できそこない
何も成すことができないできそこないの人間がいた。
少年は母親にお使いを頼まれた。
「ぼくにはできないかも……」と言う。
少年は友人が少し危険な橋を渡った際に、こっちへおいでと言われた際にも
「ぼくにはちょっとできないかも……」と返す
少年は部活動のキャプテンに指名されたときにも
「僕にチームは引っ張れそうにありません」と答える。
少年は苦手な科目に直面したときにも
「僕にこの科目は向いていないな……」と考える。
少年は友人とゲームで遊んでいる際、手ごわい敵を一緒に倒そうと協力を求められた時も
「まだ俺らでは無理だよ。もう少しレベルを上げよう」と提案する。
青年は重要な仕事を任されたときにも
「私には荷が重いです……」と責任から逃れる。
隠居した初老の人間は、同じような人間に、新しい趣味でも始めようかと誘われたとき
「もう年齢的に新しい事をするのは難しい」と決めつけた。
老人はある時、天から降りてきた神に、このパズルの仕掛けが解けるかと試されたとき
「私めではとうてい理解できません」と諦めた。
呆れた神は、近くにいた人間に同じように問いかけた。
その人間は、目の前にある難解そうな仕掛けのパズルを手にして、一瞬諦めかけたが
とりあえず解いてみると、あっさりと解くことができた。
神は報酬としてその人間に多くの富を与えた。
たまたま通りがかったその人間は、たまたま手にした富を多くの人のために使い、幸せそうに暮らしていった。
何も成すことができなかった人間は、そのまま一人寂しく、惨めに死んでいった。