1-12.振り回される八歳児
楽しくてつい世界観を考えすぎて、色々な設定が毎話書かれていますが、別に覚えなくて大丈夫です。
ただ強いんだなぁ、なんかすごいんだなぁ、くらいで大丈夫です。
俺は胃が痛くなる思いで夕飯を終えて部屋へと戻った。
まだヴァルの部屋にはベッドなんかがないため、今日は俺とベッドを使うことになる。成人男性の平均よりもヴァルは大きいが、なにせ俺が八歳だ。二人で寝ても狭くはない。
「というか、だ!」
「ん? なんだ?」
早速俺のベッドにダイブしてごろごろし始めるヴァルが俺の声で制止した。
「なんでお前! 俺の両親と打ち解けちゃってるんだよ!」
たった一時間ほどの夕飯とその片付け時間だというのに、あり得ないくらいヴァルは我が家に馴染んでいた。最初は怖がっていたリーゼもお気に入りの人形見せてたし。
「そりゃ、悪魔っていうのは悪い存在って言われながらも、何だかんだと契約してくれる人間が絶えないのだぞ?」
「だからなんだ馬鹿!」
「つまり、不思議な魅力があるのだ。あと馬鹿はやめろ、人間」
「何でもありかよ、悪魔の癖に……つかヴァル、【原初の悪夢】とか言ってたよな。アレ、なんだ?」
「ん? ああ、アレか。何だクリス、お前意味を分かっていなかったのか。ならよし、説明してやろうではないか。ふっふっふ、聞いて慄け」
怪しげに瞳が弧を描く。
うわ、なんかやなこと聞いたかも。
けど気になるしなあ。
『我は偉大なる【原初の悪夢】が一人、黒を司りしヴァルサルクなり!!』とか言ってたしなあ。
ぼうっと考えている間にもヴァルはベッドの上で仁王立ちして俺を見下ろしている。さてはコイツ、仁王立ち好きだな?
「よく聞くがいい! 【原初の悪夢】というのはだな……」
ゴクリ、と思わず唾を飲む。
「一番最初に生まれた六人の悪魔のことだ! 誰よりも強いぞ!」
はっはっはぁ~!と続けられても、俺の頭が話に追いついていない。
最初に、生まれた? 六人の悪魔? 誰よりも強い? ん?
待て、冷静になれ、俺。
原初っていうのはつまり、最初に生まれたからで、悪夢っていうのはつまり、悪魔だからで。それが六人いて、そのうちの一人が俺と契約して今目の前にいるヴァル……。
…………………………んんん?
「驚いて言葉も出ぬか、クリスよ! まあ、仕方がないわな! はっはっは!」
いや、こいつが調子に乗って嘘言っている可能性もあるはずだ。
「お前、我を疑っておるな? いいか、クリスよ。【原初の悪夢】六人衆というのは、他の位の悪魔にとっても恐るべき存在であり、絶対に勝ち目のない相手なのだ。だから成り替わろうとすることは愚か、呼び捨てにすらできないわ、はっはっは! 我は本物のヴァルサルクである!」
「ちなみに、その、黒とか、位とかって、一体……?」
なんか昨晩のマジェスティといい、今日のヴァルといい、情報量多くない? 五時間くらいの映画見てるっけ、俺。
「よくぞ聞いた、クリス! 六人はそれぞれ色を司っていてなあ。黒、赤、青、黄、緑、紫とあるのだ。ちなみに天使は全員白だぞ。全く、個性のないつまらん連中だ」
は、はあ、てか天使にもそういうのあるんだ、へえ。
「位というのは、上から順に【原初の悪夢】が六人、【悪魔公】が各色に二人ずつで計十二名。こやつらは我ら各員に二人ずついる配下みたいなもんよ。そんで次に【大悪魔】、【悪魔騎士】、最後に【小悪魔】であるぞ。下位は数が多く、生きた日々が浅く、雑魚だな。年月を重ねればある程度進化が可能だが、上位二つには到底辿り着けないだろうよ」
は、はあ、さいで。
その、つまり、なんだ?
俺はマジェスティに乗せられてまんまと森へ行き、ヴァルに乗せられてまんまと契約した、と。
最悪の悪魔と??
「……はぁ」
前世もそれなりに苦労したし、色々な困難を経験したし、運がなかったとは思う。
けど、これは、さすがに初の経験だ。異世界へ来てからのことと比べても、初の経験だ。
思わずため息が溢れるのも仕方ない。むしろよく発狂せずに耐えているな、俺、偉いぞ。
「なんだ、溜め息つきおって。さてはお前ねむいのだな?」
「あーうんそうだねー」
もう相手をする気にもなれない。今の俺は心身ともに疲れ切っている。
明日朝起きたら、全部元通りに……。
「ならないよなぁ……はぁ」
なんかいい感じに時を巻き戻す魔法とか、ないかなぁ。
「よぉし! クリスも眠いようだし、もう寝るとするぞ! 我はこのベッドの寝心地が気になって仕方ないわい!」
早くヴァルの部屋、準備しよう。できれば明日にでも準備しよう。
ベッド与えて、机与えて、椅子買って。
そしたら俺、ゆっくり眠れるな。
「夜更かしでもするか? クリスよ? 男同士の会話でも〜」
「却下。寝るぞ」
「むぅ〜、仕方ないなぁ」
その夜、ヴァルの寝相の酷さに悩まされたのだった。もうやだ。
纏めますと悪魔は、
1.【原初の悪夢】6人《黒、赤、青、黄、緑、紫》
2.【デーモンロード悪魔公】十二人
3.【アークデーモン大悪魔】ほどほど
4.【デーモン・ナイツ悪魔騎士】それなり
5.【レッサー・デーモン小悪魔】たくさん
・【原初の悪夢】にはなれない。
・【デーモンロード悪魔公】にはなれるが、ほぼ不可能。よほどの奇跡である。
・下位の悪魔は、年月あるいは名前をもらうなどで進化可能。




