3話 邪流寿司師とトマト寿司
寿町の人々は、今日も心ゆくままに寿司を堪能していた。しかし一部の人々は、とある寿司屋だけに連日通うようになっていた。多くの名店が立ち並ぶ町の中で、一際異彩を放つ寿司屋が現れたと言う。
「トマト寿司っていうのが流行ってるらしいんだけど……気にならない?」
その噂を聞いたハマチピンクが、イカイエローに尋ねる。
「トマト寿司?聞いたことないわ。そんなんが美味いんか?」
イカイエローは半信半疑で答えた。
「うーん、どんな味なのかな?トマトっていうと酸味があるし、寿司と組み合わせるとどうなるんだろう?」
ハマチピンクは考え込んでいた。
二人はその夜、噂の寿司屋「トマト・アンダースシー」を訪れることに決めた。店内は明るく、異国情緒溢れる装飾が施されていた。メニューを見ると、確かにトマトを使った寿司の種類が並んでいる。
「この『トマト巻き』っていうのが気になるな。試してみよっか?」
ハマチピンクが提案した。
「おん。それに『トマト寿司丼』も気になるわ。寿司は試しや。一緒に注文してみるで」
料理が運ばれてくると、二人は興味津々で試食を始める。まずは『トマト巻き』から一口食べると、口の中に広がるトマトの爽やかな酸味と、寿司特有の旨味が絶妙に調和していた。
「うわー、意外と合うね!トマトの酸味が寿司の味を引き立ててる感じがするなぁ」
ハマチピンクが感心しながら言った。
イカイエローも満足そうに頷く。
「ほほーん、これはなかなかやるな。トマト寿司、意外とイケるで!」
そして、次に挑んだのが『トマト寿司丼』だった。彼らはそれぞれの丼を頼み、新しい味覚の体験に興じた。トマトのみずみずしさが、丼の具材と絡み合い、独特の食感と味わいを生み出していた。
「これはまた違う楽しみ方だね。トマトが主役の寿司丼、これは新しい発見だ」
ハマチピンクが笑顔で言った。
イカイエローもうなずきながら「寿町の中でも、こんなオモロい寿司が楽しめるとは思わなかったわ。ここ、意外とアリかもしれんな」
「お楽しみ頂けてマスか?」
奥からニコニコと微笑みながら現れたのは、板前とは程遠いレストランのシェフのような格好をした男だ。
「はい、とても美味しいです!トマト寿司の新しい味……ビックリです!」とハマチピンクが答えると、シェフはさらにニコニコしながら彼らに近づいた。
「ありがとうございマス。私の名前はエンドロ。一週間前に『トマト・アンダースシー』を開きまシタ」とシェフは少しカタコトで自己紹介した。
「驚いたで、シェフ。こんな変わった寿司、ワイは初めて食ったわ!」
イカイエローは豪快に笑う。
「ソレは良かったデス。トマト寿司を楽しんでいただけて、私も嬉しいデス」とエンドロは満足げに言った。
「実は、トマト寿司は私の故郷の伝統料理にインスパイアされているんデス」
「へぇ、シェフの故郷ってどこなんですか?」
ハマチピンクが興味津々で尋ねた。
「イタリアの小さな村デス。そこでは、新鮮なトマトと魚を使った料理が日常的に食べられていマス」とエンドロは答えた。
「なるほど、だからトマトと寿司の組み合わせがこんなに自然なんですね」
「そうデス。私たちの村では、トマトは非常に重要な食材であり、色々な料理に使われていマス。だからこそ、ここ寿町でこのアイデアを試してみたかったのデス」とエンドロは続けた。
「いやー、それにしても見事に成功したな。トマト寿司がこんなにイケるとは思わんかったわ」
イカイエローが感嘆の声を上げる。
「ありがとうございマス。これからも新しいメニューを考えていくつもりデスので、またぜひいらしてくださいネ」とエンドロは微笑んだ。
「それは楽しみだね。また来るよ!」とハマチピンクが元気に答えた。
その夜、二人は寿町の街を歩きながら、新しい味覚の体験に興奮を抑えきれなかった。
「トマト寿司、他の人にも勧めたいな」
「ほんまやな。何ならワイ、もう食いたなってるわ」
*
その後もハマチピンクとイカイエローは、トマト寿司の魅力に取り憑かれたように「トマト・アンダースシー」を訪れ続けた。しかし、彼らが頻繁に通うようになってから、徐々に異変を感じるようになった。
「最近、トマト寿司がどうしても食べたくなるんだよね」とハマチピンクが呟いた。
「ワイもや。何か体がトマト寿司を求めてる感じがする」とイカイエローも同意した。
不思議に思った二人は、ある日エンドロにそのことを尋ねることにした。
「シェフ、最近どうしてもトマト寿司が食べたくなるんですが、何か特別な材料でも使っているんですか?」とハマチピンクが尋ねた。
エンドロは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに微笑みを浮かべた。
「それはトマトの持つ特別な魅力デス。私の村では、トマトには健康に良い成分がたくさん含まれていると言われていマス。だから、体が自然と求めるのでショウ」
「そ、そうなんですね……」
ハマチピンクは少し納得しつつも、不安を拭いきれなかった。
しかし、数週間が過ぎるにつれ、二人の依存はますます強くなった。ほかの寿司を食べても満足感が得られず、トマト寿司を求めて夜も眠れないほどだった。
「こんなにトマト寿司が食べたくなるなんて、おかしいよね?」
ハマチピンクが心配そうに言った。
「おん、確かに異常やな……。ちょっと調べてみる必要があるかもしれんな」とイカイエローが提案した。
二人は寿町の図書館やインターネットでトマト寿司について調べ始めた。やがて、エンドロの村に伝わる古い文献を見つけた。その文献には、特定のハーブがトマトと一緒に使われると、強い依存性を引き起こす可能性があると記されていた。
「これ、もしかしてトマト寿司に何か関係があるんじゃないかしら?」
「そうかもしれん。これを確かめるために、もう一度直接聞いてみようや」
トマト寿司の真相を確かめるべく、二人は決意を固めた。
次の日、二人は「トマト・アンダースシー」に向かい、エンドロに直談判することにした。
「シェフ、私たちはトマト寿司に何か特別なものが含まれているんじゃないかと疑っています。正直に教えてください」ハマチピンクが真剣な表情で言う。
エンドロは一瞬驚いたように見えたが、その表情はすぐに変わり、冷たい笑みが浮かんだ。
「フフフ、やはり気付かれてしまいマシタか……」
エンドロの声は低く、威圧感を放っていた。
「実を言うと、私は『邪流寿司師』。トマト寿司を通じて、皆さんを虜にする計画を進めていたのデス」
「じゃ、邪流寿司師?」
ハマチピンクは驚き、少し後ずさった。
「その通リ。私の真の目的は、トマト寿司を通じて寿町全体を支配すること。トマトに含まれる特殊なハーブで人々を依存させ、私の意のままに操ることができるのデス」
「なんちゅうことを……」
イカイエローはわなわなと拳を握りしめる。
「悪のために寿司を使うんは許せん!ワイらがその計画、意地でも止めたる!」
「フフフ、それはどうかナ?」とエンドロは不敵な笑みを浮かべている。
「すでに多くの人々が私のトマト寿司に依存していマス。私を倒したところで、アナタたち二人だけではどうしようもないデショウ」
ハマチピンクとイカイエローは、エンドロの言葉に一瞬気圧されたが、すぐに決意を固めた。
「そんなことない!私たちは寿町のみんなを守るためにここにいるんだ!」ハマチピンクが強い口調で言った。
「せや!ワイらが黙って見過ごすわけにはいかん!」イカイエローも力強く応じた。
エンドロは冷ややかに笑い「ならば、私のトマト寿司の真の力を見せてあげまショウ」と言い放つと、キッチンの奥から特製のトマト寿司を取り出した。
「アナタたちがこの寿司を食べれば、完全に私の支配下に置かれるデショウ。しかし、この寿司を食べれば味わったことのない幸セが、永遠に続ク………どうデス、試してみますカ?」
エンドロは挑発的に寿司を差し出した。
「ふざけるな!」
ハマチピンクが叫び、エンドロに向かって飛びかかった。しかし、エンドロは素早く動き、ハマチピンクをかわした。
「フフフ、無駄な抵抗デス。あなたたちは勝てまセン」
エンドロはそう言い放つと、パチンと指を鳴らす。
「既に計画は進んでいるのデスよ」
キッチンの奥からワラワラと現れたのは、寿町の住人たち。しかしその目は虚ろで、明らかに正気ではない。
「アカン……完全に操り人形や」
イカイエローはその光景に戦慄する。
「そこまでじゃッ!!」
すると突然、奥深くから響き渡るような声がした。
その声に驚いたエンドロが振り返ると、そこに立っていたのは杖をついた小柄な老人だった。
「ア、アナタは……?」
エンドロが驚きながら言葉を詰まらせた。
「ジャ、ジャパニーズレッドやと!?なんでこんなとこに……」
イカイエローは信じられないと言った顔で、その老人を見ている。
「ジャパニーズレッド?ヒーローなの?このお爺さんが?」
ハマチピンクはより信じられないと言う顔で、イカイエローと老人を交互に見る。
エンドロの目の前に突如現れたジャパニーズレッドは、古き時代から伝わる寿町の守護者だった。
「エンドロよ、悪事はここまでじゃ。寿町の人々を操るなど許されることではない!」
エンドロは不敵な笑みを浮かべながら応じた。
「ホウ。アナタがジャパニーズレッド……いい歳をしてまだ子供じみた正義感を持っているようだネ。しかし、何が出来ると言うんダ?」
ハマチピンクとイカイエローは、ジャパニーズレッドが現れたことに驚きながらも、彼の力に頼るしかないと悟った。ジャパニーズレッドは残り少ない寿司エネルギーを使って寿町の住人たちを正気に戻すため、杖を振りかざし始めた。
「ハイヤー、トマト寿司の呪縛を解け!元の自分に戻れーい!」
ジャパニーズレッドの声が響き、杖から放たれた寿司エネルギーが、住人たちの体を包み込んでいく。
最初は住人たちの身体が震え、その後、目にはっきりとした光が戻ってきた。彼らの顔には驚きや混乱が交じり合い、自分たちがどうしてここにいるのか理解しつつあった。
しかし、エンドロはまだ諦めていなかった。彼はジャパニーズレッドに向かって、寿司を食べるように誘う。
「ジャ、ジャパニーズレッド!トマト寿司を味わってみませんカ?この美味しさに魅了されること間違いなしですヨ!」
エンドロは狼狽しながら言った。
ジャパニーズレッドは差し出された寿司を冷たく眺めた後、言葉を返した。「お前の寿司にわしは惑わされん。寿司は人々を喜ばせるためにある。しかし、お前の寿司はただの道具に過ぎん!」
エンドロはジャパニーズレッドの言葉に怒りを覚え、トマト寿司を振りかざして攻撃を仕掛けた。しかし、ジャパニーズレッドは敏捷に身をかわし、杖で勢いよく足元を突き転倒させる。
「ぐあっ………!」
エンドロは悔しそうにうめき、再び攻撃を試みようとしたが、寿町の住人たちは一斉に彼を取り囲んだ。
「エンドロさん、これで終わりにしましょう。寿町のみんなに迷惑をかけたことを反省してください」
ハマチピンクが厳しく言った。
エンドロはしばらく抵抗を試みたが、寿町の住人たちの力には勝てず、最終的には身柄を拘束された。ジャパニーズレッドは寿町の警察に連絡し、エンドロを逮捕するよう手配した。
こうしてトマト・アンダースシーでの事件は終息した。しかし、その後も寿町ではトマト寿司の人気は衰えることなく、ハーブを使わないトマト寿司が握られ、多くの人々がその味を楽しんでいた。
ジャパニーズレッドは事件後、寿町の人々に感謝されながらも、謙虚にその場を去った。彼はニギリンジャーXに後を託し、再び他の街々を守るために旅に出たという噂が立っていた。
*
「エンドロの件で学ぶべきことが多いわね。寿司に秘密の成分を加えることは、人々の健康や幸せに大きな影響を及ぼす可能性があるのよ」とハマチピンクは考え深く言った。
「せやな……トマト寿司は確かに美味かったけど、やっぱり普通の寿司が一番や」とイカイエローが微笑んで言った。
その後、寿町では特殊な寿司が厳しく監視されることになり、健康や安全に配慮した寿司文化が再び栄えた。寿町の名店たちは、より良い料理と安全性を追求し、新たな食文化を育んでいくことだろう。
【次回予告】
一方その頃、街の仕事に追われるサーモンブルー。彼は休息と日常からの解放を求め、とある天ぷら屋へと足を踏み入れるッ……!!