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2-13.目立っちゃったけどしょうがない、ジャンさんごめんね


 授業を終えて自室へ戻り、机の前の椅子に座った。フェンリル寮にいた時と同じような部屋だが、キマイラ寮は極めて人が少ないため、全員が一人部屋というぜいたくが可能になっている。おかげで、ヴァルやグレイと過ごしやすい。


「そういや、定期的にジャンさんに手紙を書くんだったな」


 いろいろなことがあったし、寮決めだって終わったんだ。一度、ここらで手紙を送っておくのもいいだろう。となれば、ええと、便箋便箋……。


「あった、これでいいよな」


 白い便箋セットを取り出し、どのみち他に持っていないのでペンを取って書き始める。


「ええと、まずは、名前だよね」


 『ジャン・グレイスフィート様へ』の次は~、こういうのは順序立てて書くのがいいんだよな。うっかり会社の提出書類みたいにならないように気をつけなくちゃ。


 『無事に学院へ入学することができました。推薦はもちろん、金銭的な支援もしていただき、誠にありがとうございます。お手紙を送るのが遅くなってしまったことを詫びるとともに、順番に、学院で起こったことを御伝えしようと思います。』


 出だしはこれでいいな。


 『まず、入学式のあとに行われた寮決めなのですが、真理の鏡の命令によって、伝説級魔法の行使をしました。しかし、寮長四名以外には見えぬよう結界を生じさせ、また、寮長にも分からぬよう無詠唱魔法としたので、大丈夫かと思われます。フェンリル寮寮長のイグアル寮長の炎魔法を相手にした結果、威力が強すぎてしまい、また周囲に人がいるため放つこともできずに暴発したところ、使い魔のヴァルが吸収したためけが人はおりませんでした。』と。


 んで、ええっと、そうだ、さっきのなんだっけ、バーキン家の奴らと決闘?になったことも書いた方がいいよな。一応あんな奴らでも貴族だし。


 『最初の授業にて、使用できる魔法を生徒が言い合ったのですが、上級魔法紅焔(プロミネンス・)(テンペスト)と中級魔法惑星迷宮(アース・ラビリンス)を言ったところ』


 何だっけ、アイツの、成金君の名前。

 えっと、ら、ららら、らっかせい、ら、らむ、らっ、あ、ラッカル? ラッセル? ラッセルだ。


 『ラッセル・バーキンという生徒に嘘だろうと言われたため、訓練場にて披露したのですが、結果相手が悔しかったのか泣いてしまい、兄だというクラッド・バーキン三年生と次の休日、観客を入れて決闘をすることとなりましたことをご報告いたします。バーキン家は貴族であり、ラッセルは次期当主だと伺ったため御伝えしただけで、必要な道具は特になく、また企画そのものはクラッド・バーキンが全てやるそうなので問題はございません。また、負けることはございませんのでご安心ください。』


 うん、我ながらいい出来だ。説明上手かもしれない。


 『クリストファー・ガルシアより』


 最後に自分の名前を付けて便箋を折ると、封筒に入れて、ロウ付けで閉じた。いや、赤い薔薇の模様を綺麗に作れたもんだ。中世ヨーロッパを感じられる。


 そのまま、忘れないうちにと学院内の配達を司る事務室へ向かい、手紙を出した。どのくらいで着くかと尋ねたら、半日もあれば着くとのこと。学院には貴族が多いため、急を要する手紙もある。よって一日に何度も配達するそうだ。さらに、魔法を使えるため早いのなんの。


 今日はもう授業もないし、暇だ。お昼だし、キマイラ寮に誰か、一緒にご飯食べに行ける人がいないものか見てみよう。


 紫色の館へ入り、一階、たまり場となる広間へ行くと、やっぱり人が貯まっていた。寝ているシア(授業中も寝てただろ、こいついつも寝てるな)と、何故だか腕立て伏せをしている男グリム・レッドラン。それから先輩が二名ほど、何やら課題をやっているようだ。


「なあ、グリム、良かったら一緒に飯食いにいかないか?」


「おう、行くぜ! けどあと十回だけやらせてくれ!」


「行く~」


 うおおおおお、と速度を速めたグリムと、寝ぼけながら返事をしたシア。


「起きていたのか、シア」


「うん~」


 ソファに寝たまま、腕だけ動かして親指をグッドにしてみせるシア。全く、適当に寝るから黒い髪がぼさぼさじゃないか。


「おし、終わったぞ! いやあ、オレ様の筋肉が唸るぜ!」


 筋肉は唸らんだろ。


「血沸き肉躍る~?」


「ああ、踊ってるぜ! ほれ!」


 腕の筋肉を動かして遊ぶグリムに、ソファに横になったまますご~いと拍手するシア。


「ほら、終わったなら早く行こうぜ! 腹減った!」


 この状況を打破するためには、徹底的に発言して導くしかない。じゃないと無限に続くぞ、この謎の会話。


「は~い、あ、筋肉動いた!」


「はっはっは、いくらでも動くぞお~!」


 ああ、だめだ、頭痛が……。こういうのがあと六人だぞ。楽しいけどヤバいなあ。


***


 一方、午前の便で手紙を届けられたジャン・グレイスフィートは。


「はっはっは、子供がこんな手紙を書くとはなあ。ちっと丁寧すぎるな、あいつは」


 子供らしからぬ文面の手紙を受けとり、笑みをこぼしていた。


「伝説級魔法については、まあ、隠蔽できたんだな。とはいえ、問題はバーキンだな。一年にいることは知っていたが、面倒なことになったな。バカ息子だとは知っていたが、兄の方は強いぞ。使い魔を行使するかは知らんが、伝説級魔法を使えない場で果たして勝てるかどうか……ま、問題ないとあるからいいか」


 師匠の子だから何とかなるだろうと、ジャンはそうそうに結論づけて、返事を書き始めたのだった。


 『クリス君へ。バーキン家そのものはそれなりに大きな田舎貴族だからあまり挑発しないように。とはいえ、君はこの騎士団副団長であるジャン・グレイスフィートの推薦を受けた者だ。存分に倒してくれていいよ。ジャン・グレイスフィートより、期待を込めて。』


グリム・レッドラン(10)「オレ様」自信家、良いヤツ、暑苦しい、筋肉漢、友情に熱すぎる

ツァン・シア(9)「ボク」のんびり屋、常に寝ていたい、てきとー、中華系の国からの留学的な


二人ともいいヤツですが、やっぱキマイラ寮に選ばれただけはありますよ、うん。


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