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2-5.シャルルとの生活


 しばし話してみると、シャルルについて多くのことが分かった。


 一つ、田舎貴族の次男であること。

 二つ、魔物について興味があること。

 三つ、魔物好きなのに使い魔がいなくて寂しいこと。

 四つ、水魔法や水属性が得意だということ。

 五つ、あまりに引っ込み思案であることを心配され学院へ入れられたこと。


 以上である。


「なるほど……」


 貴族というのは庶民を馬鹿にするような金持ち集団なのかと思っていたが、案外普通に話してくれるし、嫌に気取った雰囲気もない。もちろんそういう人もいるのだろうけれど、みんながみんな嫌な人というわけではないようだ。これなら、学院生活で貴族にダルがらみされることは少ないかもしれないぞ。


「クリストファーさんは」


「クリスでいいよ、シャルル、先輩?」


「年齢は確かに上だけれど、学年は、一緒、だから、普通に呼んで、クリス、君」


 たどたどしくはあるが、先ほどまでとは打って変わって普通に会話を繰り広げてくれるシャルル。俺は初めての友達を得たのだと確信して嬉しくなり、今にも舞い踊りたいところだがそんなことをしたら友達を失うので遠慮しておく。


「ありがとう、シャルル。これから一週間、よろしくね」


「うん。部屋は、半分ずつ使おうか」


 二人で一部屋ということで、それなりの広さは確保されている。ベッドは左右に一つずつあるし、机と椅子も並んで一つずつだ。喧嘩せずに過ごせそうである。


 入学式が来れば、その日にどの寮へ所属するのかが分かり、荷物をまとめてその日中に所属寮へ移動となるため、今多くの荷物を広げてしまうのは良くないだろう。必要最低限のもの以外は、まだ鞄に閉まっておこう。


 それから、俺は部屋の隅に置かれた箱に目をやった。段ボールだ。この世界にも段ボールってあるんだ。じゃなくて、あの中にジャンさんが先に届けてくれた荷物が詰められているのだろう。教科書類と、着替え、他にも何かあるんだろうな。


「クリス君は、入りたい寮とかってあるの?」


「それが、急に入学が決まったから詳しいことをあまり知らないんだ。王都から離れたところに住んでいたしね。シャルルは、希望のところってあるの? というか、どうやって所属を決めるのかも知らないんだけれど……えへへ」


「そうなんだ。えっとね」


 シャルルは好きなことになるとすごく雄弁になる。オタクタイプなのかは知らないけれど、そうやって何かに集中できる姿は素直にカッコいいと思う。とはいえ、早口だと情報量が多すぎて俺には少し難しいのだが、まあ、それも含めて楽しい友達だ。


「寮が四つあることは知っているよね」


「うん。フェンリル寮、ウロボロス寮、セイレーン寮、キマイラ寮、だったよね」


「そう。一番人気はフェンリル寮かな。圧倒的火力があるから強いし、それに仲間想いな人たちの集まりだからいじめとか、そういったもめ事がないんだ。もしそんなことが起これば、寮長がすぐに解決しちゃうしね」


 なるほど。それであの慕われっぷりか。確かに、責任をもって率先して行動してくれるリーダーというのは自然と好かれるものだ。それが強いとなればなおさら、みんなの憧れの的だろう。


「ウロボロス寮は研究タイプで、僕はここがいいかなって思ってるんだ。魔物についてたくさん知りたいし。基本的には個人で行動するタイプの人が多いから、わいわい何かをやることは少ないけど、代わりに研究が絡めば一致団結するんだ。毎年、多くの研究を発表してて、本当にカッコいいんだ! って、ごめん、前のめりになっちゃって」


 確かにシャルルはもくもくと研究するのが似合う。そして、仲間たちとあれは違うこれは違うと語り合うんだろう。同じ趣味を持った人たちと何かに打ち込むのは、また一つの青春だ。


「気にしないで。それで、セイレーン寮は?」


「セイレーン寮はちょっとお高い雰囲気があって、マナーとか秩序とかを大切にしている厳しい寮なんだけど、代わりにみんなでルールを決めるから公平だし、いじめとかをすれば追放になるくらい厳しいから、平和で安全なんだ。弱い者を助けるっていうことを大切にしている誇り高い人たちだね。主に貴族の令嬢とかが多いけど、それに憧れた普通の人もいるよ。最初は怖いけど、いい人たちなのは間違いない」


 委員長、みたいなポジションだろうか。厳しいけれど、ルールを守っていれば優しいし、認めてくれるタイプ。こういう人っていうのは最初はうざく感じられるけれど、でもこういう人がいるからこそ楽しくて安全な生活を送れているということが大人になるとよくわかるのだ。


「じゃあ、最後はキマイラ寮だね」


「あそこは、その、奔放な人が多くって、ルールとかは、ある程度は守るんだけど、強いヤツが全てっていう感じで、僕は少し怖いかな。個々が楽しくやってるって感じで、悪ではないんだけど、ヤンチャっていうか。全員がそうっていうわけではないんだけど、問題を起こす生徒もいるって聞くよ。各々の信念が強すぎて、目上の人の言うことでも嫌だと思えば聞かないんだって」


 いじめっ子タイプではないけど、関わりたくないタイプってことか。気まぐれで猫を拾う不良みたいな、善でも悪でもなく、気分次第でどちらにでも転べる人たちの集まり。なるほど、そこに所属するのはちょっと嫌かも。


「ただ、これまで人の魔王を一番多く輩出したのもまたキマイラ寮なんだ。だから、それくらい精神が尖っているくらいじゃないと、魔王になんてなれないのかも」


「なるほどなぁ~」


 異世界にもいろいろとあるもんだ。てっきり、フェンリル寮が一番優秀なのかと思っていた。理由は王道系だから。


「それで、最後に所属の決め方なんだけど、大きな鏡の前で魔法を使うの。別に何かは決められていなくて、一番得意とか、好きとか、威力が高いとか、なんでもいいの。すると鏡が水面みたいに波紋を広げて、色が付くんだって。それで決まるの。赤はフェンリル寮、緑はウロボロス寮、青はセイレーン寮で紫がキマイラ寮って感じだよ」


「鏡が決めるのか? それって、仕組みは」


 随分と不思議な出来事だ。魔法なんだろうけれど、それにしたって謎だ。だって、鏡が意思を持って生徒を振り分けるんだろう?


「分からない」


 シャルルは自分も気になるというように首を振った。


「ただ、昔からそうなんだよ」


***


 部屋にある程度の物を広げ終えると、俺はシャルルと寮内の食堂へ向かった。多くの先輩たちがそこにいて、もちろん、同じように入学式までここに泊まる一年生もいる。


「よお、クリス」


 座って食事をしていると、向かいの席に座った青年がいた。寮長イグアルだ。昼間はぼさぼさになっていた赤い長髪はすっかり整えられ、一つに結ばれている。黒の長いローブを羽織っていて、恐らく寮長の証なんだろう。背中には狼の紋章が刺繍されている。


「こんばんは、イグアル寮長」


 隣に座るシャルルは食事の手を止め、少し震えている。ただでさえ人の多い場所が苦手だというから、あまり知らない先輩に話しかけられて緊張してしまっているのだろう。


「おう。部屋の片づけは終わったか?」


「はい、おかげさまで」


 何がおかげさまなのかはわからないが、こういうのは言っといたほうが得だ。少なくとも丁寧にして損はない。


「使い魔はどこに?」


「グレイ、ええと、青銀髪の方は部屋で待機すると。もう一人はヴァルというのですが、そちらは、その」


 その時、やや離れた場所から大きな声が聞こえた。


 あ──、ヴァルだ。バイキング形式の料理の種類の多さに感嘆し、山になるほど皿に盛り合わせている。


「ええと、すみません、やめさせますね」


 使い魔はそもそも食事を必要としない。契約した時点で、魔力が行動源なのだ。まあ、食べればその分魔力を使わずに回復できるのかもしれないが、それでも生徒のために用意された食事をあれほど食べようとするのは品がない。


 しかし、イグアル寮長は楽しそうに笑った。


「はは、いや、別に止めなくていいさ。使い魔もまた仲間の一人。それに、あれほどの魔物が美味そうに食ってくれるなら嬉しいもんだ。作った人もきっと喜ぶさ」


 いい人で良かった、マジで。


「それにしても、あれは何の魔物だ? あれほど完璧に人型を保つのは難しいだろう」


「グレイはグレイシャードラゴン、ヴァルはファイアードラゴンです」


「ふうん、それほどの魔物が、二体もクリスの使い魔ねえ。ファイアードラゴンにしては強すぎるオーラを感じるが……」


 やばい、さすがに手練れ相手はばれるか!!


「まあいい。魔物も個体それぞれ強さは違うしな」


 間一髪免れたのかは知らないが、イグアル寮長は他の人にも挨拶すると言って席を立った。多分、隣でシャルルがずっと震えているのを見て遠慮してくれたのもあるんだと思う。良い人な上に気遣いもできるとは、さぞかしモテる陽キャなのだろう。


「イグアル寮長、良い人だね」


「うん。でも、オーラ凄くて、びっくりしちゃうな」


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