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1-1.不幸な青年、それすなわち俺。

生前が不幸過ぎる青年が、不思議な存在からの誘いで異世界に転生。

生前の記憶を持ったまま、転生補正で無双する話です。

最初は村で、そのあとは学院で。そこから先はあんま考えていません(作者情報)。

学院いくまではとんとん拍子で進みたいので、展開早いかもです。

どうぞ、ラストまでお付き合いいただけると幸いです。



 ──人生、人それぞれだとは言うけれど、それにしたってこの仕打ちはないんじゃないだろうか。


 目の前の出来事に悲しくなって、一周回って涙も出て来ない。


 呼吸が出来ず荒くなる心臓。

 手足がふわりと浮いて、危うく天井にたたきつけられそうになる。


 というか、この状況での天井ってどこだろう。


 辺りでは多くの人が叫び、あるいは気絶している。身体の何処かをぶつけて怪我をした人がいるのか、浮遊する空間を数滴の血が飛んでいく。


 ──散々だなあ、俺の人生。


 まだ死んではいないのに、走馬灯のようにこれまでの出来事が瞼の向こうに思い出されていく。


 小学生の時は帰り道で不良に絡まれて大怪我。入院とはいかなかったけれど、体格も人数も勝っている相手に一方的にやられる感覚は怖くて、怖くて、それでいてガキくさいプライドのせいで惨めに感じられた。仕返ししてやる力があればいいのにって。


 中学生の時はいじめられているクラスメイトを守ろうと、なけなしの勇気を振り絞っていじめっ子に立ち向かったら、後日何故か、俺がいじめられるというオチ。しかもいじめられていたクラスメイトは、もういじめられたくないからという理由で連中と一緒に俺を蹴ってやがる。


 高校生の時は学校そのものは普通だったけれど、バイト中にコンビニ強盗に出くわし「金を出せ」「金庫にあるんです」「とっとと持って来い」「店長しか番号を知らないんです」の問答の末、ナイフで刺された。幸い急所ではなかったけれど、せっかくの夏休みが入院とその後に迫る課題で終わったという悪夢。しかも刺すまでしておきながら犯人は金諦めて逃げたし。あり得ねえ。


 大学生の時はサークルの後輩が何やら困っていたから声をかけたら上級生に脅されているんだと相談されて、その上級生とやらが俺の高校の先輩だったから和解させてあげようと思ったら、何故か俺が上級生に狙われる羽目になったし。一発殴られた辺りで互いの会話が噛み合っていないことに相手も気が付き、一度話し合った結果後輩が俺に嘘を付いていたことが発覚、先輩と一緒に問い詰めに行くことに。まあ、先輩が「そっちが騙されているとも知らず悪かった」と言って手当までしてくれたからいいけど。後輩は許さねえ。


 そんで、今、か。


 社会人になって、飛行機に乗って。


 しかも本当は昨日乗るはずだったのに、上司から「台風危ないから明日ゆっくり帰って来な」と言われ一日ずらしたら、これか。


 飛行機ハイジャックされて、犯人が無理難題を警察に要求、却下され激昂、そんでみんなで仲良くお陀仏になる道選びますってか。


 ざけんな、犯人。


 というかやっぱおかしいだろ。


 そりゃ、みんな、それぞれ苦労していると思うし、尊敬するし、同情もする。


 けど、俺の人生不運多くね?


 さっき思い出したやつだけじゃない。


 歩いていたら暴走した車が突っ込んできたこともあったし、落とし物を拾って交番へ持って行ったら持ち主に泥棒と勘違いされたし、人懐こい大型犬に俺だけ吠えられるし。


 母さんも、父さんも、生んでくれたこと、感謝しているけどさあ。


 さすがにこれは、やり直したくもなるってもんだわ。


 窓の外、海が目に映る。台風の過ぎた後の晴天が、炎で遮られていく。飛行機の翼が燃えつつあるんだ。この調子なら、海に落下するまでに諸共爆散するかも。てか、それまでに俺も気絶するかな。


 酔いが、酷いし。

 呼吸、しんどいし。

 視界が、歪んで。

 手足、感覚なくて。


 つーか、痛いな、足。


「ぁれ」


 よく見れば足の上に誰かの荷物が乗っている。座席やベルトに引っかかって外れなくなったその荷物が、俺の足を器用に押さえつけていた。そのくせ、飛行機は容赦なく揺れて、気を抜けば空中を飛び交う荷物が俺の頭を狙っている。そのたびに足は一層強く締め付けられて。骨、軋みそう。


 ──最悪だよ、ほんと。


 明後日、里沙の誕生日なのに。

 生意気な妹だけど、何だかんだ俺の誕生日毎年祝ってくれて。

 だから俺も、お返ししなくちゃいけねえのに。

 ちゃんと出張先で、お土産兼プレゼント、選んだのに。

 今、持って帰るところなのに。


 母さん、父さん、ごめん、俺。怪我ばっかで、心配かけて。

 大人になったから、今度は俺が支えなくちゃって、思ったのに。


 薄く開く瞼の上を、黒い何かが飛んでいく。スマホだ。俺のポケットから出たスマホ。

 それを見て、ふと思いついた。もうそんな時間残されていないかもしれないし、結局意味を成さないかもしれないけれど、でも。


 痺れる腕を伸ばして掴み、指紋認証で起動した俺はボイスメモを開いた。


「母さん、父さん、里沙、ごめん、俺、死ぬわ。迷惑かけてばっかで、ごめん。俺の分も生きて」


 不運な俺は知っている。仮に、爆散せずに上手いこと海に墜落しても、他の何名かが助かっても、俺は死ぬ運命なんだろうと。けど、家族は違う。家族はみんな、俺みたいな不運な人生は送っていない。だからそっちの幸運補正かかって、この声、届くといいけど。


「俺さ」


 重力に導かれるようにして墜落が早くなる。炎が機体を包む。海面との衝突まで、あと十秒くらいかな。犯人グループが神がどうとか喚いているのが聞こえる。


「おれ」


 嗚呼、泣きたいな。

 こんな結末、望んじゃいないのに。

 生まれ変わるなら、幸せに。

 誰かを救う力と、誰かを守る力と、誰かを泣かせない強さを。


「ふたりのこどもで、しあわせでした」


 まだ、まだ、まだ。

 やりたいこと、やれてないこと、いっぱいあって。


 まだ、まだ、まだ。


「いきて、いたかったなあ」


 同時、とてつもない衝撃が背骨を伝った。痛いなんて感じる間もなく、俺のスマホを掴む指は偶然にも録音の停止ボタンを押して。


「       」


 声にならない空虚な悲鳴を上げて、機体は海に落下した。


 反射的にスマホを守るように身体で覆った状態で、俺は気絶し。


 そこから先は、知らない。







 

 

『起きて』


 目を、開けば、そこには何もなかった。永久に続く真白の世界。色はなく、透明みたい。誰もいない。


 そっか、ここ、死後の世界ってやつか。


『それは少し、違いますね』


 誰かが言った。誰が? ここには俺しかいないのに。


 あれ、立てない。下を向いても、足がない。というか、下半身がないな。手も、ない。頭も、ない。上半身も、ない。ないないない。ないない尽くしだ。これが魂だけってやつか?


『そうとも言いますが、やっぱり少し違いますね』


 声のない俺の考えに誰かが返す。誰だろう。


『私は……そうですね、貴方の世界で言う神のような存在です。とりあえず……ミラージュとお呼びくださいな』


 神? そんな大層な存在が俺になんのようだろう。

 いや、あれか、死んだんだから天国か地獄か、行き先が審判されるのか。


『いえいえ、違いますよ。けれどそうですね、行き先の審判という点では合っています』


 と、いうと?


『こう言ってはなんですが、九十九(つくも)(しゅう)、貴方の人生はあまりにも不運です。そこで、人生をやり直すチャンスを与えようかと』


 人生を、やり直す?

 母さんと、父さんと、里沙と、もう一度?


『いえ、申し訳ないのですが、貴方の世界は神への信仰が薄れていますから、時間を巻き戻すだとか死者蘇生だとか、そういった影響を及ぼせないんです。そもそもそれは私の分野ではないですし。代わりに、私が影響力を持つ別世界で再度生まれることができます。世界は随分と変わりますが、貴方次第でどんな人生でも選べますよ。生前の不運を帳消しにするくらいの才能を付与しておきますからね』


 生前の不運を帳消しとか、言って欲しくないかもな。俺としては、あのまま暮らすことを上回る幸福はないからさ。


『それは……失礼しました。そうですよね、誰だって、最初の世界で幸運を掴みたい』


 いいよ、謝ってくれれば。というか、神って謝るんだ。意外かも。


『神みたいなもの、ですからね。それで、どうされますか?』


 そうだな、それって、生前の記憶は持っていけるの?


『選べますよ。ただ、こういったことをやった経験はあまりありませんからね。もしかすると人によっては生前の記憶を思い出すのに数年かかるかもしれません。そもそも赤子は意識を持ちませんから。生まれた途端、前世は飛行機落下で死んだんだっけ、なんて考える赤子はいないでしょう? 意識を自覚する五歳くらいまで忘却している可能性も。もちろん、最初から覚えている可能性の方が高いですが』


 そっか。


 新しい世界、か。

 異世界ってやつかな。興味はある。正直、このまま死ぬとか嫌だし。新しい家族ができるっていうのは不思議な感覚だけど。もしかしたらこれ、走馬灯の続きの夢かもしれないし。だったら、せっかくだし頷いてみてもいいかもしれないな。


 まだ、死にたくないし。


『そうですか。では、そうしましょうか』


 姿なき神様もどきのミラージュは優しそうな、嬉しそうな声でそう言った。途端、世界は光に包まれて。


『行ってらっしゃい、九十九秀』

 

 飛行機の墜落とはまた違う浮遊感が身体を抱く。無重力に投げ出されたみたいな感覚だ。


『幸運を祈ります』


 意味ありげな声が、遠くで消えた。


第1話、第2話でプロローグといったかんじです。

とりあえず、20話ちょっとストックあるので、第一章は毎日投稿でいきます。そのあとはお休みをもらい、ストックが貯まったらまた投稿します。

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