転生の極意〜転生の呪いを受けた友達は転生した回数が1無量大数を余裕で越えた末路〜
「この問題の答え分かる人ー。」
いつものように先生は聞く。
しーん、と教室は静まり返る。誰もこの先生が提示した問題がわからないのだ。というか考える時間が少なすぎる。
「いないのかー?」
今の時間は数学の授業である。
問題は数学Ⅱからの応用問題だ。
「じゃあ、勝手に当てるぞー。」
皆は先生に当てられまいと、視線を下に向ける。
俺を当てないでくれよー?こういう肝心なときにいつも当てられるからなぁ。どうせ答えられないし。少し気まずいし…。
「はい、じゃあ品田。」
はい俺来たー。俺の名前品田真人だからなー。この教室には品田一人しかいないしなぁ。
「俺、ですか?」
念の為の確認だ。聞き間違いの可能性もあるしな。
「そうだ。お前だ。この問題の答えは?」
「えーと……」
みんなの視線が一気に俺を向く。いや、皆ではなかった。いつものように一人を除いて。
「2xy?」
「全く違う。」
だろうな。めっちゃ適当に言ったし。てか2xyってなんだよ。
先生は俺のことはもう忘れたかのように言う。
「じゃあ、横の浅葱。おーい、聞いてるか?ぼーっとしてんじゃねえぞ?」
そう、俺が回答をするときに俺の方を見なかったのはこいつ、浅葱駿だ。
浅葱はずっと天井の方をぼーっと眺めるような体制をしていた。こいつ寝てるんじゃねえか?って思うほど一切動かず、死んだ目のようになりながらずっと座っている。
「浅葱?」
その浅葱は、先生の声に今気付き、今度はちゃんと先生の目を見た。
「え、僕?」
こいつさっきまでなんも聞いてなかったな。だがそれが浅葱らしくてなんか面白い。
「そうだ。これの答えはわかるか?」
浅葱は一瞬黒板に目をやり、答える。
「u(x,t) = sin x cos t +sin 2 xsin2 t。」
はあ?考える時間あったか?それ。一瞬じゃん。1秒も経ってないよ?黒板見てから……。なんか俺の存在価値がまるでないみたいじゃないか。
まあそんなことはないが。実はこの問題かなり難しい。それを難なく解けるのが浅葱だ。
実際先生も少し驚いている。
「え、え?そ、そうだ。んん!おほん!では、次にいこう。」
大きな咳払いでその場を誤魔化し、次に行かせようとする。
流石にこんなに簡単に答えられると思っていなかったのだろう。はっ、浅葱を当てたのが悪かったな、ざまあみろ、とか俺は思っている。
浅葱はというと、また最初と同じく、どこに視点が行っているのかわからないが顔を天井の方に向け、ぼーっとその場に座っているのだった。
◇
――休み時間
俺は中学校で初めて会った友達、浅葱に声をかけた。
「なあ、浅葱。」
浅葱の姿勢は一向に変わらない。実際に俺の声も浅葱には届いてすらいなさそうだ。本当に意味不明なやつだ。
俺はもう一度呼びかける。
「なあ、浅葱。」
そしてやっと浅葱は俺の存在に気付く。
「ああ、えーと、確か君は……」
いや俺の名前覚えてくれていないんかい!高二になった今でも席隣なのに……。まあそれが浅葱だ。
「品田だよ、品田。」
「そうだ、そうだ品田だ。思い出したぞ。品田君だな、君は。で、なんだ?」
なんかこいつキモいな……。それが浅葱なのだが。
俺は気になっていたことを聞く。
「浅葱ってなんでそんなに賢いの?」
実は浅葱、テストでずっと百点を取っている。それ以外の数字を見たことがない。
しかも何がすごいのかというと、浅葱は一切勉強をしていないのだ。カンニングでもしてんじゃねえか?って疑われるほどに。
前に一回本当に先生に疑われ、テスト時間は浅葱の後ろには常に先生をつかせておく、ということをしたのだが、一切カンニングなどしていなかった。もう、変態だ。
しかもこの高校の偏差値は55とかで特に賢くもない普通の高校だ。なぜ浅葱はここにいるんだって皆疑問に思っている。まあ答えは近いからなんだが。(前に一回聞いた)
浅葱は言う。
「こんだけ生きてりゃ嫌でも覚えてしまうんだよな。早く死にたい……。」
これに限る。浅葱の口癖、『早く死にたい』。なんだよこいつ。キモいじゃねえか。
と、いきなり俺の耳に浅葱を除いて一番賢いやつの声が入った。
内容は、
「俺、円周率めっちゃ言えんぜ?」
だ。
正直、だから何?と言いたいのだが、こいつはかなり顔が良く、女の子にモテモテなんだよなあ。それを言えば、女の子に嫌われちゃうよ俺。もう既に嫌われてるかもしれないが。
だって女の子の反応がこれだよ?
「「「キャーー!!」」」
「すごいよ、戎様〜〜!」「「言って〜〜!」」「戎様最高〜」
「結婚して〜!!」
なんだよこれ。たかが円周率が言えるってだけだぞ?何をこいつらは期待してんだよ。
しかも、なにが一番やばいのかと言うと、戎とかいうやつの言葉に浅葱がめっちゃ反応していることだ。
浅葱のいつものダルそうな目が、血眼になっている。いやどんだけだよ。
そして戎は言う。
「円周率言いまーす。」
皆の目が光り、戎を見る。一人は血眼。
「3.141592653589793238462643383279502884197169399375105820974944592307816406286208998628034825342117067982148086513282306647093844609550582231725359408128481117450284102701938521105559644622948954……ごめん、もう忘れたわ。」
いやすげーな。あってるかどうか知らねえけど。
女性陣は、
「「「キャーーー!!!」」」「「「戎様最高〜〜〜!!!!」」」
「「戎様すごすぎ〜〜!!」」「「結婚して〜〜!!」」
戎信者エグいな……。
浅葱はというと……立っていた。
もう一度いう。立っているのだ。椅子から。こんなことは挨拶のときにしかないのだ。めちゃくちゃレア。もう地球滅びてもおかしくないんじゃね?ってくらいレア。
そして浅葱はそのまま戎のとこに行き、言った。
「お前なかなかやるな。実は僕も円周率考えるのが趣味でね、」
いやこいつもかい!なに?なんかいま円周率覚えるの流行ってんの?しかも考えるってなんだよ考えるって。もうπ(パイ)でいいだろ。
戎は言う。
「ほう、あの浅葱が言うか……。いいだろう、言ってみろ。」
いや言わせんなや。これ聞いてるこっちも恥ずかしいんだわ。
そして浅葱は目を光らせ、口に出す。
あの浅葱の目がこうなったのは初めてだ。もう明日地球滅びるわ。
「3.141592653589793238462643383279502884197169399375105820974944592307816406286208998628034825342117067982148086513282306647093844609550582231725359408128481117450284102701938521105559644622948954930381964428810975665933446128475648233786783165271201909145648566923460348610454326648213393607260249141273724587006606315588174881520920962829254091715364367892590360011330530548820466521384146951941511609433057270365759591953092186117389326117931051185480744623799627495673518857527248912279381830119491298336733624406566430860213949463952247371907021798609437027705392171762931767523846748184676694051320005681271452635608277857713427577896091736371787214684409012249534301465495853710507922796892589235420199561121290219608640344181598136297747713099605187072113499999983729780499510597317328160963185950244594553469083026425223082533446850352619311881710100031378387528868753320838142061717766914730359825349042875546873115956286388235378759375195778185778053217122680661300192787661119590921642019893809525720106548586327886593615338182796823030195203530185296899577362259941389124972177528347913151557485724245415069595082953311686172785588907509838175463746493931925506040092770167113900984882401285836160356370766010471018194295559198946767837449448255379774726847104047534646208046684259069491293313677028989152104752162056966024058038150193511253382430035587640247496473263914199272604269922796782354781636009341721641219924586315030286182974555706749838505494588586926995690927210797509302955321165344987202755960236480665499119881834797753566369807426542527862551818417574672890977772793800081647060016145249192173217214772350141441973568548161361157352552133475741849468438523323907394143334547762416862518983569485562…………(作者の本音、いやこれやるの怠すぎ、すいません所々数字が抜けております。人間がする作業ではありません。)」
「「「………………」」」
空気が凍る。浅葱が円周率を言っている時間、2分。
まだ浅葱は円周率をその場で言い続けている。
……え、どういうこと?こいつやばすぎん?何やってんの?
この空気を打ち倒すべく戎が勇気をだし声を出す。
「あ、浅葱君。そ、そのへんで終わりにしないかなぁ……」
すると、喋ってる途中を遮られたからか、浅葱は不満を露わにして、戎を睨み付ける。
「ああ?なんだよ、まだ途中だったじゃないか。」
いや円周率無限に続くらしいんだけど、浅葱どこまでしってんの?やばいこいつガチ目の変態だった。浅葱の怒ったとこ初めて見るし。
「あ、ああごめん。ちなみに何桁くらいまで知ってるのかな?」
やばい、あのいつも調子しか乗らない天才の戎がここまで畏まってるの面白すぎ。
浅葱はまた意味不明なことを言い出した。
「えーと、正確には知らないけど確か、2不可説不可説転7853不可説不可説9873不可説転5398不可説……」
「あ、ああ!わかったよ、すごいんだね!浅葱くんは!」
ナイス戎。あのまま行けば本当にやばかった。もう俺の知らない単位出てる時点でもうやばい。
不可説不可説転って何?俺の知ってる単位無量大数までだよ?MHKでは無量大数までしか教えてもらえなかったよ?
浅葱の円周率を聞いていたやつの顔は引きつっていた。
浅葱は戎に褒められたことが嬉しいのか、満面の笑みを浮かべる。
「そうだろ!僕円周率だけは自信あるんだよね、また今度聞かせてあげるよ!」
あー、戎やっちゃったなー。もう終わりだ。今度聞かせてくれるとか、一番最悪な展開来たよ。
ドンマイ、戎。
「うっ、ぅ、あ、ああ、ありがとな浅葱……」
やめてやってくれ、浅葱。もう戎が自殺するよ……。
皆はあまりの気まずさに、席に座っていった。
俺も浅葱も、戎も。
俺はどうしても気になることを浅葱に聞いた。
「あ、浅葱。」
「ん?君は、品田君だね。覚えてるよ。」
あ、ああ、ありがとう。覚えてくれるって最高だな……。
「浅葱はなんでそんなにすごいんだ?」
色々聞きたいことをあわせ、「すごい」が完成した。これが究極の言葉。
「ああ、僕結構昔に転生の呪いを受けちゃってね、」
転生の呪い?
浅葱は語りだす。
「もういつだか覚えてないや。普通に5000不可説不可説年くらいは前なんじゃないかな?」
「え、それってもう地球誕生してないんじゃ……。」
「そうだよ、地球が誕生する前、君たちがわかるように言うと、異世界かな?かなり前の話だよ。魔法や剣といったファンタジー世界もあったよ。色々な世界を巡ってきたね。」
いや、こいつが言うと本当みたいじゃねぇか。普通にやばい。
「そんときの記憶ってあるの?」
「まあ、所々だね。大体忘れちゃった。」
「おおう、」
なんか、返しにくいな。次元が違うもん。5000不可説不可説年生きたやつが俺の横にいるんだよ?やばくね?俺ここにいて良いのかな。
「そういえば、生きている時間によって、感じる時間が違うって聞いたことがあるんだけど。」
皆知ってるかな、生きている時間によって体感時間が違うの。人生の半分の体感時間は20歳前後なんだって。じゃあ浅葱はどうなるの?
「あー、どうだろうね。ジャネーが言ってたやつだよね。」
いや、ジャネーって誰だよ。ジャネーの法則とか聞いたことあるけど。
「そ、そうだよ。」
「懐かしいなぁ。ジャネーは覚えてたのか。まあかなり世話になったしなー。」
いや、俺の質問に答えてくれるかな?ジャネーとか知らないし。
「で、体感時間だよね。」
「そうそう。」
よしきた。
「んー、言えば、一日一分とか?わからないよ、結構適当だし。」
一日一分て、やべーな。そんなもんなのかな?じゃあ俺の名前忘れるのもしゃあねえわ。
「そ、そうなんだ……。趣味は何なの?」
「趣味は円周率の計算だよ。あれ楽しいよね。規則性があまりなく、永遠に続くらしいし。」
だからか。納得。
「じゃあ、授業中も円周率計算してるの?」
「そうだよ、なんか計算するのが癖になっちゃって、時間があればずっと計算してるね。」
頭の中で円周率計算はすごいな。もう、2不可説不可説転桁も覚えちゃってるしな。
「それいつからしだしたの?」
「んー、4000不可説不可説年前くらいかな。もうそんとき精神崩壊してたし。円周率を計算するのが精神安定剤だな。」
もう麻薬なくして、みんなで円周率計算しよ。そのほうが楽しいわ。なにがいいのかわかんなくなってきたわ。
キーンコーンカーンコーンとチャイムが鳴る。
いつの間にか10分が経っていたらしい。
「じゃ、じゃあ。浅葱。」
「うん、楽しかったよ、品田君。」
浅葱に名前を覚えてくれるのがどのくらいいいのかわかったわ。
授業が始まる挨拶が終わると、浅葱はまたぼーっと天井の方を眺めだした。
こんなつまらない授業はほっといて円周率を計算しよう、とか考えてるのかな?まあこれが浅葱なのだ。
ほぼ一日で仕上げたので、あまり内容が凝ってありません。もし時間が空いたら、このシリーズ作ろうかなと思ってあります。
誤字報告やおかしなところがありましたら感想にて。円周率は数字何個か抜けてるんで気になさらず。
因みに、1不可説不可説転は10の約30潤乗です。(1無料対数は10の64乗)
えーと、この作品を最後まで読んでくれたあなた、ありがとうございます。
ここで宣伝なのですが、『私の好きな先輩は既に付き合っていて〜』という恋愛小説もお時間がありましたら、是非覗いてみてください。URL https://ncode.syosetu.com/n9067hj/ (短編です)