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2-16.会場入り

超個人的人生の大イベントによって数日投稿が止まっていました。すみません。

まだ五話かけていないんですけど、日にち開いちゃってるんでとりあえず投稿しますね。


 いざ、当日。朝早くに目が覚めた俺は、夢のようで多分夢ではない白の世界でマジェスティに言われたことを呟く。


「目隠し系使ってきたら、惑星迷宮(アース・ラビリンス)を使え、だったか」


 なんであの魔法なんだ?


 中級で、それなりの力量が必要となる魔法とはいえ、それほど特別な魔法ではない。現実でいうところの某地図アプリのような便利さはあるものの、基本的にはそれだけだ。ただ周囲の場所が分かるだけ。別に、世界の裏側の地図が分かるわけじゃない。ダンジョンなんかがあれば重宝されるだろうが、通常は罠の位置が分かるわけでもないし。


 まあ、俺の場合は良く分からない進化を遂げて立体地図になったが。でもそれだけだ。グレイの言うように地図中に何かをすればそれが現実に反映されるのか、それはまだ未実験だ。


「ま、そんな卑怯な手を相手が使うかは分からないけど」


 この世界に武士道だの騎士道だのといった精神があるのかは知らんが、生徒の戦いに果たして正々堂々以外の魔法をあえて使うだろうか。それも、上級生がまだほとんど何も学んでいない新入生相手に。


「とはいえ、負ける気はしないな」


 椅子に座ったまま眠るグレイと、俺のベッドを半分くらい占領する形で隣でスヤスヤ眠るヴァル。最近では寝相が少しまともになったから許しているが、正直、二段ベッドに買い替えるのもありだな。


「おい、準備したら飯食って、会場行こうぜ!」


 正直言って今日の俺はテンションが高い。いやだって、異世界来たってことには当然ながらビビッて、これまで多くの事に巻き込まれ過ぎてむしろマイナスよりのテンションなところはあったけれども。よく考えれば俺は異世界で悪魔と竜と契約して最強の魔法を有して学院入って、さっそく上級生に目をつけられて対人戦を迎えようとしているのだぞ?? これはもう、前世でゲームや映画、アニメに小説とあらゆる分野が好きだった者として、これ以上ないくらい気分上がるシチュだろう。


「マジで改めて考えればすげえよな、俺」


 飛行機ハイジャック墜落事件で死んだときは、まさかこうなるとは思わなかった。


「主よ、今日は随分とお早いですね」


「そうだぞ~クリス~、我はもう少し寝たいぞ」


「おはよグレイ、起きろヴァル。今日は二人の力を借りたいんだから」


「それはもう喜んで、主よ」


「我の強さを世に知らしめる時だな!!」


「偉そうにするならせめて起き上がってくれよヴァル」


 布団をはぎ取ってやると、我儘息子のようにヴァルが呻く。が、知らん。相手は使い魔が四体……四人?というし俺一人じゃ分が悪いだろう。


「ほら、勝ったら街でなんかおごるから」


「本当か!!」


「うぉ、ちょろいなお前」


「いやあ、ここ数日空を飛んでみて思ったのだが、文明の発達とやらがすさまじくてなあ、美味そうなものが多いのであるぞ! これは気合が入るの」


 金が心配にはなったが、ジャンさんからもらった今月分のお金をまだ使っていないから大丈夫だろう。やる気を出してくれたので良しとする。


「じゃ、着替えたら行くぞ」


***


 制服に着替え、左右にふらついてまだ寝ぼけているヴァルの髪型を少し整えてやる。グレイはお利口さんだから自立して身支度を終えていた。


「おはようございます」


 二人を連れて、寮の一階、食事スぺ―スへと向かうと、すでにたくさんの先輩&同級生がいた。いつもはみんな遅すぎるくらいなのに、今日はやけに早いな。


「おう、坊主、遅いじゃねエか」


「おはようございます、イヴァン寮長。あと、俺、坊主じゃないです、クリスです」


「はっはっはァ、そうだな、クリス!」


 ばしん、と肩を叩かれる。この人、そう大きな体躯ではないくせにやけに力強いな。この世界には肉体強化の魔法でもあるのか? それともただの実は細マッチョです系筋肉バカか? 正直筋肉バカは嫌いじゃないぞ、憎らしいくらい裏表がないから。


「それで、皆さん今日はお早いんですね」


 先輩たちには何か休日にも授業があるんだろうか。


「バカ言ってんじゃねェよ。お前の初陣見るために早起きしてんだワ」


 その言葉に、他の生徒もうんうんと頷く。どうやら知らなかったのは俺だけらしい。みんなで事前に考えて、こうして早くから集まってくれたのだろう。それも俺が何時に起きてくるか分からないから相当前から居てくれたと思われる。


「ありがとう、ございます」


 思ってもみなかった出来事に思わず歯切れが悪くなるが、仕方ないだろう。前世では、こうして応援したり行ってらっしゃいをくれる人、家族くらいだったのだから。出会って一週間程度の者たちが、それも一部の先輩はまだ話したこともないというのに、こんな風に祝ってくれるなんて。


 ──異世界来てから、幸福ばかりで怖くなる。


 いつか大いなる厄災が来るのではないかと感じられるほど、幸せに満ち溢れている。前世があまりにも不運だったその反動だと思えば釣り合いはとれているのかもしれないが、現世に限るのであればやはり若干の恐怖を感じずにはいられない。


 それでも、いつか大いなる厄災が来るとしても、今はただ素直に嬉しい。


「ありがとう、ございます」


「オイオイ、何度言うんだよ」


「いえ、その、まさかこうして応援されるとは思ってなくて」


 キマイラ寮が不良のたまり場だなんて、嘘だろ。最初にそんな噂たてたの誰だよ、俺に殴り飛ばさせろ。めっちゃいい人たちじゃないか。新入生歓迎の時はともかく、こんなちょっとしたイベントまで駆けつけてくれるんだぜ?


 感極まってもはや言葉が出ないくらいだ。


「さ、いっぱい食って行けよ、オメエは勝たなきゃいけねえんだからナ!」


「うっす!」


***


「さて、思わぬ展開で朝から食い過ぎてしまったが、まあいいだろ。身体が重いと魔法が使えないなんてことはないんだし」


「ステーキ程度で食べ過ぎたとは、貧弱だぞ?」


「お前と一緒にするなよヴァル、人間にとって朝からステーキはだいぶすごいんだ」


 三人並んで、学院内を歩く。思えばこうして行動を共にするのは初めてかもしれない。基本、いつもヴァルが規則正しい学院生活に数分で飽きて上空ふらつきに行くからな。んで、グレイがその見守り。


「主の制服姿、何度見てもお似合いです」


「ありがと、グレイ。グレイも服似合ってるよ」


 今日のグレイは白のスーツ、ヴァルが黒のスーツだ。なんだかヤバい人に見えなくもないが、ナンバーワンホストに一日でなれそうなくらいかっこいい。高身長イケメンのスーツって、いいな。同性の俺でも目を引く。学院内のお嬢様たちの好みを歪めないといいんだけれど。


「ありがとうございます。スーツというのは初めて来ましたが……動きづらさはあるものの、身が引き締まりますね」


「そうかぁ? 我は首が苦しいぞ」


 きっちりと青いネクタイを決めているグレイに対し、ヴァルはせっかく結んでやった赤いネクタイを緩めて、ボタンも一つ開けている。不良だ。ちなみに色は二人のイメージカラーである。


「そう言うなよヴァル、かっこいいぞー」


「そうか? まあ、我であるからな。当然であるぞ、はっはっは!! うむ、今日はクリスの初陣であるし、我慢するとしようではないか」


 少しおだてれば調子よくなっておとなしくなってくれる。最近は少しだけ扱いになれたぞ。


 周囲を歩く生徒たちの視線を感じながら、のんびりと緊張感なく歩いているうちに、この間の闘技場風訓練場へと辿り着いた。何度見ても縮小版コロッセオそのものである。


「よお、クリストファー・ガルシア」


 すでに敵は会場入りを果たしているようだ。ま、計画者だし色々と用意があるのだろう。ご苦労なことである。


「どうも。今日はよろしくお願いしますね」


 さわやかな笑みを持って、クラッド・バーキン三年生君と相対する。金髪イケメンじゃああるが、俺の使い魔には勝てないな、はんッ。そういや、弟君……らっかむ、いや、ラッセ()君はどこだい?


「こ、ここにいるぞ!」


「んぉ?」


 おお、兄君の背中に隠れておったか。


「こんにちは、ら……バーキン君」


「ラッセルだ!! いい加減名前を覚えたらどうなんだ……これだから田舎者は」


 おいおい田舎者に家族でも殺されたんかというくらい嫌味を吐くな。


「今日はお前が負ける日だからな! ちゃんと見ておいてやるから感謝しろよ!!」


 戦うのは君の兄なんだが、随分と偉そうだな。ちょっとムカつく。君の手柄じゃないし、そもそも俺は負けないし。


「そういえば、使い魔が四体いると伺いましたが、どちらに?」


「ああ、そうだったな。そっちの使い魔は後ろの二人だろ? おれのはそんな大きな人型じゃなくってね」


 言って、クラッドは何やら小声でつぶやいた。出ておいて、と言っているように聞こえるが。


「わ、かわいい」


 現れたのはなんと、宙を舞う愛らしい姿の小さな人型だった。身体と同じくらいのサイズの羽が生えている。人の言葉を理解し魔法を使うのだから魔族には違いないが、こんなサイズのもいるのか。初めて見た。


「はは、動物とはちょっと違うんだがな。妖精の類だよ。魔族ではあるが、魔物の進化系とは少し違うな。それぞれ炎、土、光、空を操る妖精だ」


 赤の羽の妖精はルーシーで、炎。

 オレンジの羽の妖精はシーラで、土。

 黄の羽の妖精はリットで、光。

 青の羽の妖精はリリアで、空。


 主人であるクラッドは炎だろう。俺が使った炎属性炎魔法の上級魔法が使えるようだし、所属寮はフェンリル寮だ。となると、一人で四属性を行使しているようなものだな。


「俺の使い魔はドラゴンで、基本的には炎と水です」


 相手が開示した情報に合わせ、こちらも情報を開示する。別に隠している訳でもないし、俺がどの属性も得意とする以上、さほど重要な内容でもない。これからぶっ潰す以上は同じ情報量を有しておきたいという意思のみで話しただけだ。


「ファイアードラゴンとグレイシャードラゴンだと聞いた。戦うのは初めてだな」


 ヴァルは背後でうずうずと動く。ファイアードラゴンではないと言いたい気分なのだろう。戦いということで、どうやら気が高ぶっているらしい。


「お二人さん、会場の盛り上げにご協力を!!」


 そこへイベントの司会らしき男子生徒がやって来て、「勝てると思いますか!?」と質問を投げて来た。見れば、円形のフィールドを囲うように設置された座席に座った観客たちがこちらを見ている。賭ける方を決めるラストチャンスのようだ。


「もちろん。おれが勝つに決まっている。使い魔の数が多いから数的有利だし、経験もあるからな」


 先にクラッドが答え、会場が黄色い声に包まれる。彼の顔面が好きな女子&寮長以外相手ならば負けなしの彼に賭けた者たちの歓声だ。


 つづいて、俺の番。


「俺は新人だけれど、余裕で勝てると思いますよ。俺には授業の経験はないけど、グレイシャードラゴンと戦った経験があるし。大事なのは数じゃなくて、質ですからね」


 あえて挑発するような言葉を投げてみる。するとキマイラ寮の者の声と思われる野太い声が沸き上がった。中でも、イヴァン寮長の言葉はよく響く。「ぜってー勝てよコノヤロー!!」と。黄色い歓声とは程遠い。他にはグレイシャードラゴンというフレーズに驚いたものたちのざわつきがあるのみだ。


「二人とも自信満々ですね~、頑張ってください」


 司会の、のんびりとした声がかけられた。


現状の作者の考えではありますが、人間にも獣にも魔物にも魔族にも属さないのは天使と悪魔のみであり、妖精は特殊な魔族の一種となります。

魔族というのは基本的には魔物の進化系ですが、中には妖精のように土地や歴史に根付いたりして自然発生した者があります。


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