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「あー、暇だなぁ……」
俺現在海辺にいる。
そこにある石積みの波止で釣りをしていた。
「全然掛かる気しないわ……スポットをミスったかなぁ」
俺の趣味は釣りだ。
寧ろ釣りしかしていないまである。
通っていた地元の高校も釣りにハマりすぎてしまい無事退学してしまった。
俺には後にも先にも釣りしか残されていない。
でも釣りさえできればハッピーなので何も問題はない。
「やばいな。周りにも誰もいなくなっちまった。これはもう退却して他の場所探したほうがいいかも」
持ってきていたクーラーボックスには一匹の魚も入っていなかった。
釣れるのは稚魚ばかり。
今日はこの辺りはしけてるのかもしれない。
「さってと、今日のところはもう帰るか。なんで俺釣りなんてしてるんだろう」
俺は俺自身なぜ釣りが好きなのかわかっていない。
いつ好きになったのかすら思い出せない。
つまり俺は生まれつき釣りに愛され、釣りを愛してきたということだ。
理由なんてそれだけで十分だろ。
「帰ったら手洗おっと。海汚いし」
そんな釣りが大好きな俺のいつもの日常。
そうした何気ない日々が崩れ去る日がくるなんて、このときは微塵たりとも思っていなかった。
ズルん!!
「あ……」
凡ミスだった。
ちょっとしたところで思いっきり足を滑らせてしまった。
そのまま波止から滑り堕ちてしまう。
ガチン!!
頭に火花が散った気がして、俺の意識はそのまま途絶えた。
「うぅ……あれ?」
「うむ、目覚めたかの」
気づけば俺は知らない場所にいた。
白い神殿のような場所だった。
「え、えええ!?」
目の前には白いヒゲを蓄えた老人がいた。
意味が分からなすぎて大きな声を上げてしまう。
「混乱するのも無理はないの。落ち着くまで待ってやるから、落ち着くと良い」
落ち着いて目の前の人物を観察する。
頭の上に天使の輪っかがあること以外普通の老人だった。
「落ち着きました。僕はどこにいるんですか? それにあなたは一体誰なんですか? ここはどこであなたは誰……僕の身に一体何が……ああ、死にたくなってきた……」
「落ち着いてないのう。全く落ち着いとらん。まぁ大丈夫、事情はちゃんと説明してやる。まずここは天界じゃ。そして儂は神。地球にて死亡したお主を不憫に思ってこうして呼び出したというわけじゃ」
え……俺が、死んだだって?
「いや、僕はこうして生きてると思うんですが」
「それは儂がお主の魂を呼び出しておるからに過ぎん。魂に刻まれた情報をもとに、肉体を再現しておるのじゃ。そうでもしなけば意思疎通が取れんからの。そこまで言うならこれを見よ」
そう言うと、神と名乗る人物の前にホログラムの液晶画面が出てきた。
それがすいーっと移動し、俺のもとまでやってくる。
「これは……」
そこに映っていた映像は、釣り場にて転け、そのまま動かなくなる俺の姿だった。
「確かにこれは俺の姿……そういえば……」
「理解できたか。お主は自分ひとりで勝手に死んだアホなのじゃ」
「そこまで言わなくても良くないですか?」
凄く釈然としなかったが、たしかに足を滑らせてしまった記憶はある。
頭を撃って死んでしまったということなのだろう。そうだとしたらマジでやばいな俺。
「まぁそうじゃの。しかしお主、えーっと確か名前は溝口朝焼と言ったかの。お主は非常にラッキーじゃよ」
「死んでラッキーもなにもなくないでしょうか」
「いいやラッキーじゃ。儂がその様子をたまたま見ておったからこうして呼び出しておるわけで。まぁ所見の時はかなり爆笑してしまったからの。その詫びも兼ねてお主を救ってやろう」
えぇ……なんだよそれ、俺の死に様を見て笑ってたの? この人本当に神様なの?
「……救っていうのは?」
「うむ、具体的には異世界に転生させてやろうと思うておる! 剣と魔法のファンタジー世界じゃ。胸が高鳴るじゃろう?」
ババーンと神は発表した。
……いきなりそんなことを言われましても。
「剣と魔法の世界ってなんなんですか? 地球じゃ駄目なんですか?」
「お主マジか。ファンタジー世界と言われてピンとこんか? あれじゃよ、大冒険じゃよ。魔物やら魔族やらと戦い、時には人間の悪党とも戦い、仲間をゲットし異世界を成り上がっていく……壮大な異世界ファンタジーじゃ、分かるじゃろ?」
神はそう訴えかけてくるが、俺は釣り三昧で漫画などをほぼ読んだことがない。
それっぽさはなんとなく伝わってくる気もするが、ピンと来るかと言えば否だった。
「うーん」
「まぁともかく夢と希望の詰まった世界というわけじゃ。普通であればな。どうせ地球ではろくな人生を送ってこなかったんじゃろ?」
「まぁ概ねは当たってますけど、その世界で釣りはできるんですか?」
「釣り……? 魚などを釣るということか? それはもちろん可能じゃが」
「じゃあその世界でも大丈夫です!」
俺は釣りさえできれば後はなんだっていい。釣りこそが俺を構成する全てだからだ。
「なんじゃそれは。まぁ良い、ともかくその世界に転生させてやろう。それと転生する際に一つ能力を授けようと思うておる
「能力?」
「その異世界は過酷じゃからの。生前のお主のままでは瞬殺されることは確定しておる。それじゃ転生させる意味もないからの」
俺はどうやら能力を決めなければならないらしかった。