序章 『飛翔記』プロローグ―魔族隆盛―
黒騎士セ・ルスはただじっと時を待っていた――。
ガべディレイラ帝国はいまや時空を超えた別次元の世界を一つ手に入れた。
自然豊かなその世界は帝国にとっては大きな収穫となった。
ガべディレイラ帝国の存在する世界はもう、人の住める場所ではなくなっている。
20年前――。
ガべディレイラのある世界は自然が豊かで大地の恵みにあふれていた美しい世界だった。
ところがその世界に大いなる変革がもたらされた。
「魔素暴走」――。
それまで制御可能であった魔素が突如として制御不可能な状況に陥り、増大を続け、高密度圧縮され、ついには魔素暴走を引き起こした。
世界は破壊の波に飲み込まれた。
実に人類の8割が消滅、大地の半分が海へと沈んだ。
まさしく世界の崩壊。
世界は再生不可能なダメージを負ってしまった。
人類は最後の一人になって消滅するまでそれ程の時間は残されていなかったと言えるだろう。
そこに、「それ」があらわれた。
どこからやってきたのか、いったい何者なのか。
「それ」は生き残った人類にこう呼びかけた。
『救ってほしいか――。すべてを投げうつ覚悟があるなら手を差し伸べてやろう』
人類に選択の余地などなかった。
「それ」は人類に二つの力を授けた。
一つは『魔物召喚』。
もう一つは『魔巣の芽』。
そうして対価として、今ある世界を求めた。
「それ」は言った。
『我は世界を食らうもの、故にこの世界を食らうのが我の目的。お前たちが我に従うのであれば、新しい世界をくれてやろう。お前たちはその世界でまた繁栄すればよい。お前たちが移り終えたのち、我はこの世界を頂くとしよう』
そうして、一人のものを導師として任じた。
その者はその任務を受けた。世界の人類が生き残るために。
その者こそ、我、
暗黒騎士セ・ルス――。
セ・ルスは大いなる力を授けられた。
魔物を生み出し、魔巣の芽を植える。
魔巣の芽からまずは小さく弱い魔物を放つ。その魔物がその世界の周囲の魔素を取り込み、やがて魔巣は成長を遂げる。
成長した魔巣にはまたさらに強力な魔物が生成される。魔巣はそうやって徐々に大きく強大になってゆき、やがては大軍勢をその世界へ送り込むことができるのだ。
そうやって異次元の世界を侵略する。
一つ目の世界はうまくいった。
そこには竜に変化する先住民がいたが、大軍勢を送り込むまで魔巣を成長させることに何の抵抗もなかった。
魔巣は着実に成長し、そして一気に大軍勢を差し向けたあとは、いかに竜に変化できると言っても多勢に無勢である。
その世界は間もなく陥落した。人類は新しい世界を手に入れたのだ。
しかし、セ・ルスにはそれとは違う目的が一つあった。
――『世界の柱』。
おそらく「それ」とよばれる存在に対して唯一対抗できる手段が「世界の柱」だ。
セ・ルスは知っていた。
「それ」の目的がもといた我々の世界だけで終わるはずがないと。
「それ」は竜族世界だけでなくほかにも4つの世界へ干渉するよう求めてきた。
人族、妖精族、亜人族、精霊族。
この4つの世界を次に捧げなければ、今奪ったこの世界を今度は食らうと告げた。
やはり、ここでも人類は選択肢はなかった。
セ・ルスは次の主要目的世界として人族の世界へと狙いを付けた。
目的はその世界の奪取と見せかけてはいるが、その実のところ狙いは『世界の柱』だ。
『柱』には高濃度魔素を集約し魔法威力を極限にまで高める力があると言い伝えられている。
とはいえ、それもおとぎ話だと思っていた。
しかし、それは実在していた。
竜族の世界へ侵攻してまもなくのことだった。その存在を知ったのは。
事実として存在するのであれば、おとぎ話にももしかしたら一縷の望みが掛けられるかもしれない。
探した。
そして、見つけた。
もう一歩だったのだ。
もう少しで「それ」の呪縛から人類を解放できたのだ。
なのに、なんなのだあいつらは――。
これでまたしばらく、「それ」に服従し続けなければならない。
はやく『柱』を手に入れなければ――。
しかし、今は待つしかない。
次に訪れるチャンスは絶対に逃さない。
人族世界への侵攻までもうそれほど時間はかからないだろう。
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