悪徳王子からの婚約破棄、こんなピンチに駆け付けてくれるヒーローなんているんですか? はい/YES
「メリッサ、お前とは婚約破棄する!」
王宮内のとある一室内にて、王子は堂々と宣言した。
「な、なぜですか……」
突然、呼び出されていきなりの婚約破棄。冷静でいられる淑女はこの世に存在しない。
この私の返答が気にいらなかったのか、王子はさらに厳かな顔をして言葉を告げる。
「『なぜ』だと? とぼけるなよ。お前が能力を偽って俺と結婚しようとしたせいじゃないか」
「そんなっ、私、嘘などついておりません!」
「覚えているか? お前はこう言ったんだぞ。『私は皆を豊かにすることができる』とな、じゃあ結果はどうだ。我々含めた国民全員、何も変わってない」
王子は強い口調で問い詰めるように、言葉を並べ立てる。
立会人の神官に助けを求めるように視線を促すが、目を合わせてはくれない。
この場に味方はいない。自分の立場を取り戻すには説明して納得してもらうしかない。私の公約は間違いでなかったと。
「お言葉ですが王子、私の公約は既に達成しています!」
話し合いの場をもう一度、頂ければ。
しかし、王子は私の声に聞く耳を持とうとはしていなかった。
「邪魔だ、追い出せ」
◇ ◇ ◇
家に帰され、私は暗い面持ちで慰めてくれる両親を期待した。でも、待っていたのは両親の皮を被った鬼だった。
いわれのない批難、貴族としての立場や地位のことばかりを話し、私の責任を大きくしようとする。まるで私たちは無実だから、許して欲しいと神に懇願するかのように。
滑稽だった。
だけど、こんな両親の姿を見て笑ってられるほど私は強い人間じゃない。
王子のことは好きじゃない、寧ろ嫌いだった。女たらしや金使いの荒さ、人の気持ちを考えない傲慢さ、これは国民にも知れ渡っている有名な話。でも婚約をすればその考えも少しは好意へと傾いてしまうのが人間の性。今になって結婚してもいい、とさえ思っていた。「悪徳王子」という異名があるのに、だ。
「……どうしてこうなったの」
私は玄関で膝から崩れ落ちた。
◇ ◇ ◇
気付いたら、自分の部屋のベッドの中にいた。
枕は少し湿っていて見繕いした服にも皺が出来ており、とても人前には出られない。
その時、ノックの音が聞こえた。
「誰!」
「私でございます。お嬢様」
「じいや……、入っていいわ」
慰めにもでも来たのだろう、その優しさに少し甘えたいと思って私は許可を出す。
ベッドから這い出て、軋んだ音と共に開くドアを虚ろな目で見守る。
この時、私の頭の中にふと、お屋敷からの追放を言い出されるのではないのかと不安が過る。
まさかね、そんなひどいことをお母様とお父様がするはずないわよね。
「初めまして、メリッサ嬢」
え、と顔を上げるとそこにいたのは金髪の男。スタイルはよく、私と同じくらいの年齢に思える。
「隣国に住む、ヴァンと申します。この度、僭越ながらご挨拶に参りました」
「い、いえ、そのようなことは……決してありませんわ」
私は知っている。このお方の正体を。
このお方はヴァン=エウドレッド、この国からさほど遠くない国の王太子。いわば、将来に王様になるであろう人。
なぜこのようなお方が私などのところに。
……ま、まさか王子が怒って私に刺客を仕向けた、とか。うんうん、さすがにそれは飛躍しすぎよね。
「貿易交渉をしに来た途中、気になる噂を耳にしたもので。なにやら王子に嘘を吐き、結婚を狙った貴族がいるとか」
や、やっぱり……間違いないわ。
王子は私を隣国に追放するということ、それも多分噂の人身売買とやらで。
処刑よりはマシかしら、と思っているとヴァン様はふっと微笑んだ。
「どうだろう、メリッサ嬢。もしよろしければ僕と結婚してはくれませんか?」
「はい?」
今、なんて言ったのでしょうか。
結婚、という単語が聞こえてきたような気がしましたが。
「聞こえませんでしたか? もう一度言います。メリッサ嬢、僕と結婚してください」
「本気ですか? 私は王子に嘘を――」
「ついてないんでしょ? あなたはあなたにとって当たり前を話した。それが相手に伝わらなかっただけです」
この国の王子をバカにするような言葉。
普通なら私はここでムカつくべきなのでしょうが、それとは真逆の感情を抱いています。
それはどうしてか、そんなの自分の中でとっくに答えは出ていました。
「嘘はついてないです!」
嘘はついてない、これは間違ってないのだから恥じる必要などない。
満足したようにヴァン様は大きくゆっくりと相槌をした後に、声を張って提案する。
「そうですね、僕と結婚する前に一つゲームをしましょう」
「ゲーム、ですか……」
「互いに互いを信じあうゲームです」
私の心を見透かしたようなゲーム。
今、このお方の言葉を半分も信じきれていなかった。
そうでしょ? もしヴァン様とこのまま結婚したとして私が無事でいられる保証はどこにあるのでしょう、今日のようにつまらない余興を披露されるかもしれない。また利用されるだけの人生はゴメンだ。
冷え切ったこの心をあなたは埋めてくれるのでしょうか。
ヴァン様は悪戯な笑みを浮かべた後、饒舌に喋る。
「ゲーム内容は簡単です。僕はあなたのその力を信じます。だからあなたも僕の今から言う予言を信じてください」
胡散臭い話、渋い表情で返答する私は続きを促す。
「どのような予言を?」
「あなたがこの国を亡命した一週間以内に、この国は崩壊します」
「……っ!?」
「一週間、僕に時間を預けるのは不安でしょう。ですので僕の国でそこにいるメリッサ嬢の執事と一緒に過ごしてください」
ヴァン様の指差す先にいたのは、全ての支度を整えた執事の姿。
「まさか、彼……」
私の思考が追い付く暇を与えず、彼は一方的に言葉を告げた。
「では、一週間後にまた会いましょう」
片膝をつき、私の手の甲に優しく口づけをし、華麗に立ち去る姿は童話に出てくるような王子そのものだった。
◇ ◇ ◇
王宮に呼ばれた私は、ヴァン様と一週間ぶりの再会を果たした。
「どうかな、僕らの国は」
自信に満ち満ちた表情で問いかけてきた。
その期待を少し裏切ってみたい、なんて遊び心も出てくる程に私のメンタルは回復していた。
「凄くいい国です、皆さま優しく接してくださり随分と気分も晴れやかになりました」
「そう、それはよかった。早速だけど、国に帰ろうか」
「え……?」
「ははっ、そんなに僕の国は居心地が良かったかい? 安心して欲しい、メリッサ嬢。あなたを向こうの国に返すわけじゃない。一週間前にしたゲームの答え合わせをするんだ」
ホッと胸を撫で下ろす自分がいた。この国で生活する自分、元の国で生活する自分、どちらが幸せなのかすぐに答えが出てしまう現状に怖くもなる。
「さあ、行こうか。メリッサ嬢」
差し出された手を掴み、私は元いた国へと戻る。
◇ ◇ ◇
馬車の中、ヴァン様は絶え間なく喋りかけて気を遣ってくれていた。
少しずつ元の国へ戻ることに不安を感じているのを、察してくれたのだろう。
心も落ち着いてきた時、私から話しかけてみた。
「なぜ私に能力があると思ったのですか?」
私は私に能力があることを知っている。でもそれを人に伝える手段がない、なぜなら私の能力は誰が使っているか証明することができないから。
それこそ今も能力を使ってる。でもそれを証明することはできない。
ヴァン様は優しく頷きながら、遠い目をして外の景色に目を向けた。
「小さい頃、母様に聞かされた一つの伝承を思い出したんだ。その国はすごく裕福で他の国からも羨ましがられていた、でもそれは一人の女神による力によるものだった。
ある時、その女神が人々によって迫害を受けてしまい、女神は死んでしまった。結局、その力の恩恵を受けていた国民は元の豊かな生活を抜け出せずに破滅してしまう話さ」
「そ、それだと私に能力があるということは……」
「だからゲームを持ちかけた、互いに信じるゲームを。君は言ったじゃないか「嘘はついてない」と。その言葉をまず僕が信じたんだ」
決して確証があるわけじゃない、でも信じるってそういうことでしょ。
ぽろぽろと涙が零れてきた、これはどうして……。
これだけはわかる。悲しくて出た涙じゃない。
一つ鼻をすすって涙をドレスの袖で拭った、そして鼻声になりながら言った。
「私もヴァン様を信じます」
国は見事に崩壊していた。
私がいなくなった後、人々の生活全てが大きく変わってしまった。そう何もかもが、まず衣食住のどれかが欠け、次に二つ目、三つ目と瓦解していく。
結果、国民は全ての責任は国王へ押し付ける。だが、国王は内乱を恐れて逃亡。国王代理を王子が務めたが、革命が起こってしまった。
革命が起きた日、それは私がこの国から去ってから丁度、一週間の今日のこと。
読んでいただきありがとうございます。
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今回の短編では、中盤にメリッサの隣国での一週間と元いた国の崩壊していく様を記述する予定でしたが、ストーリーバランスを考えた時にカットさせていただきました。要望があれば、付け足したいと思っています。
それからメリッサの能力ですが、敢えて描写なかったです。上記と同じタイミングでこちらも深堀したいなと思ってます。




