4話 サーモンブルーと夏の夜
サーモンブルーは最近、連日の仕事に疲れていた。毎日のルーチンに飽き飽きしていた彼は、何か新しい刺激を求めていた。そんなある日、彼が寿町の商店街を歩いていると、ひときわ香ばしい匂いが漂ってきた。
「このいい匂いは……?」
サーモンブルーがたどり着いた先は、小さな天ぷら屋だった。
「ああ、天ぷらの匂いか。久しぶりに食べてみるかな」とサーモンブルーはひとりごとのように呟いた。
天ぷら屋の前に立ち止まり、店内から漏れる香りをじっと嗅ぐ。揚げたての衣、季節感を感じさせる野菜や海鮮の香ばしさが、サーモンブルーの食欲を掻き立てる。
「小さな店で出てくる天ぷら。風情があるじゃないか」と彼は再びつぶやいた。
そのまま店内に入り、天ぷら屋のメニューを見つめる。ショーケースには揚げたての天ぷらが並び、その見た目の美しさに彼は目を奪われた。店主らしき人物が、彼の姿を見て微笑む。
「いらっしゃいませ、どうぞごゆっくりお選びください」と店主が声をかけた。
「ああ、どうも。実はここに初めて来たんです。何かおすすめの天ぷらはありますか?」
店主は優しく微笑みながら、サーモンブルーに応じた。
「初めてのご来店、ありがとうございます。当店自慢のおすすめは、季節の野菜と特製の海鮮ミックスです。今日は特に新鮮なエビと、かぼちゃの天ぷらがおすすめですよ」と店主がお勧めする。
サーモンブルーは満足そうに頷く。
「それでは、そのセットをお願いします」と注文した。店主もまた、旬の食材を大切に扱うことに誇りを持っている様子だった。
席に座って少し待つと、揚げたての天ぷらが綺麗に盛られたお盆が運ばれてくる。彼の目の前には、色鮮やかな野菜とエビ、そして香ばしく揚げられたかぼちゃの天ぷらが並んでいた。
「どうぞ、お召し上がりください。揚げたてで熱々ですので、お気をつけてどうぞ」と店主が丁寧にサーモンブルーに伝える。
彼は先ず最初に、エビの天ぷらを選び、その香り高い身を口に運ぶ。サクサクの衣と、ぷりぷりしたエビの食感に、彼の表情が一変した。その後、かぼちゃの天ぷらを頬張り、甘い味わいに驚いた。
「うん、これは良い。素朴な料理ほど、心地よい刺激を与えてくれるんだな」とサーモンブルーは心の中で呟いた。
サーモンブルーは天ぷらを堪能しながら、心地よいリラックス感に包まれていた。彼の心は日常の疲れから解放され、つかの間の幸福感に包まれる。
「よし……今日は飲んでしまおう」
サーモンブルーは少し一服するためにビールを注文することに決めた。店主は彼のリクエストに応じて、地元の地ビールを勧めた。
「こちらは当地で人気の地ビールです。爽やかな味わいで、天ぷらとの相性も抜群ですよ」と店主が語りかけると、サーモンブルーは興味深そうに頷いた。
ビールが運ばれてくると、彼はグラスを手に軽く一口飲む。冷たくて爽やかな泡立ちが口の中に広がり、天ぷらの揚げたての香ばしさと相まって、さらに食欲をそそった。
「うん、これはいい。旬の天ぷらにキンキンのビール、最高の組み合わせだ」とサーモンブルーは笑顔で自分に言い聞かせた。
彼が天ぷらとビールを楽しむ中、商店街の雰囲気も徐々に夜の色合いへと移り変わっていった。街灯の柔らかな光が路地を照らし、人々の姿も少しずつ変わっていく。サーモンブルーは、ほろ酔い気分で店主との会話を楽しんでいた。
「この辺りの商店街、昼間とはまた違った風情がありますね」と彼は店主に話しかけた。
店主も微笑みながら答える。
「はい、夜になると少し静かになりますが、その分落ち着いた雰囲気がありますよ。夜限定の天ぷらも、昼間とは違う時間帯ならではの味わいがあります」
サーモンブルーはビールを喉ごしに流し込みながら、店主の言葉にうなずいた。
「確かに、静かな夜だとゆっくり味わえますね」
彼の頬には穏やかな笑みが浮かんでいた。仕事のストレスがどこか遠くへ行ってしまったような、そんな安堵感を感じていた。
「そういえば、今日は夏祭りがあるみたいですよ」と店主は思い出したように言う。
「祭りか。長らく行ってなかったな」
サーモンブルーは天ぷらとビールを楽しんだ後、商店街を抜け出し、寿町の夏祭り会場へと向かった。歩いていくうちに、賑やかな屋台の音や人々の笑い声が聞こえてきた。
「やっぱり夏祭りの雰囲気は良い」と彼はひとりごとを漏らしながら、会場に足を踏み入れる。屋台には焼きそばやたこ焼き、かき氷など、様々な食べ物が並んでいた。子どもたちが浴衣を着て駆け回り、大人たちはビール片手にくつろぐ光景が広がっている。
彼は気になる屋台を選びながら歩き、地元の名物や新しい料理を試した。焼きとうもろこしや綿菓子、そして地ビールまで、彼は夏祭りならではの楽しみを存分に味わった。
しばらくすると、大きな花火が打ち上げられる合図が聞こえた。色とりどりの花火が夜空を彩り、人々の歓声が会場に響き渡る中、サーモンブルーも大きな笑顔でその美しい光景を眺めた。
「これぞ夏の風物詩だな」と彼は心の中で感慨深く思いながら、花火の煌めきを見つめた。
「ふふ、どうせならアイツらも連れてきたかったな」とサーモンブルーはひとりごとのように呟いた。
夏祭りの華やかな雰囲気の中、彼の心にはメンバーたちとの思い出が浮かんでいた。仕事に追われる日々で、彼らとの時間が減ってしまったことが少しだけ寂しく感じられた。
「ま、今日は自分だけでも十分楽しめるだろう」と彼は自分に言い聞かせ、屋台を巡りながら新しい料理を試したり、地元の名物を堪能したりしていた。
しばらくすると、花火が打ち上げられる合図が鳴り響く。夜空を彩る色とりどりの花火が、会場全体を一気に華やかに彩った。
「すごいな……」とサーモンブルーは口を開けた。
彼の心の中には、一瞬だけでもメンバーたちとこの光景を共有したいという強い思いがあった。しかし、今はその彼らとは違う場所で、彼独りの時間を楽しむしかなかった。
花火の終わりとともに、会場から人々が次第に散っていく。サーモンブルーもゆっくりと商店街に戻りながら、夏祭りの興奮冷めやらぬ気持ちを胸に抱えていた。
「今日は良い経験ができたな」と彼は振り返りながら思った。
商店街の路地に戻ると、店主が店先で待っていた。彼はサーモンブルーの帰りを心待ちにしていたようだった。
「楽しんできましたか?」と店主が優しく尋ねる。
サーモンブルーは笑顔で答えた。「はい、とても良い夜でした。夏祭りも楽しかったですよ」
店主も微笑みながら「こちらこそ、お越しいただきありがとうございます。またお立ち寄りくださいね」と温かく送り出してくれた。
彼は商店街を後にしながら、今日の出来事を振り返った。新しい食の体験、夏の風物詩である夏祭り、そして一人の時間の価値を改めて感じた夜だった。