようか」




