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エスパー園児

作者: 丸子稔

  ぼくの名前は丸小たかし。


 ぼくの通っている幼稚園には、とてもかわいくてやさしい女の子がいる。


 名前は宮永えみり。


 周りの男子たちは、みんな彼女のことが好きで、もちろんぼくもその一人だ。


 入園早々、えみりちゃんのことを好きになったぼくは、彼女が一体だれのことを好きなのか、気になって仕方なかった。


 お遊戯中も昼食時も、とにかく幼稚園内にいる時は、常に彼女のことを監視し、他の男子とちょっとでも話をしようものなら、すぐに飛んでいって、その輪に加わろうとした。


 彼女が他の男子に見せる笑顔を、おとなしく観てはいられなかった。


 ぼくの頭の中は、ほぼ彼女のことで埋め尽くされていた。


 そんな悶々《もんもん》とした日々を過ごしているうち、あっという間に今年も終わろうとしていた。


 一年の締めくくりに、大晦日の夜、家族と神社に訪れたぼくは、このやるせない気持ちを神様にぶつけた。


──神様。このままでは、ぼくはダメになってしまいます。そこで、一つお願いがあります。えみりちゃんがぼくのことをどう思っているのか知りたいので、彼女の心を読める超能力を授けてください。




 冬休み明け、久しぶりに幼稚園に行くと、ぼくは自分の中に超能力が備わっているかどうかを確かめるため、そっとえみりちゃんに近づいてみた。


 そしたら……


「あっ、たかし君。久しぶりー。わたしに何か用?」(うわー! たかしが近づいてきたー! 超キモーい)


「……ううん。別に用はないんだ。ただ、新年のあいさつがまだだったから、それをしようと思って……」


「あっ、そうなんだ。じゃあ、あけましておめでとうございます」(あいさつなんてどうでもいいから、早くあっちに行ってよ)


「あけましておめでとうございます」(そんなに嫌わなくてもいいじゃないか。ぼくが君に何か悪いことでもした?)


「えーと、これでもう用は済んだかな。じゃあ、わたしはあっちに行くから」(いつまでもこいつと一緒にいて、他の男子に勘違いされてもいけないから、早く離れた方がいいわ)


「ちょっと待ってよ。そんなに急がなくてもいいじゃん」(こうなったら、もうやけくそだ。とことん嫌われてやろうじゃないか)


「もう用は済んだんでしょ? だったらもういいじゃない」(ほんと鈍い男ね。わたしはあんたのことが嫌いなのよ。そのくらい、この態度見てて気付かないの?)


「実はもう一つ用があったんだ。今度の日曜日に、近所のスケート場でアイスショーをやるんだけど、それにプロスケーターの浅○姉妹や織○選手が出るんだ。有名人だから、えみりちゃんも知ってるだろ? そのチケットが二枚あるから、良かったら一緒に行かない?」


「あー。わたし、スケートとかあまり興味ないから、別にいいや」(スケートもそうだけど、わたしはあんたにまったく興味がないのよ。さっさとわたしの前から消えてよ)


「えー! せっかく有名人を近くで見られるチャンスなのに、もったいないじゃないか」(そう簡単には消えないよ。こうなったら、君がOKするまでとことん粘ってやる)


「さっきも言ったけど、わたしはスケートに興味がないのよ。だから、どんな有名人が来たとしても、わたしには関係ないの」(もー。ほんとバカな男ね。だから嫌いなのよ)


「でも、有名人を近くで見られるなんて、この先もうないかもしれないよ」(バカで悪かったな。それで君に何か迷惑かけたか?)


「たとえそうだとしても、わたしは後悔しないから気にしないで」(……ああ。こいつが近づいてきたのを見て、つい反射的に声を掛けちゃったけど、やっぱり失敗だったわ。気付かないふりして、どこかに行けばよかった)


「いや、たとえ今はそう思ったとしても、将来絶対後悔することになるから、見に行った方がいいよ」(たとえ気付かないふりしてどこかに行ってたとしても、ぼくがとことん追い掛けて君に話し掛けてたから、結果は同じなんだけどね)


「わたしは絶対に後悔なんかしません! それじゃ、さよなら」


 えみりちゃんは最後半ギレになって、僕の前から消えていった。




 その後もぼくは、あらゆる方法を使って、えみりちゃんにアタックし続けた。


 嫌われてるのを知りながらそうするのは、精神的にかなりきつかった。


 それでも、えみりちゃんの心変わりを信じて、ぼくなりに全力を尽くしたが、彼女の気持ちが変わることはなかった。


 そんな日々を一年続けるうちに、ぼくはもう精根尽き果ててしまった。


 大晦日に家族と神社に出掛ける時は、ぼくは神様にこうお願いするつもりだ。


──神様。もう好きな子の心の中を読むのはころごりなので、どうかぼくを普通の幼稚園児に戻してください。



 




 

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