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2-8.入寮


 結局、呆然としている間に残り六名の寮決めが終了、俺たち新入生は各々言われた寮の寮長についてこの部屋を出て行くこととなった。


 部屋を出た先にある広場にて、キマイラ寮への入寮を命じられた俺含む八名は寮長イヴァン・ガイアの声に耳を傾けていた。


「いやぁ、今年は豊作だなぁオイ!」


 チャラい、テンション高い、イカれているというのが相応しい男だ。六年生というだけあってもう歳なのかと思っていたが、まだ十三歳らしい。となると、一年生として入ったのは俺と同じくらいのタイミング。幼いが故に卒業しないのだろう。


 肩まで適当に伸ばした金髪、赤メッシュは遺伝か、染めているのか。金の目は鋭く、けれど猫のように弧を描いて笑っている。背丈は低いが俺よりは高い。


「おもしれェ奴も入ったしよォ!」


 馬鹿デカい声が響く。少年のためまだ声変わりしていないのだろう、独特な話し方も相まってなんだかうざい。が、少なくとも先輩だし、年も上、やばい連中のリーダー相手に喧嘩を売る気にもなれない。渋々、俺は押し黙って話に耳を傾け続ける。


「お前らは今から、寮に戻って荷物取って来ィ! そんでキマイラ寮戻るぞオ! 宴だぜ!」


 阿保のように騒がしい。俺同様、他の新入生八名もきっと狼狽えて……。


「へっへへ、二か月も経てば俺様がここのリーダーに……」


「楽しめそうで何よりだぜ!」


 うわぁ、ナイフ相手に舌なめずり(物理)してそうな連中だあ。見た感じ、俺が一番年下かな。今からでも学院長とかに相談して、再度寮決め出来ないかな。他の魔法使えばきっと別の結末があると思うんだけれど。


「んじゃひとまず解散だァ!」


 言われて、各々寮へと戻る。肩を落としてその場にぽつんと立っていると。


「君、随分と驚いちゃってるね。もしかして、キマイラ寮だけは、って思ってた?」


 背後から肩をツンツンとされ、振り向くと新入生の一人である青髪の少年がいた。やや年上、十二歳くらいだろうか。何処か品の良さと冷静さを感じるから貴族かな。細身で、年よりも背丈があるように思える。


「え、ああ、えへへ、炎魔法が得意だから、フェンリル寮とかに入るかなって思っていたんだよ」


 やった、ようやく常識のありそうな人に出会えた。キマイラ寮で同室の者がいるのか分からないけど、こういう人だといいなあ。


「そっか。それだと大変だね」


「君は? やっぱり、他の寮志望だったり?」


 頭よさそうだし、ウロボロス寮とかかなあ。研究しちゃって、すごい発見しちゃって。インテリだあ。


「ううん、僕はここ志望だよ」


「え?」


 嘘やろオイ。


 俺が驚いて言葉に詰まっている間にも、相手は恍惚とした表情をして、うっとりとした視線をイヴァン・ガイアが気だるげに去って行く背中に向けて語る。胸の前で両手を握りしめ、何処か熱っぽい視線だ。恋する乙女じゃないんだから。


「僕はここでイヴァン様の右腕になりたいんだよ、初めて大会でお目にかかった時、相手選手に容赦なく攻撃を続けていた圧倒的なお姿がもうお美しくて、まさにキマイラと呼ぶにふさわしい全能の力、全ての魔法を得意とする神のようなお人だよ、イヴァン様は────」


 早口で喋る姿に先日のシャルルのことが思い浮かぶが、シャルルが恥ずかしそうに思い出を語るのに対し、この人物からは狂信者のような雰囲気を感じる。一言でいえば、怖い。


「あ、ごめん。僕、イヴァン様のこととなると止まらなくって。今は寮へ戻って荷物を取らなくちゃだよね。そして早くイヴァン様の待つ寮へ……! ということで、ここで失礼。そうだ、僕はシグルス・レグンレイル。君は?」


 急に冷静さを取り戻したシグルス。俺、前言撤回するわ。こういう人と寮って無理。多分、朝から晩までイヴァン寮長の話されるわ。そんで本人は授業中眠くならないタイプで、俺だけ損するんだろうな。


 なんつーか、サイコパスインテリヤ○ザだな。イヴァン様専門の。


「クリストファー・ガルシア。みんな、クリスって呼ぶよ」


「そっか、じゃあクリス。待たね!」


 シグルスはウロボロス寮にいたらしく、手を振ってそちら方面へと消えていく。残された俺は待たねという言葉を反芻しながら、フェンリル寮へと向かった。


 待たね、か。まるで友達みたいだ。思えば、友達ってどうやって作るんだっけ。前世じゃそんな相手いなかったからな。シャルルは、同室だったから仲良くなったわけで、シグルスみたいに偶然知り合って話したわけじゃない。


 シグルス、やばいヤツだったけど。

 友達って、思っていいのかな。


***


「あ、シャルル」


 部屋ではすでにシャルルが移動の準備をしていた。


「クリス君。なんか、大変だったね」


 魔法が暴発しかけたことを言っているのだろう。鏡のせいとはいえ、罰が悪い気分になる。あやうくシャルルに怪我を、あるいは、殺しかけたのだから。


「ごめんね、怪我、なかった?」


「うん! ヴァル様が守ってくれたからね!」


 この一週間でシャルルはすっかりヴァルと仲良くなり、心酔している。だがすまん、ヴァルは本当は魔物ではなく悪魔なんだよ。


「良かった。そういえば、念願のウロボロス寮だったね」


「そうなんだよ! もう嬉しくって嬉しくって! あ、でも、クリス君は……」


「キマイラ寮、だね、はは、参ったな」


 本当に、心から、心底、何なら現世で一番焦っている。困っている。だってキマイラ寮で数年を過ごすんだろう? ジャンさんに推薦してもらっている手前退学は出来ないだろうし、どのみち、俺はジャンさんのおかげで闇魔法使用に該当する可能性をなかったことにしてもらっているわけだ。政府の眼から逃れるのは難しい。


「でも、根は悪い人じゃないと思うから、きっと大丈夫だよ。ただ芯が強いだけで、それっていい事でもあるしさ。お昼とか、授業とか、行事とかで会えたらまた話そうよ。グレイ様とも、ヴァル様とも、クリス君とも、もっと仲良くなりたいんだ」


 シャルルは前のめりの姿勢で告げる。


「この学院で、初めてできた大切な友達だから! こんな僕にも優しくしてくれて嬉しくって……」


 嗚呼、友達って、そっか、こんなだったっけ。

 作るんじゃなくて、自然と創られる存在。


「だから……!」


 断られることを心配して徐々に言葉じりが弱まっていくシャルルに、俺は力強く告げた。


「もちろん! シャルルは大事な友達だからね! これからもよろしく!」


 パアッと効果音が聞こえそうなほど、シャルルの顔が明るくなったのは言うまでもないだろう。


***


「さて」


 一時間で全ての荷物をまとめた俺は、キマイラ寮の前へと来ていた。紫色の大きな建物だ。何処か禍々しさを感じさせる寮の内部からは、先輩たち、そしてもう到着したのであろう新入生たちの声が聞こえてくる。


 ここで、果たして平和に暮らせるかは分からない。もしかすると、口を開くたびにぶつかり合って喧嘩になるかもしれない。


 けど、友達っていうのはきっと、何だって言い合える存在だ。狙って作るんじゃない。 


 だから。


「よし」


 ここにはきっと、前世のような、弱い者いじめをする半端な弱者も、さらに助けたのにいじめっ子集団側に入って俺をいじめる弱者もいない。徹底した実力主義の集団のはずだ。他の寮だってあるのだし。


 だから、問題ない。


「行こう」


 俺は一歩、踏み出した。


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