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前編 〝裏〟での二人

連載ですが前・中・後編で既に完結済みです。


 大手製薬会社・斎城さいじょう製薬社長、斎城順次よりつぐ

 御年71となる斎城順次は、未だ全盛期の如く仕事を熟す敏腕社長として尊敬される一方、世間に知られていない裏の顔があった。

 暴力団と繋がり、法で禁じられた違法薬物の密造と売買を取り仕切る裏社会での顔である。


 卑劣な人体実験を繰り返し、そうして作られた違法薬物で更に人を苦しめ、誰がどこで苦しもうとなんとも思わずに私腹を肥やして高笑いする、正に欲の化身。


 影で『老魔ろうま』などと呼ばれている斎城順次は……………………現在、手足を縛られて椅子に拘束されていた。



「ねえねえ、ハクー。捕まえたけど、どうするの? 殺すの?」


「ここで殺したら捕まえた意味ないだろ、コマ。……話、聞いてなかったのか?」


「うんっ」


「満面の笑みで頷くな。怠惰を反省しろ」


「えぇぇ? だってどうせハクが覚えてくれてるじゃんっ」



 身動きの取れない斎城の目の前で、二人の()()()の少年少女がまるで日常会話でもしているかのようなテンションで、言葉を交わしている。


(こッ、こ奴らが……『双獄そうごく』……かッッ!!)

 斎城順次はこの二人を知っている。裏社会に身を置いていれば一度は耳にする双子だ。


『双獄』。

 それは裏社会で名を轟かせる仕事人兄妹のことだ。

 兄・暁珀あかつき はくと妹・暁こま。17歳の双子である。


 はくは亜麻色の髪を軽く伸ばした中肉中背の少年だ。左耳には小さな琥珀こはくのピアス、左手首にはオレンジと水色を基調としたミサンガを巻いている。

 珀の端正な顔立ちと物静かな雰囲気が魅力的から美少年という印象を受ける人が多い。しかし、その静謐な瞳の奥では理知的で無慈悲な光を放っている。底知れぬ怜悧な覇気を感じるとても17歳とは思えない大人びた少年である。


 こまは亜麻色の髪をシュシュでポニーテールにした少女だ。右耳には小さな犬の肉球のピアス、右手首には珀と同じオレンジと水色を基調としたミサンガを巻いている。

 狛は兄とは対照的で、天真爛漫で笑顔が年相応に瑞々しい若さを放っている。スタイルも豊かに均整が取れており、無邪気ながら女性としての魅力を備えている。だが彼女の言動には、一切の躊躇も遠慮も同情もない。例え残虐で冷酷な振舞をしようと、純粋な笑顔を浮かべることのできる一種のサイコパスである。


 冷静冷酷に物事を見極めて策を立てる頭脳派の珀。

 無垢無情に珀の()()()策でも執行する戦闘家の狛。

 

 仕事を終えて帰宅する途中で記憶が途絶え、目が覚めれば見知らぬ倉庫で体を縛られていた。


(私の護衛はどうしたッ!? やられたのか!? こんなガキ二人にッ!? ……やはり噂に違わぬ実力というわけか…ッッ!!)

「お前らッ! 依頼主からいくらもらったッッ!? その倍を出すッ! だから今すぐ解放しろ!」

 斎城が恫喝染みた交渉を持ち掛ける。


「おー、図太いな。このおじいちゃん」

「おじいちゃん、世の中お金がじゃないんだよ?」

 双子が揃って緊張感のない態度で反応する。

 取り付く島などどこにもない様子だ。金で動く愚鈍ではないということだ。


 だが、それで諦める『老魔』斎城順次ではない。


(私をすぐ殺していないということは情報を聞き出したいということだ。そうなると、『双獄』の依頼主は私に恨みがある人間というより、ライバル企業か他の暴力団関係者…。

 なんとかこの二人を通して依頼主に取り合ってもらう他ない。金はいくらでも積んでやるし、機密情報も少しぐらい教えてくれる。依頼主にもメリットのある話であれば『双獄』の二人も無視するわけにはいかないはずだッ!)

 

 拷問される前に再度交渉を切り出そうとして、


「カメラはこの辺でいいかな? ハク」

「ん、大丈夫」


 ビデオカメラが設置された三脚を、こまが斎城の前に設置する光景が目に入った。


「カメラ…。私が情報を吐く場面を映像に残すよう依頼主に言われているのか…!」

 不思議な話ではない。

 依頼主からすれば仕事人の『双獄』二人も100%信用できる人達ではないので、映像証拠を要求するのは当然のことだ。

 

「情報? 違うよ」

 兄の珀がビデオカメラの角度を微調整しながら言った。


「違う…?」

 斎城が眉を顰めた。


「そもそも、別に俺達は貴方から情報を引き出そうとは考えてない」


「は…?」


 訝しむ斎城に、珀が淡々と告げた。

「俺達の依頼主は斎城製薬の人体実験で家族を失った200人の遺族。依頼内容は……『斎城順次を拷問し、その映像を撮ること』」


「な…ッ!?」

 斎城が瞠目する。

 情報を聞き出すことが目的ではない。苦しめることが目的。……ただの怨恨に、お金が役に立つのか。

 耐え難い恐怖と絶望が、斎城に押し寄せた。


「さてと」

 斎城の心など知らぬと言わんばかりに、珀が隣のテーブルの上に工具箱のような箱を置き、中から様々な拷問器具を取り出した。

 ハサミ、カッター、のこぎり、トンカチ、針、バーナーなど、その凶器全てが己の体を苦痛に貶めると悟り、更なる絶望が斎城の心に伸し掛かった。


「じゃ、撮影始めるよー」

 狛がビデオカメラの電源を点け、二人が仮面を装着する。

 子供達に人気のヒーローの仮面を付けた珀と、女の子に人気の美少女戦士の仮面を付けた狛が、拷問器具を手に持ち、斎城へ近づいていく。


「ま、待て!! 話をさせてほしいッッ!! 金ならいくらでも払うと伝えてくれッ!! 私にできることはなんでもするとッ!! こんなことして何になる!? 金をもらった方が合理的だろうッ!? ……ち、近付くなッ!! 近付くな近付くな近付くな近付くな近付くなッッッ!!!! 薄汚れたガキ共が! この私を誰だと思うとるッッ!!? この私に手を出してみろッッ!! お前らなんぞ私の仲間の手に掛かれば造作もないのだぞ!? 命が惜しくばいますぐ解放しろッッッ!! ……や、やめろ………やめてくれえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええッッッッッ!!!!」


 

 数日後、斎城製薬社長・斎城順次が無惨な死体で発見され、老若男女から愛される薬を作ったカリスマ社長の死に世間から悲しみの声が上がった。

 

 しかしまた数日後、斎城製薬の長年に渡る非人道的な実験と数えきれない汚職の記録、暴力団との関係も明るみになり、斎城順次の名声は一転、人間の屑として歴史に名を遺すことになった。




 ■ ■ ■

 



 都内に建つマンションの一室。

 別人の名義で、暁兄妹はそこに住んでいる。


 広いリビングに置かれたふかふかなソファーに寝転がりながら、兄のはくは人と通話していた。

 ちなみに妹のこまは台所で「ん~♪ んふ~♪」と鼻歌を歌いながら夜ご飯を作っている。


『今回はありがとね。ちゃんとお金は振り込んでおいたから、確認してちょうだい』


「今確認しました。金額は大丈夫そうです」

 珀が電話しているスマホとは、別のスマホで入金金額を確認して告げる。


『あらありがとう。……それにしてもさすがね。元々の依頼内容は斎城順次の拷問だったのに、斎城製薬の機密情報も盗んでそれを依頼主である遺族達に売りつけるなんて』


「遺族の人達としても復讐はもちろん、自分達のような被害者を二度と出したくないと思ってるはずなんでね。……拷問映像には映してませんけど、色んな情報も聞き出しておいたんです」


『一応私を通して仕事をもらってるんだから、あまり勝手なことはしないでほしんだけどね』


「そう言うと思って、半額そっちに入金しておきましたよ。『彪仙ひょうせん』さん。……だからまあ、怒らないで下さい」


『……もうほんと、抜け目ないんだから』


 珀の電話相手、裏仕事専門の斡旋屋『彪仙ひょうせん』。

 若い頃に高級娼婦として築いた人脈で、フリーの殺し屋や様々な分野の仕事人に、裏仕事を斡旋する仲介業者のようなものである。

『双獄』こと暁兄妹もフリーの仕事人として『彪仙』から仕事をもらっている。


『………ところで、』

 すると『彪仙』が、()()()()話題を切り出してきた。

『私と専属契約する話、考えてくれた?』


「その話は断ったはずですよ」


『この前提示した条件に更に上乗せするわ。……私の専属になれば、定期的にまとまったお金が入ってくるし、こそこそと小銭を稼ぐ必要もなくなるわよ?』


「……まあ、検討するってことで」


『それ絶対断るやつよね』


「では今日のところはこの辺で」


『あ、まだ話は……!』


 ピロン、とはくはそれ以上何も言わずに電話を切った。


「……はあぁ」


「ハク~、電話終わった? ご飯もうできてるよ」


 珀はくたびれた顔をしながら、食卓に着いた。


 

 ※ ※ ※



 珀と狛はご飯を食べながら、雑談していた。


「私が思うにね、『彪仙』さん絶対珀のこと狙ってると思うのよ!」

 もぐもぐと片頬を膨らませながら、箸を珀に向けて狛が叫ぶ。


「まあ、何かしら良くない狙いはあるだろうね。あと箸を人に向けるな」

 珀が味噌汁を啜りながら冷静に答える。


「絶対あの人の言うこと聞いちゃダメだよ!?」


「わかってるって」


「二人で会うのもダメだからね!?」


「はいはい」


「もしもの時の為に発信機と盗聴器をちゃんと持ち歩くんだよ!?」


「どさくさに紛れて変な要求すな」


「……ちっ、もう少しで言質取れると思ったのに~」

 

 わかりやすくむくれる狛に、珀が肩を竦めながら言う。

「俺としてはコマの方が心配だけどな? 口八丁で騙されないかが心配だよ」


「そこは安心して!」

 狛がにっこり晴れやかな笑顔を浮かべる。

「私は珀の言うことしかきかないから!」


「……その丸投げ姿勢も少しは改善してほしいんだけどな」

 珀がご飯を頬張りながら言う。


「そんなこと言って~。可愛い妹にこんなこと言われて、嬉しいんでしょ?」

 狛がにまにま笑みを浮かべて珀の顔を覗き込むように言う。


「同じ顔の妹に言われてもなイタッッ!!」

 微妙な顔で首を傾げた珀の額にティッシュ箱が衝突した。

「おまっっ、角当たったって…!」


「ふんだ!! もうハクなんて知らない!!」


「あおい! 俺のご飯も食うなって! わっ! はや! 俺の食事がどんどんなくなってく!? あ、ちょ、ま、……俺のごはああああああああああああんっっ!!!」


 結局狛はほぼ一瞬で珀のご飯も含めて二人前全て食べてしまい、珀はその後一人寂しくカップ麺を食べた。

 そのカップ麺も途中から狛に食い攫われそうになったが、「私可愛いよね? 可愛いよね?」「可愛い可愛いよ! だからもう食べさせてくれ!!」という半ば脅迫の末に得た「可愛い」という言葉ですっかり機嫌を直してくれて、無事珀は食事にありつけた。


 いかがだったでしょうか?


 前編というかプロローグみたいな感じでした。

 珀と狛って、ルビがないと、ぱっと見で混乱すると思って、短い間隔でルビを入れるようにしてるのですが、逆に煩わしくなってませんかね?


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