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中編 〝表〟での二人


 都内の駅前噴水広場。

 若者ティーンエイジで溢れる昼の時間帯。

 噴水近くの街灯に背を預けながら、暁珀あかつき はくは携帯を弄っていた。


「お待たせ! ハク! 待った?」


 そこに少し息を切らした珀の妹、こまが現れた。

 トレンドの服にブランドものの鞄を携えた装いで、元々の容姿とスタイルも相まって誰から見ても今時の美少女である。

 ちなみに珀は安めの服ではあるが、着こなしと元の容姿のおかげで美少年と言って差し支えない。


 息を切らすこまに対し、はくは目を細めて。

(「いや、家からこの駅まで一緒に電車で来たじゃん。それで今お前がトイレに行ったのを待ってただけなのに……なんでデート待ち合わせに少し遅れてきた彼女みたいな空気出してんの?」……とか言ったらむくれるんだろうなぁ)

 と考え、面倒事は避けるべく狛の望む答えを返した。

「いや、今来たところだよー」


 しかし。

「棒読み! もっと心込めて!」

 狛は「む~!」と結局膨れっ面でむくれた。


「え~?」

 厳しい指摘を受けて珀が不満そうに声を上げる。


「今日は久しぶりのデートなんだよ? ハクは私に似て可愛い顔してるけど男の子なんだからしっかり女の子をリードしなくちゃっ」


「兄妹が少し出かけて買い物するのをデートというのはどうなんだ…?」


「男と女が二人で出掛けたらそれはもう〝デート〟なの!」


「兄と妹…」


「何か文句あるの!?」


「ありません。はい」


 はくが折れると、それだけで機嫌をよくしたのか、こまが「よろしいっ」とよろこびの笑みを浮かべる。

 そして流れるような動作で珀に腕を絡め、胸が当たっていることも気にせず聞いてきた。


「まずは昼ご飯だよね。お腹減ったー。どこがいいかな?」


「ちょっと歩くけど、美味しくてコマの好きそうなデザインのパスタの店があるらしいから、そことかどう?」

 珀が片手でスマホを操作し、「こういう店なんだけど」と外観や内観、料理の画像を隣の狛に見せる。


「え!? めっちゃ可愛い! 行きたい行きたい行きたい!」


「おっけー。じゃああっちだな」

 

 はくに合わせて腕を絡めたままの狛も歩く。

 歩きながら、狛が珀の顔を覗き込むように首を傾げ、悪戯っぽい笑みを浮かべて聞いた。


「……私が好きそうな店、ちゃんと調べてくれてたんだ?」


「うるせ」

 珀は目を逸らしながらこまの鼻をぎゅっと摘まんだ。

 狛は「んむっ」と変な声を上げて珀の手を払いながら、また小悪魔的な笑顔になる。


「もう~! 恥ずかしがっちゃって~! このっ、このっ!」

 言いながら、楽しそうにこまが珀の頬をつんつんとつついてくる。


 珀はもう好きにしろと言わんばかりに、されるがままになった。


 今日は完全なオフ。

 仕事のことは忘れてめいっぱい楽しむ日が始まった。



 ◇ ◇ ◇



 はくこまはその後もさながら恋人のように休日を満喫した。

 お洒落なパスタ店で昼食をとった後は繁華街で食べ歩きをしたり、さすがにお腹がぱんぱんになってきたので自然公園をのんびりと歩いたり、気になった店に入って少しお買い物をしたり。


 裏社会では『双獄』と呼ばれて恐れられる二人も、こうして見れば仲が良い(良過ぎる)17歳の兄妹である。



「さすがにずっと歩き詰めで疲れたな…」

 夕方5時の晩御飯には少し早い時間帯。

 珀が膝を曲げてほぐしながら言う。


「うん~、どっかで休みたい~、良い場所な………ッ!」

 共感の声を上げた狛の声が、途中で途切れた。

 珀が「?」と狛を見やると、斜め上に視線を集中して目を見開いていた。


(え、なに?)

 珀が眉を顰めて狛と同じ方向に視線を移すと、妹が何を見て固まっていたのかがわかった。


「……………猫カフェ、行きたいの?」

 そう。

 こまの視線の先には彼女が愛してやまない猫のカフェなるものがあったのだ。

 犬に近しい意味を持つこまという名前だけど、猫が大大大好きなのである。


「行きたい! わわわわっ、ど、どうしようっ! まさかこんなところにあるなんて…っっ!」


「まあここ都心部だし、あってもおかしくないでしょ。ほら、行こう」


 珀は「大丈夫かな? 引っ掻かれないかな? 噛まれないかな? ……近付いてきてくれるかな?」と不安と期待と募らせる狛を連れて雑居ビルの三階にある猫カフェに向かった。


 受付で説明や消毒を済ませ、ふれあいスペースに入ると、そこは正に〝猫のいる空間〟だった。


「ふわああぁぁぁ! …あ、すみませんっっ」

 狛が目を輝かせて思わず大声を出してしまい、既にいた客の咎めるような視線にぺこりと頭を下げる。


「あそこのソファーにいる猫とか触れてみたら?」


「う、うん…っ」

 人生初の猫カフェに緊張気味のこまの背中をはくが押し、部屋の隅にあるソファーでうたた寝している猫の背中をそっと触れる。


 んにゃぁ、と寝たまま気持ちよさそうな鳴き声が猫の小さな口から飛び出て、狛が「かわいぃぃぃ~っ」うっとりと蕩ける笑みを浮かべた。


 それから狛は猫の隣に座りひたすら猫の背中を撫でていると、新しい猫がぴょんと狛の膝に飛び乗りそこで丸まって寝始め、狛は幸せそうに顔を緩めた。


(……ふっ、だらしない顔)

 そんな狛の顔を見ながら、珀が心の中でクスリと笑った。


「ハクっ、ここ座って、ここっ」

 こまが空いてる自分の隣スペースをぽんぽん叩く。


 言われるがまま珀が隣に座ると、こてん、とはくの肩に狛の頭が乗った。

 

 隣の珀にもたれかかり、膝には猫、珀の逆側の猫にも手を添えて、心からリラックスするこまが、そこにいた。


「あ~~~、しあわせ~~~~~っっ」


「全く…」


 そのあまりに贅沢で幸せな光景に、他の客も和やかな笑みを浮かべている。

 

「……っ」

はっずっ)

 さすがの珀も恥ずかしくて俯き気味になる。


「……ハク」

 幸せに満ちている妹に、名を呼ばれる。


「なに?」


 はくが返事をすると、こまがゆっくりとした口調で、告げた。



「これからもずっと一緒だよ」



「……ああ」



 ………珀と狛は知らなかった。

 

 二人の関係を根本から崩さんとする人物が近付いていることに。




 ■ ■ ■




 猫カフェを堪能した珀と狛は、夕食を予約した時間までもう少しあるので、デパートにある書店で時間を潰していた。

 二人とも漫画や小説が大好きで、隙間時間があれば書店で「これ読んだ?」「これ意外と面白かった」と雑談しながら見て回っている。


 そんな折、狛が「ちょっとお手洗いいってくる~」と珀から離れた。


 同じ階の端っこにある女子化粧室でトイレを済ませた狛が手を洗っていた。



 …………………………その時だった。



「暁狛ちゃん……よね?」



 突然、後ろから声を掛けられた。


「っ!?」

 思わず狛が振り向く。

 狭いトイレなので誰か入ってきていたことはわかっていたが、話し掛けられるとは思わなかった。


 裏社会で生きる人間としての習性で、距離を取っていつでも動ける体勢を取る。


 声を掛けたのは四十代半ばぐらいの女性だった。必要最低限の手入れをした髪や肌が質素である。


「あ、ごめんなさい! 驚かせるつもりはなかったの…っ」


 その女性が安全であることを証明するように両手の平を狛に見せる。


「誰ですか?」


 無駄話をする気はない狛が単刀直入に聞く。

 

「驚かないで聞いてほしいんだけど、」

 

 そう踏まえて、女性は強い意志の籠った瞳で、口を開いた。



「私は、貴女の母親よ」


 

「……え…」


 呆然とする狛に、母を名乗る女性は続けて言った。




「お願い! 私と一緒に逃げて! あいつは……暁はくは、貴女の本当の兄じゃないわ!」



 いかがだったでしょうか?


 表で楽しく過ごす二人を表現できていたら嬉しいです。


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