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1-13.幼馴染と使い魔、それから愛しの妹


 ん……? んん? ドコココ??


 ふと目を開ければ、そこは真っ白の世界だった。


 ここは、確か……。


『よくやった、クリストファー・ガルシアよ』


 ああ、やっぱり……じゃあ今、俺は眠っているわけか。これじゃあいい目覚めは期待できそうにないな。ヴァルに振り回されたからぐっすり寝たかったんだけれど。


「それで、何の用? というか、なんであんな化け物押し付けたかな。悪魔なんて……」


『なんだ、そなたはあの者が嫌いか』


「そうじゃないけど……でも、もしアイツが怒ったら、俺は止められない。他の人を巻き込むかもしれないんだよ。俺は二度目のこの世界では人を守りたいんだ。幸せでいたいんだ。異世界人とはいえ、別に特別な何かは要らないんだよ」


『なればこそ、そなたはあの者と居るべきであろう』


「どういう意味だ……?」


 さっぱり話が見えてこない。核心を隠さずにもっとはっきり言って欲しいものだ。


『今はまだ、我の目的の理由も何も言えぬが、これだけは確かである』


 世界が、白け始める。いや、最初から白いのだけれど、そうじゃなくて。こう、全てが遠ざかって、ぐにゃんぐにゃんに世界が歪んで引き込まれていくみたいな。


『そなたは、あの者といるべきである』


 歪み始めた世界で、声だけが響く。


『そしてそなたは、幸福であるために、戦うのだ』


 なんで? 戦うって、何と?


『そういう星のもとに、生まれたのだ』


***


「はッ!」


 お腹に突発的な激痛を感じて飛び起きると、腹部にヴァルの足が乗っていた。


「寝相、悪すぎるだろ……まったく」


 金髪を顔に垂れさせて、射抜くような赤い目を伏せてぐっすりと眠るヴァル本人は良い夢でも見ているのか、微笑ましいくらいの柔らかい笑顔を浮かべている。……コイツ、顔だけはいいな。自ら狙ってイケメンに擬態しているのか、あるいは悪魔っていうのはヒトの姿が決まっているものなのか。


「起きろ馬鹿! 重いんだよお前!」


 小さな手で顔をぺちぺち叩いてやると、「うるさいぞ、おまえ」と寝言のように言いながらヴァルが身体を起こした。目ボケ眼を擦り終えると、顔にかかった金髪を後ろへとかき上げる。クソ、イケメンだこの野郎!!


「もう朝飯の時間だ。母さんの手伝いするぞ」


「むぅ? 手伝い、とな。ふむ、お前は真面目よな。いいぞ、この我が褒めてやろう」


「嬉しくねえよ。つーか、お前も手伝うの、いい?」


「な、我もか」


「当たり前だろ。お前、居候だぞ」


「ぐぬぬ……まあよい。我もヒトの暮らしというものを嗜もうではないか! はっはっは!」


***


 母さんを手伝い、ご飯を食べ、父さんとの剣の訓練を終える。


「クリスもだいぶ、剣の筋がよくなったな」


「父さんの教え方が上手なんだよ」


「はは、おだて方も上手くなったな!」


 タオルで汗を拭きながら、庭のベンチに座る。父さんはああ言うけれど、汗をかいているのは俺ばっかりだ。さすがもと騎士なだけあって、一本も取れない。魔法を使えばいいという話でもないし、やっぱり正々堂々と勝ちたいものだ。


 それに、魔法でってなったら元騎士団付きの修道女の母さんが出てきてしまうからなあ。剣の父さん、回復魔法の母さんがペアになったら俺の攻撃魔法も無意味な気が……。


「ふむ、アランとやら、中々良い剣の使い手ではないか」


 と、汗を拭き終えた辺りでそれまで地面に転がって暇そうにこちらを見ていたヴァルが口を開いた。


「はは、それは嬉しいね。まさかファイアードラゴン様に褒めてもらえるなんて」


「何を言う、元騎士ならば魔物くらい倒せるだろうに」


「それはまあ、そうだけれどな。でも怪我で引退してからはほとんど実戦経験なしだ」


「ならば一つ、我とやらぬか?」


「それは、ヒトの姿で、剣でかい?」


「もちろんであるぞ」


「いいね、やろう」


 いやちょっと待って、父さん、軽々しくオーケーしないで?


 いくら悪魔ってこと知らずに、ファイアードラゴンだと思っているという事実があってもよ? 普通、断るでしょソレ。ドラゴンってどの種類でもそれなりの強さあるでしょ。絵本とかでは必ず敵として出て来るじゃん。この世界でも、前世でもそうじゃん。最強みたいなとこあるじゃん。


「安心しろ、クリス。魔法は使わん」


「当然だろッ!」


 剣、剣、剣かあ。悪魔って剣使えるのか?


 というか悪魔って何で戦うんだろう。魔法メインかな。それとも呪術的な何かかな。あるいは、ヒトそれぞれ剣とか弓とかバラバラかな。原初って最強だって言っていたし、不得意なんてあるのか?


 俺の不安をよそに、父さんはニコニコしながら木刀を手にした。


「それじゃあ、相手が降参と言うまでだ。それでいいかな?」


「うむ」


「いやちょっと待ってよ二人とも……!!」


「あら、クリスにアランおじさんじゃないの。それから……そのヒトだあれ、クリス?」


「兄さま!」


 しまったあああああああああ! エマとリーゼが来ちゃったああああああああ!


 もし、ここで、ヴァルの奴が、あの傲慢な態度でここらじゃ一番強いとされている元騎士の父さんをぼっこぼこに倒しちゃったら「実はファイアードラゴンより上位の何かなんじゃ」って言われちゃう!


 あと、何よりも、リーゼがヴァルに怯えちゃう!!


 妹を怯えさえることなど断じてあってはならない!


 説得しないと。


「おはよ、エマ、リーゼ。ええっと、エマ、こいつはヴァルっていって、昨日知り合ったドラゴンなんだよ」


 挨拶は簡潔に限る。元気で噂好きのエマには隠せば隠すほど悪手だ。


「ドラゴン!? ちょっとクリス!? それ本当なの!?」


「ああ、そうだ」


「ほんとだよ、エマお姉ちゃん。使い魔?なんだって」


「うっそおお……」


「よし、いくぞアラン!」


 ちょ、ちょっと待って、会話の裏で戦い始めないでえええええええ!!


「二人とも、ちょっと待ってよ、リーゼも見ているし、戦うのはまた今度にでも」


「はああああああああああああああ!」


「うおりゃああああああああああああ!」


 もう! 話聞いてよ! 馬鹿!


 こうなったら俺には止められない。何故か二人も興味津々と言った様子で見ているし。エマが怖がらなくて良かったけど。


 それにしても、実戦じゃないとはいえ戦っている時も、ヴァルは魔力を抑えているんだなあ。魔力操作うますぎるだろ。


 衝突した二人は、木刀とは思えない斬撃と、それを躱す人間離れした動きを繰り広げていく。両者、忖度なしに突っ込む戦い。時間制限はなく、ただ先に一本取ればいいのだから無茶な態勢からでも容赦なく攻めている。むしろ、その方が不意をつけていいみたいに。


 魔法ではそこそこ自信のある俺でも、剣戟の速さに目が追いついていけない。ただ凄い戦いだとしか。


「取ったぞ」


「はは、参った。ファイアードラゴンとも戦ったことはあるんだが、負けるとはね」


 それから、凄い戦いでありながら、ヴァルが手を抜いていることも分かる。


「ヴァルさん、手、抜いたろ」


 そのことは父さんも見抜いていたようで、ちょっとだけ責めるみたいな顔をした。


「人間相手だからな。それに、お前を怪我させるとクリスが怒る。だが、練習試合としては本気を出したぞ。相手を殺さないように手加減したのは、お互い様だろう?」


 にやり、とヴァルが笑った。赤い瞳は蠱惑的な弧を描いている。


「そうだね。けど、そんなに強いなら森で獣を食べて、いつでも空を飛んで帰れたはずだ。どうして息子と、クリスと契約なんてしたんだ?」


「はっはっは、我を試しておったか! まあ、理由は特にはないが、強いて言えば、知らない世界を見たかったのと……んふふ、やはり、一番は面白そうな奴に見えたからだな! はっはっは!」


 背を逸らして豪快に笑うヴァルに、呆気に取られる父さん。けれど数秒後には一緒になって笑っていた。


「はは、そうか、そんなくだらない理由でクリスを、気に入ったのか、おもしろいな、ヴァルさんは」


「はっはっは、そうであろうそうであろう!!」


「「はははははははは!!」」


 もうやだ、二人とも。父さんもいつもみたいなカッコよさどっかいってヴァルの雰囲気に呑まれているし。こんなんじゃ二人に悪影響で──。


「すごい……クリス、クリスの使い魔、強いわ!」


「兄さま、すごいひとに、気に入られた……? すごい、かっこいい……!」


 視線を横へ持って行けば、ぴょんぴょん飛んで騒ぐエマと静かに興奮して顔を輝かせるリーゼ。


 いけない、早速ヴァルの悪影響が二人に……くそ、悪魔の魅了のせいか……ッ!


リーゼがエマをエマ姉さまと呼ばないのは、


「エマ姉さま」

「エマお姉ちゃん、よ、リーゼ!」

「エマ、お姉ちゃん?」

「ああ、可愛い! あたし一人っ子だから、妹って憧れるわあ! もう一回言って!」

「エマお姉ちゃん!」


という会話のためです。


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