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1-11.悪魔との暮らし


 ああ、マジで、ほんとに、どうしよう……。


「なんだ、早く家に入らぬか」


「お前なぁ……悪魔と契約したなんて、言えるわけないだろ」


「ふむ。現代では悪魔は悪者扱いなのか。これも天使の策略かの。よし、こうしようではないか」


 本当になんでこいつ嬉々としてついてきたかなぁ。


「クリスよ、我に名をつけよ」


「はぁ?」


「なんでも良いわ、いや、かっこいいので頼むぞ?」


 だからなんでいきなり名前を……つーか名前あるだろ、ヴァルサルクって名乗ったろ、お前。


「主人に名を与えられると、使い魔は力を増すのだ。我は今、封印から目覚めはしたものの、完全に癒えたわけではない。そこで、だ。名を与えられれば強くなり、回復するというものよ。つまり……」


 つまり?


「羽をしまうのも、魔力を抑えるのも、簡単になるのである!」


「な、なんだってぇ!」


 それはつまり、悪魔ではないフリができると?


「それなら、森で見つけた魔物に懐かれたって言えばいいかな。そういう事例はあるし、悪魔よりずっといいや。それで、名前だけど……」


「うむ!」


「名前ある奴に付けるのは気が引けるから、あだ名みたいなのでもいいか? 呼び名っていうか」


「良いぞ良いぞ! あだ名というのはアレだろぉ? 仲の良い者が言い合うものであろう? 我はクリストファーをクリスと呼んでいるからな! お前も我にあだ名をつけるがいい! はっはっは」


 さっきから笑い声でかいな、コイツ。ご近所さんに気が付かれるじゃんよ。まだ羽生えてるんだから。


「じゃあ、さっそく……ヴァルサルクだからぁ……ヴァルでどうだ?」


「安直だな」


「お前だってクリストファーをクリスにしたろ」


「うむ、それもそうだな。ヴァル……まあ、響きはかっこいいしな! 認めよう! 我が名はヴァルである!」


 ヴァルサルクもといヴァルがそう宣言した途端、彼の体がとんでもなく黒いオーラ、つまりはこの世を包み込むレベルの黒い魔力に覆われて……次の瞬間、そこには俺と変わらない魔力濃度の人間がいた。


「どうだ! 魔力を抑えたぞ! 完璧にな!」


「すごい、羽もない!」


「はっはっは! 我は名を得て進化したのだ! 弱っている今でも魔力を抑える程度、造作もないわ!」


「進化?」


「魔物や悪魔、天使といった者は主人に名を与えられると自己を強く認識し、進化するのだ。通常であれば鬼が鬼人になったり、ゴブリンがホブゴブリンになったりするのだが、我の場合は最初から最終進化形態だからな、強くなるだけで見た目の変化はないのだ」


 ふーん、異世界って色々あるんだなぁ。


「まーいいや、遅くなると怒られるし、中へ入ろう。いいか、ヴァル、絶対に物を壊すな暴れるな、森で俺に懐いた魔物ってことにしろよ」


「うむ、分かったぞ。では、我は森に迷い込んだファイアードラゴンの子供の擬人化ということにしておこう」


 ファイアードラゴンが何かはよく知らないが、まあいい、お腹減ったし早く家に入ろう。


「ただいまー」


「おかえり、クリス、遅かったわね……って、あら、その人はどなた? 見たことない人ねぇ……旅の方かしら」


 食卓に料理を並べていた母さんが優しい笑顔で出迎えてくれる。


「兄さま、その人、だぁれ?」


 六歳になった我が愛しの妹リーゼが母さんの背後に隠れるようにしてこちらを見る。この村にはいつも同じ人しかいないから、知らない人が怖いのだろう。


「ええっと、ちょっと、事情があって……ご飯食べながら話すよ」


 あはは、と乾いた笑いが漏れる。母さんは訝しむような顔をしたけれど、俺を信じてくれているのか、「じゃあもう一人分ご飯を並べないと」と言ってくれた。


「なぁ、お前、ご飯食べるのか?」


 母さんがキッチンへ向かったのを見てこそこそとヴァルに聞く。


「無論、食べるに決まっておろう? まさかお前、我に飯抜きというんじゃあるまいな」


 泣きそうな顔やめてくれ。


 二百年も封印されていたというし、ご飯が恋しいのだろう。その期間に人間の文化は大いに変化したはずで味の保証はできないが、仕方ないだろう。


「さ、あなたも座って」


「おお、今日も夕飯美味しそうだな」


 父さんも自室での書類仕事を切り上げて席につき、みんなでいただきますをする。悪魔であるヴァルにはその習慣がないのか、あるいは単純に久しぶりすぎて忘れているのか。少し遅れての挨拶だった。


「それでクリス、その方は?」


「ええっと、彼はヴァルって名前で、単刀直入に言えばさっき森で迷子になっているのを見つけて、成り行きで主従契約を交わしたファイアードラゴンなんだ」


 ふっふん、と隣でヴァルが嬉しそうな鼻を鳴らす。こいつ、悪魔としての誇りみたいなのないのかな。冒険者にとっては日常茶飯事で出会うドラゴンに化けるとか。


「ファイアードラゴンがなんでこんなところに……」


 あ、やべ、そんなの考えてなかった。


 どーしよ、ええっとぉ、本で読んだ以外の知識ないよぉ。


「それがな、空を飛んでいたところ綺麗な川を見つけてな、ぼうっとしていたら群れと逸れてしまってなぁ。腹が減って森に入ったはいいが、迷子になってなぁ、そこで! クリスが獣相手に戦っているのを見て只者ではないと思い声をかけたのだ!」


「獣! クリス、怪我は……」と母さん。


「え、ああ、ないよ?」


「ヴァルさん、でしたか。それで?」と父さん。


「うむ。話せばなかなかいい奴だったしのぉ。この歳で魔法を使いこなすのは大したものだ、魔力量も半端ないしな。それで契約を交わすことにしたのだ。どのみち、我のいた群れはどこ行ったか分からんしな。そもそもドラゴンは気ままな生き物であるゆえ。さらにはヴァルと名をもらったことで擬人化が可能になったのだ!」


「なるほど……それで、獣はどうしたんです?」


「え? あ、えっと、それはぁ」


 やべ、あとで獣の死体取りに行くとか言わない? 貴重な肉だもんなぁ。


「それならば我が食ってしまったわ。腹が減っていたからなぁ」


 ナイスヴァル! なんかお前、嘘つくの慣れてるな! さすが悪魔!


「クリス、お前今失礼なこと考えたな?」


「そんなことないよ、ヴァル。それでね、母さん、父さん。どうかヴァルをこの家に置いてくれないかな?」


 俺が頼み込むと、母さんと父さんは顔を見合わせた。そりゃそうだ、この辺にドラゴンとか普通居ないもん。いくら普段は聞き分けのいい優秀な息子が連れてきたとはいえ怪しいことこの上な……。


「いいわよ」と母さん。


「部屋も空いているしな」と父さん。


 うっそぉ! そんなあっさり!?


「リーゼ、ちょっと、こわいけど、ともだち、ふえるのうれしい……」


 リーゼ! なんていい子!


 いくら悪魔相手でもリーゼに手は出させないぞ!


「ふふ、それにしても使い魔だなんて、八歳にしてすごいわね、クリス」


「は、ははは、ははぁ、そんなことないよ」


 単に俺が断れなかっただけだしなぁ!


 こうして、ヴァルは我が家の二階、俺の部屋の斜め前の部屋に住むことになったのだった。


「よろしくなぁ、クリスよ!」


「あ、うん、よろしくね、ヴァル」


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