#000 Re:Start
『誰も私のことなんて、必要としていないの! だったらせめて、夢を見たいって思うくらいいいじゃない! わかってるわよ、こんなことしたって幸せになれないってことくらい! でも、私にはこれしかないの! 私のたった一つの居場所を、生きる意味を、奪わないで!』
『ダメだ。そんなことをしていたら、君はどんどん不幸になっていってしまう。僕は、君に幸せになって欲しいんだ』
『あなたが、どうやって私のことを幸せにできるの?! 私がほしいのはそんな言葉なんかじゃない! 何を言われたって、私には信じられない!』
学園祭の一幕、可哀想なお姫様の物語。
愛をもらえず、冷え固まってしまったお姫様の孤独を、心優しい青年が溶かしていく。ありきたりだけど、とても幸せなストーリーだ。
ダブル主演は、演劇部の二人。部活でやっているだけあって、さすがの演技力だ。観客も大勢入っている。主演の二人以外のクラスのみんなも、練習の時よりもずっといい演技をしてくれている。ここまで、完璧以上の出来栄えだ。
あとは…
「成瀬、そろそろ出番だぞ」
先生が、緊張で震える私の肩をポンと叩く。
ヒッ、と思わず声が漏れた。
「そんなに緊張するなって。練習通りにやれば大丈夫だから」
そう。あとは、私がちゃんと演技をすればいいだけ。
まだ出てきていない主要キャラクターは、私の役だけなのだ。
お姫様の、本当の心。孤独の檻に閉じ込められている、まだ素直だった頃の彼女の姿。それが、私の役だ。
あとは私がちゃんとやるだけ…。舞台が成功するかしないかは私しだい…。もし私が失敗してしまったら、舞台が全部台無しに…。もし、セリフを忘れてしまったら…。もし、舞台上で転んでしまったら…。もし…
「成瀬、そんな緊張すんなって。あれだけ練習しただろ? 成瀬が一番頑張ってたんだから、絶対うまくいく」
クラスメイトの大崎くんが、私のことを励ましてくれた。
「そうだよ、結。心配しなくても、結ならやれるって!」
「成瀬さんが一番練習してたの、みんな知ってるよ。もし失敗しても、怒る人なんていない。自信持って、最後までやりきってきて」
「そうそう! もし結になんかあっても、他のみんながカバーしてくれるって!」
「文化祭の演劇に、そんな震えるほど緊張する必要なんてないぞ。成功しても、失敗しても、みんなで笑っちまえば、明日にはただの思い出になってる」
「みんな…」
そうだ。私はもう、一人じゃない。
今までみたいな、一人ぼっちの私は、もういない。
正直まだ怖いし、震えるほど緊張するけど、でも、私ならやれる。
みんなが、背中を押してくれる。
「成瀬、出番だ」
すぅ、と大きくいきを吸い込む。
真っ白な衣装に身を包み、舞台袖から舞台の中央へ。会場全体の視線が、私に注がれる。
ああ、やっぱり怖いな…。
でも、何でだろう。とても、ワクワクする。
『私は…』
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