第5章 傀儡(4)
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「メリド・ササの悪事の証拠をつかむ。大陸内部に、ケイノール渓谷という場所がある。そこにメリド・ササの隠し倉庫が建造されている。そこにはあらかじめ協力商人から安く買い集めた食料が保管されているという。そうやって市場流出を調整し、不当に食料供給を操作し、人心を操作しようと企んでいるのだ。そなたらにはそこへ潜入し、メリド・ササと悪徳商人を結ぶ証拠を探し出してほしいのだ」
「なるほど。そこまでお調べになっていて、どうしてご自身で行われないのです?」
「私には、それは出来ないのだ。だれか第三者によって暴かれねば、私がやっても捏造ということにされて消されてしまうだけだ」
なるほど、言っていることは道理にかなっている。代表付政務官という肩書も、それを考慮したメリド・ササの手回しによるものなのだろう。その役職にあれば、メリド・ササを追い落とし、クーデターを企てたと言って、捏造とされる展開もあり得るというわけだ。
メリド・ササとは、なかなかにずる賢い男のようだ。
「いいでしょう。わかりました。それで、具体的には何を持ち帰ればいいのです?」
「証人と証文。この二つだ。証人としては、すでに私の腹心を潜り込ませている。しかし、連絡が途絶えてからすでに数日がたっている。何事もなければよいのだが、いやな予感がする。そのものの救出が第一だ。それと、証文は存在していることが明らかになっている。その者の報告によれば、メリド・ササと悪徳商人の間でのちにトラブルが起きないよう証文のやり取りをしているらしい。その証文は物的証拠となる」
アーレシアの内陸部、つまり、砂の丘の向こうというわけか――。
アルはまた大変なところへ行かねばならないなと思いながらも、いずれにせよ、次元回廊の設置にも、内陸部へ行かねばならないのだ。
一度行けば、次元門を使って移動できるが、行ったことのない場所へは自力で向かうしかない。
(こういう時、竜族の誰かがいてくれれば、とても手間が省けるのにな――)
アルは少し怠け癖がついていると思いなおし、これも経験なのだと自分に言い聞かせる。
「わかりました。つまりはメリド・ササが不等に市場を操作しているということが明らかになればよいということですね。その証拠をつかめばいいと――」
アルが簡潔に答える。つまりは冒険者ギルド的なやり方でも構わないかということだ。
「ああ、やり方は任せる。証人の男の名はメザーレ・オデルソンだ。無事であればよいがそうでなければせめて――」
ウォーラスはそれ以上を言葉にはできなかった。
「わかっています。悪いようにはしませんよ」
アルはそう請け負った。
その後、件のケイノール渓谷の場所を記した地図をアルに差し出したウォーラスは何事もなかったかのように、帰っていった。
もちろん、冒険者ギルドのアーレシア支部創設の協力については言うまでもない。
適当な空き家を見繕ってくれるということになった。
「あんちゃん、あいつのこと信用していいのか?」
チュリがアルに囁いた。
「まあ、立場が立場だからね、言っていることに道理は通っている。あとはそのケイノール渓谷に何が待っているかということだろうね――」
「それを言ってるんだよ。ほんとに信用していいのか?」
いつになくチュリが慎重だ。
「うん、まあ大丈夫だと思うよ。おそらくあの人は嘘をついてはいない。メリド・ササが人民の心理を抑圧して代表に座り、この状況を生み出しているとしたら、僕はやっぱり気に入らない、というのが本音だよ」
アルの言葉には少し怒気が含まれているように聞こえた。
「だよなぁ、さすがにそこは譲れねぇってのが俺も思ってるところだ」
レイノルドが割って入る。
「エリシア様はこんな教則、お認めになるわけがありません」
ケイティも今の状況はよくないと思っているようだ。
「何がどういけないのか、僕にもわかるように説明してよ?」
クアンがむくれている。
「お前は、毎日笑うなと言われて生活したいか?」
ゲンシンがクアンに質問をする。
「そりゃあ、無理だよ。僕はみんなが笑ってる方がいいと思うし、ジャカが泣いて送り出してくれた時はちょっと悲しかったしね。できれば笑って送り出してほしいかな――」
クアンがさも当然というように答える。
「そういうことさ。人は笑って生きるべきだって、みんなそう思ってるのさ」
ゲンシンの説明は非常に簡潔でいて、的を得ている。
「だから、そういう世界を取り戻そうって、そういう話だよ、クアン」
アルが最後に締めくくった。
ジークはクアンに向かってウインクして見せる。
(そうだ、やっぱりこんな政治は納得できない、するべきじゃないんだ――。確かに僕たちの国じゃないかもしれない、でも、この世界は僕たちの世界でもあるんだ――)
アルはようやく決心がついた。アーレシアを救わねばならない。




