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2-12.喧嘩売りと喧嘩買い


 訓練場は、本館の東西にあるらしく、今回は西側のものを使用することになった。闘技場コロッセオを彷彿とさせる、円形の場所。さすがに数万の人を収容するほど広くはないが、恐らく、行事で使うのだろう、コロッセオ同様円形にある座席は、千は余裕で収容できるだろう。


「ここで、お願いしますね」


 とても広いから、ちょっと威力を間違えても問題はないだろう。生徒と先生は、観客席へと向かう。俺だけが砂の地面へと残った。


 どうでもいいことを思い出したが、コロッセオは残酷ではあるものの技術としては非常に優れたものだったとテレビで見たことがある。前世で俺が生きた時代のサッカースタジアムと変わらない広さを誇り、五万人以上を収容できたと思われるとか。少なくとも六万、多くて八万を超えたと書かれている資料を見たことがある。無数の支柱によって崩れることのないよう設計され、故に俺の生きた時代まで残り続けていた。


 さらには獣との戦闘を考え、猛獣を檻に入れて移動させる人力エレベーターまであったというじゃないか。電力こそ通わない原始的なものではあるが、当時、暴れ狂う大きな何かを上下に移動させられるというのは大きな成果だっただろう。地下空間まで用意されていて、道具や猛獣をしまっていたともいう。身分ごとに座席が違うとはいえ、一般人が無料で参加できる機会があったのは当時の平等の考え方としては随分と発達していたんじゃなかろうか。だって、貴族たちと一般人が同じものを目にし、同じ空気を吸うのだから。


 日除けのための天幕まであったというし、水飲み場も確保されていたというし、売り子が物を売っていたともいう。サービス精神満点の野球観戦のようだ。異世界にもスポーツ観戦はあるのだろうか? あると嬉しいんだがなあ。


 コロッセオでは、やったことは戦闘の見せ物だった。怪我をした戦士は運ばれ、治療され、また戦わされる。どんな人が戦わされていたかは知らないし、報酬があったのかも知らない。とはいえ、技術的には、そう技術的にはすごいものだ。


 と、まあ、つい過去の知識に思いを馳せたが、この訓練場はとにかく似ている。石の柱がいくつもあり、日除けのための赤い布が空にあって観客席を守っている。


 異世界へ来なければ、こんな場所にも立てなかっただろう。


「それでは、初めてちょうだい」


 ユリア先生が言ったのを聞いて、俺は訓練用の藁人形が置かれた砂地の正面に向けて無詠唱魔法を行使した。


 上級魔法、炎属性炎魔法、紅焔(プロミネンス・)(テンペスト)


 敵の代わりに配置された藁人形を標的としてとらえた魔法は、通常通り、その頭上に赤い魔法陣を構成させた。知識の乏しい俺には何がどう描かれているのか分からないその円形の陣から、何かが召喚されるかのようにして炎が現れる。まさに、大地を更地にするかのように。もともと更地だという突っ込みは無しとする。


 ゴオおおおおおおおお、とすさまじい息吹をとどろかせる炎。まるで竜の吐く炎みたいだ。いつか本物のファイアードラゴンに会ってみたいものである。


 藁人形が灰になり、その灰すらもまたより細かい塵にされ、すっかり消えた頃。ようやく炎を吐き終えた魔法陣は、すっと何事もなかったかのようにして閉じた。


「……わあ」


 観客席から、先生の感嘆の声が聞こえる。

 ふっふっふ、見たか成金君。俺は君と違って嘘はつかないのだよ、成金君。名前をド忘れしたから成金君呼びですまないね成金君。とはいえこれで終わりじゃあないぜ。君は二つの魔法をご所望なんだろう? もう一つも見せてやろうじゃあないか。


 複合魔法、土属性土空魔法、惑星迷宮(アース・ラビリンス)


 念じた瞬間、観客席からも分かりやすいように、巨大化した半透明な地図が空中に浮かぶ。ちょっとテンション上がって来た。これでかっこよく軍の戦略会議とかやったら最高だろうなあ。こう、魔法を駆使して敵の位置にポイントマークしたりしてさーあー。……ん、ちょっと待てよ。


「あれ、俺、3Dでできたっけ」


 生まれた魔法をまじまじとみて、いつもと違うことに気が付いた。俺が生み出すのはあくまでも平面の地図だったはずだが、これは、どうみても3D、つまり立体だ。階ごとに書かれていて、高さもしっかりと再現されている。小さな世界があった。


「んー、おかしいな」


 成長とともに魔力が上がったのか、単純に使い慣れたがゆえにこうなったのか。半透明、緑色という点は変わらんが……おかしいなあ。


『ヴァル、この魔法ってこういうもんなの? これまでの俺が劣化版を使ってただけ?』


 念話で声をかけてみる。今日のヴァルは、校内を回ると言っていたが、此処へ来る前に念話で訓練場へ移動することを伝えた時、上空を寄ってみると言っていたからその辺にいるはずだ。返事はすぐにあった。


『いや、それは完成系だな。これまでは劣っていたのではなく、普通だっただけ。魔力量が増えたのと、使いなれたのと、あとは才能だな。良かったではないか、クリスよ』


 …………ま、そうだな、良い事だよな!! ポジティブポジティブ!! 人生明るく行こうぜ!!


「えっと、クリス君、それは本当に、地図を生み出す魔法であっているかしら?」


「ええ。あってます、先生」


 ほら、と指さそうとしたとき、地図に指先が触れた。本来であればなんてことはないはずだが……ぬおお、地図が動いたぞ、傾いたぞ! 角度が変わったぞ! 横から見れるぞ! まーるいよくある宇宙船が九十度傾いて縦になったみたいだぞ! なんだこりゃ!?


 え、なに、マジでヤバい?


 不安で冷や汗が伝う。もう一度触れて角度を直すと、そうっと二本の指で操作した。そう、スマホを見るとき同様の、拡大の操作だ。


 ……おお、すごい、拡大されたぞ!! ということは、縮小も……おお、縮尺が戻った……これはすごいぞ、すごすぎるぞ、生きるのが便利になるぞ!!


 なんかよくわからんが完成系の魔法を手にした俺はもちろん言うまでもなくテンション爆上がり、今ならこの小さな体でも十キロは余裕で走れるぞ。


「えっと、とりあえず、地図に間違っている点はないですね。どちらの魔法も、まぎれもない上級魔法、そして中級魔法です。ラッセル君の言っていたことは、間違っていたようだわ」


 視線でユリア先生がラッセルとやらに謝るように求めた。が、取り巻きたちが放心状態で地図を眺めるのに対し、当人はわなわなと震えて叫んだ。


「うそだ! 何か、何か、そう、何かカラクリがあるはずだ!!」


「ねえよ、んなもん」


「ひッ」


 あまりの引き際の悪さに思わず本音を漏らすと、取り巻きの一名が震えて声を出した。


「そうよ、いきなり披露することになって、そこから一緒に来たのだから、カラクリだなんて用意する暇はないわ。確かに驚いたけれど、これはすごいことよ」


 ユリア先生が近寄って諭すように告げるも、意味はなく。戦慄くままに、勢いのままに、泣き始めてしまった。


「おー、随分たあ派手に泣いてんな」


 そこへ、見知らぬ声が一つ投げられた。誰だ? 男で、少し年上に思えるが。


「お、お兄ちゃん!!」


 お兄ちゃん? ラッセルとやらの? あれ、でも、次期当主だって言ってなかったか? それなのに兄がいるのか?


 観客席の最後列から現れたソイツは、十四、五に見える。すらりとした手足、好戦的な顔立ち。兄弟というにはやや似ていないようで、似ているようで。


「どうしたんだ、ん?」


 降りてきて弟のところまで行くと、頭を撫でて話を聞く。いや、俺が展開に置いてけぼりなんだが?


 何やら話し終えたらしく、泣くのをやめたラッセロ君は、いや、らっせ……らっかせ……やっぱ成金君だな、うん。成金君は兄にすがるように何かを言って、兄は「いいぜ」と答えた。


「お前、上級魔法が使えるんだってな」


「うん、そうだよ」


 嫌味な成金君の兄とやらに下手に出る気はない。ため口でいくぜ。いっちゃうぜ。


「弟が随分と世話になったじゃねえか」


「そうだね。ぜひとも、人を根拠なく嘘つき呼ばわりしちゃいけないって教えてといてあげてよ」


「はは、言うじゃねえか。ま、その点は悪かったがな。とはいえだ、一年が上級魔法使ってのさばんのは、先輩としちゃあ気持ちよくねえんだわ。つーわけで、今度の休日、ここで対人戦をやろうじゃねえか。安心しろ、治癒魔法の使い手が控えているから、ぶっ放しても問題ねえぜ。んで、観客呼んで決着みてもらおうじゃねえか」


 ほんとにコロッセオになっちまうぜ。とはいえ、不思議と負ける気はしないな。そして、ここで断ろうとは思えない。ジャンさんがどうとか、そういうんじゃあない。舐められていることにむかついたのと、良い経験になるからということと、ちょっと興味が湧いたからということだ。


「いいけど、俺が勝てば先輩を倒したって言えるけど、貴方は勝ってもいい事ないんじゃないの?」


「んなことねえよ。弟を守れるだろ? それに、年齢なんざ関係ねえよ。上級魔法の使い手を倒すんだからなあ」


「じゃあ決まりだね。俺は新入生だからよく分からないし、企画は頼んでいいのかな、先輩?」


「おう。適当に張り紙出しとくから、それ見てくれよ」


 それじゃ、と言って地図を消そうと背中を向けると、おい、と声をかけられた。


「お前、名前は」


「そういう時は自分から名乗るのが道理じゃないの?」


「は、そうだな、いいぜ、おれはクラッド・バーキン、三年だ。ラッセルは母親違いの弟になる」


 あー、そういう。正妻の子じゃないから、後継ぎじゃないのね。


「俺はクリストファー・ガルシア、知っての通り一年の六歳児だよ」


「六歳って、天才かよ。ま、経験に勝るものはないって、教えてやるぜ」


 経験、ねえ。グレイシャードラゴンとの経験はこちらにしかないんじゃなかろうか。


よくいるウザい我儘少年、ラッセル・バーキン(11)、一年生!! 次期当主で金髪のボクっ子だよ。

取り巻き君たち複数名。

それなりの才能はある苦労人お兄ちゃんクラッド・バーキン(15)、三年生!! 金髪イケメン。両親には嫌われているが、弟のことはそれなりに大事にしているおれ君だよ。ヤンチャで真面目。


みーんなフェンリル寮だよ。お兄ちゃんはヤンチャだけどルール違反はばれない程度にする人、弟君は出身の良い現寮長には従う人、取り巻き君は所詮小物だから先輩には逆らえないよ!!


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