青春物語
高志は納豆が大好きだ。それも大粒のやつに、カツオ風味の本だしと辛子とを入れたのが最高だ。
そこにネギの微塵切りを添える。
それにキムチでもあろうものなら狂喜乱舞だ。
北大路魯山人が、納豆は百何回か掻き回すと格段に美味くなると言ったそうだが、そんなことしなくても、充分に美味いと、高志は思っている。
名前は知らないが縁の赤いハムで茹で卵を挟んで揚げたもの、油の回った唐揚げ、冷やご飯に金山寺味噌を混ぜたもの、つゆをかけた前の日の残りの素麺…
子供の頃に慣れ親しんだ物ばかりだが、ハッキリ言って大好きだ。
美味いか不味いかと言ったら、圧倒的に不味い。
が、たまに何故か無性に食べたくなる美味さがある。
不味いものの美味さだ。
不味いものの美味さを知らないのは不幸なことだと思う。
本当に美味いものに出会った時の感動が、正しく伝わらないと思うからだ。
高志はゲイだ。
2020年代風に言うとLGBTQの一種だが、ここでは分かり易くゲイと言うことにする。
昨日、ゲイで、今日、ゲイで、明日もきっとゲイである。
女装趣味とか、入れ物が間違っている感じは無いが、小さい時から、好きになるのは男の子ばかり。
高志にとってそうあることは、この世に不味いものの美味さがあるのと同じようにごく自然なことだ。
他の人が異性を好きになるように。
自分がどうも他と違うと気付いたのは、中学生の頃で、母親は実は高志が4~5歳の頃にとっくに気付いていたそうだ。
これは、高志が国武玲と如何に関わり、山中絵瑠とどう付き合ったかの、言わば一青年の青春の物語である。
高志は、東京の京王線の仙川の、甲州街道沿いのアパートに住んでいる。
甲州街道は、幕末の戊辰戦争の頃は、近藤勇の軍隊が通ったりして、やけに物騒だったらしいが、今は、週末の夜以外は、静かなもんだ。
アパートは、風呂無し5万円だ。
風呂屋は、駅前にあって、営業時間は10時までで、バイトに最後まで入ると間に合わなくなる点を除けば、広くて気に入っている。
高志は仙川が好きだった。
特急や急行列車は停まらないが、都心に行かなくても、生活に必要な物は大抵、駅前のこじんまりした商店街で手に入る。
それに、駅前の「神戸屋」の三角ピザは、具沢山な上に生地がふっくらで、バイトの帰りに開いてたら必ず買う程、えらくお気に入りだった。
甲州街道にはファミレスの「ウェンディーズ」もコンビニの「セブンイレブン」もある。
「ウェンディーズ」の隣には、夜中だけやってるラーメン屋があって、そこの焼肉定食が好きだった。
#小説4 -1




