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2-15.決闘前夜


 それから三日、通常通りに魔法や歴史などの授業を受けた。


 廊下や教室ですれ違うたびにラッセルやその取り巻きたちが睨みつけてきたが、無視し続けた。キマイラ寮の一年メンバーがあいつらに臆さず俺に話しかけてくれたのも助かった。おかげで俺は九十九秀(前世の俺)の二の舞にならなくて済んだ。


 そうして、ついに明日が土曜日、指定された休日となる、夜のこと。


「明日はいよいよ、我が主の初陣ですね」


「そんな堅苦しいもんじゃないよ、グレイ」


 夕食を済ませ、風呂を済ませ。部屋でヴァルとグレイと相談を始めることにした。


「廊下に貼られていた紙によれば、明日の午前十一時半にこの間の訓練場へ行き、十二時スタート。それまでは互いに、事前に罠なんかが設置されていないことを確かめ合う時間だね。八百長じゃないよってやつだ。観客席との空間のへだたり部分に結界があって、攻撃が向こうへいかないようになってるらしい。お互いに使い魔はあり、それも含めて自分の戦力だ。使う魔法は自由。相手が降参するか、戦闘不能になるまで続行。勝敗は明確だね」


 おまけに、観客を呼ぶにあたって一つ、エンターテインメント要素が作られていた。


「賭け事の対象になるらしいよ」


 そう、俺たちの勝敗は観客によって賭け事の対象となるのだ。儲かった金が何処へ行くのかは知らん。勝利した人が貰うのかな。あるいは、企画担当者がもらう? でもそれだと、今回はクラッドが企画して、さらに戦うわけだから八百長ができるな。自分から負けることが可能なんだから。


「ふむ……して、どれくらいの割合で賭けられたのだ?」


「明日の直前まで賭けられるんだけど、今のところ、九割が相手らしいね。俺に入れた一割は多分、キマイラ寮の人達だ。勝ったら何倍になるんだろ」


「それほど、相手は強いんでしょうか」


 グレイがピンと立ったままそう聞いた。ところでヴァルよ、俺のベッドを我が物顔で占領しないでくれんか。


「どうだろ。でも、上級魔法が使える三年生で、対人戦は寮長以外相手なら負けなしって聞いたよ」


「クリスと寮長ならクリスが強いな。手数が違う。経験も、それにドラゴンと戦った者などおらんだろ」


「ええ。主が最強に違いありません。伝説級魔法が使える時点で、魔力量が枯渇することはありえませんしね。一発に込められる魔力も、持久戦となった場合も、どちらにせよ優位です」


 二人の感想を聞いて、俺もそう思うと返した。無論、相手を侮るわけじゃない。この学院で三年間学んだことが、相手にはあるだろう。けれど、俺の強味は威力だ。いくら相手の方が魔法やその仕組みを知っていようが関係ない。威力だけは、覆せない。ヴァルが居れば結界の解除も可能だろうし、この間みたいに俺自身の魔法(暴発だったのはともかくとして)で、寮長三名の結界を破れたのだ。クラッド・バーキン一人の結界くらい、威力を込めれば破壊は簡単だろう。


「そうだ、クリスよ。この間の訓練場での出来事を見ていて思ったのだが、紅焔(プロミネンス・)(テンペスト)を複数個発動させることは可能か? こう、前の魔法陣が終わったら次がすぐに炎を吐き出すよう、時間差で同じ魔法を縦に重ねることは」


 おお、なるほど、それだと無限にあの火力の炎が続くわけだ。


「いいな、それ。俺の魔力量ならいけるぞ。上級魔法だから観客も喜ぶでしょ」


「同じ上級魔法の複数展開……さすが我が主です!」


「他にも面白いもの、ないか?」


「う~ん、オレは惑星迷宮(アース・ラビリンス)を利用して、あれに追加した罠などが現実でも反映されれば面白いと思ったのですが」


 なるほどね~、地図上と現実を連携させることで、動かなくても遠隔で現実に罠を張れるわけだ。が、それはちょっと厳しいかもしれない。


「それはまた今度になりそうだな。いきなりやると、ミスった時に客を巻き込みかねないし、建物が崩壊するかも」


 あの地図に関してはまだよくわからない点が多い。拡大縮小角度変更可、立体構造になった。それだけでもう手に負えない状態だ。第一、ヴァルはあれで完成系だと言った。となると、あれ以上のものはもう別の魔法ではなかろうか。


「他ですと……土壁(リトルウォール)のような土魔法でしょうか。訓練場は地面が砂ですから、無から生み出さなくていい分、活用しやすいかと」


「確かに、相手の方が使い魔が多いみたいだから、土人形でもいたらいいよね」


「なんだ、たかが四体なんだろう? それくらい我が楽々と」


「正体を隠しながら?」


「むむむ……とはいえ、魔力回路によって常にクリスから魔力の供給を受ければ、我の黒い魔力を使わずとも、クリスの魔力で補えるのではなかろうか」


 そういう使い道もあるのか。それだとばれないな、正体。


「いいけど、どれくらいいるの?」


「うーむ、運命作家(ストーリーテラー)二回分くらいだな。とはいえ、グレイも戦うのだろう? なら二体は任せるとして……頑張れば一回分だな」


 それ、すんごい量じゃん。正直、俺が倒れることなく伝説級魔法を仕えているのは奇跡だってのに。


「分かった、じゃ、本番の流れ次第でそっちに魔力流すよ。今日はもう寝るとしようか」


 戦いには睡眠が必要であるとは、シアの言葉である。


***


 深い、深い、眠りの世。真白の世。まだ何も書かれていない原稿用紙のような、定まらない世界に俺はいた。もう、この場所に驚くことはない。あれだろ、マジェスティのところだろう。


『クリストファー・ガルシアよ』


 厳かな口調にももう慣れた。なんだ、と返せば、姿なき声が返される。


『我の願いに従う気にはなったか』


 そういえば、従うかどうかは俺が決めていいんだっけ。


『そうだな、今のところ不利益は被ってないしな。ヴァルたちと出会ったのは驚いたけど、学院生活は楽しいし。現状は、従うよ。でも変な命令したらすぐに止めるからな』


『よかろう。十分である。では、次の命を伝えよう』


 相変わらず理由もへったくれも教えてくれないようだが、ま、変に首突っ込むのも面倒だし今はいいか。


『明日の決闘、相手が目くらましを使用したら、惑星迷宮(アース・ラビリンス)を使用せよ』


 あの魔法を? いいけど、なんで。というか目くらましの可能性あるんだ。


『理由は問うな。運命に従え』


 それだけいうと、またしても世界は白み始め、やがて朝が来た。


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