第3話 キサラの家族
第3話 キサラの家族
「お嬢様、ここにいらっしゃったのですか」
「あ、ミリア姉さん」
「ふふ、メイドに姉さんと呼ぶのはお嬢さまあまりよくありませんわよ」
とある巨大な白亜の城の中庭に紅いドレスを纏い夜空のような黒い長髪の優しい微笑みを浮かべた黒目の人形のような完成された美しさを持った一人の少女…、大魔王ベルセルク=ワーグナーの愛娘キサラ=ワーグナーとその従者であり大魔王ベルセルクの右腕とも目される長身の金髪の美女メイドミリア=サクリファイスがクスクスと笑いあっていた。
ミリアの瞳は紅く光どこか艶めいた雰囲気を持ち慈愛に満ちたものである、それというのはキサラがこの城にやってきた時に年が近い者の方が情操教育に良いだろうという事で当時五歳であったミリアを姉代わりとして担当させてからこれまで姉妹のように過ごしているのである。
「父さんから何かあるのかしら?」
「いつもの一言ではないから安心なさってくださいな」
「ひどいわ、ミリア姉さん、私がいつも言う事聞かないみたいじゃない」
「ふふ、ベルセルク様も心配なんですよ」
「本当に大陸を救った英雄だというのに」
「娘には弱いものですよ」
父の冒険譚を聞きながら育った身としてはキサラは過保護な父から卒業してほしいと思っているのである。
「…16歳になったなあ、月日は早いものだね」
かつてキサラを迎え入れた時と変わらない美しいままの男はため息をつく。
「キサラはほんに才能豊かで爺も嬉しいわなあ」
目の前にいるのは白髪に白い髭をこさえた黒いローブを纏ってキセルをふかす、好好爺。
「シゼル、うちの娘は君にとっての孫みたいなもんだろう?」
「そりゃそうさ、眼に入れても痛くないしそこらのぼんくらな男共にも渡したくないくらいにわなあ」
「なら…」
「そいつはだめだぜ、ベルセルク、ジルオール共約束しただろう?あの子は強大すぎる力を持ってるが、花よ蝶よと愛でるだけではもったいない、世界を知らなければ」
「そうだね…娘には世界を見せてあげなきゃね、何、彼女ほどの力があるならすぐ会えるさ、父としてはもう少し側に置いておきたかったけどね」
ベルセルクは苦笑する
名もなき白亜の城
玉座
大魔王と称され遥か昔に恩賞として譲り受けた巨大な城の玉座に微笑みながら座る一人の黒髪の男、ベルセルク=ワーグナー、その身はすでに生命という概念から解き放たれ、不老不死となっている。彼の年齢を知る者はおらずまた彼の深奥を知る者はいない。そんな彼にも一番の存在は確かにあって…。
「父さん、今日は何かしら?ああ、キングゴブリンのジョセフとキングオークのグリンは怒らないであげて、近所の村の子達にちょっかいかけた悪い子がいたからお仕置きしただけだから」
「ああ、ジョセフとグリンからは事情聴いているし、大丈夫だよ、近所の村ってクロウ村かな?あそこは引退した勇者がいたはずだけど?」
「ロックお爺様なら、御高齢で体がついていけなくなってたから仕方ないわ、相手は堕ちた神龍だもの」
「最近闇堕ちする子が増えたね、素材はどうしたの?」
「ストックあったから冒険者ギルドの方に全部あげたわ」
「キサラは生産もなんでもできちゃうからね」
常識を知るものならば驚愕という顔で見るような会話をこの父子は話をしているが、なんだかんだいつもの家族風景ではあるという事を伝えておこう。
「さて、これから本題なのだが」
「うん、何かしら、とても気落ちしてるわね」
「ジルオールとシゼルと約束してた事があってね」
「ジルオール母さんとシゼルお爺さんから?」
「そうだね、母代わりの彼女と祖父代わりの彼とだ」
ベルセルクは本当に寂しそうな顔をしながら
「…キサラ、外の世界に興味あるよね?」
キサラ自室
綺麗に整理された本棚と天蓋つきのベットに白い木目調の机と椅子、そんなシンプルで広い自室がキサラの自室だった。その中でキサラはにんまりと嬉しそうに笑っている。
「んだあ、キサラご機嫌じゃねえか」
金髪の髪をオールバックにして現代風の黒いジャケットにレザージーンズを纏い肉食獣を思わせる紅い眼の2メートルを越すような巨大な男がニタニタ笑いながらキサラに声をかける。
「ブライト兄さん、そりゃそうよ!ようやく外にいけるのよ!勿論この場所もすごい大好きだし、楽しいけれど、やっぱり世界見てみたいじゃない!お友達つくっておいしい御飯や旅をして!いっぱい知りたいわ!」
「…今の世の中、なかなか面倒くせえもんにもなってるけどなあ」
「?」
「なんもねえよ、お前の力は全てを超越できるもんてのはわかってる、何でも解決できちまうだろうからなあ、ベルセルクの旦那も力に関しては心配してねえだろう」
ブライトと呼ばれた男はため息をつくと
「…大魔王は常識は網羅してるが大概常識がずれてる事が多い、母上も早めに気づけばよかったんだがな」
そう言うと世界最強の竜の第一子ブライト=ドラゴニックはため息をついた。
大魔王ベルセルク=ワーグナーの常識とは桁外れを意味する。
例えばゴブリンに村が襲われたとする。ちなみにこの世界のゴブリンは大の大人が民間人でも一人でなんとか相手どれるものなのだが、ベルセルクはそれにも全力を出す。数字なら10の防御力を持つ相手に9999999万ダメージを与えるくらいの非常識を常識として持っている、しかも民間人に傷を一つつけずにだ、あらゆるレベルの概念を外し、あらゆる恐怖と尊敬を浴びる大魔王[善魔の化身]ベルセルク=ワーグナーはそのような男なのだ。
「…当然、娘であるお前にも父親の常識は受け継がれているからな」
「父さんほどじゃないわ」
「スライム護るために最上級悪魔10体を殲滅したのは誰だろうな」
「いいじゃない、可愛い子護るためなら」
「…心配だから俺も旅に同行する」
「それなら心強いわ!ブライト兄さんとジル兄さんは冒険者してるものね!」
「ジルも連れてくか、まあ名前出してる時点で連れてく予定だったんだろうがな」
ブライトはため息を付きながらもう一人のキサラが兄と慕う弟に声をかける事にするのだった。
「はあ、お父さん、キサラの事心配だよお」
玉座の上で半泣き状態のベルセルクに
「ベルセルクさん、大丈夫さ、キサラなら立派なレディとして素敵な女の子になるさ」
長い金髪を後ろに束ねたブライトに良く似た眼鏡をかけた赤い眼の白衣に白いシャツとデニムジーンズを纏った優しい雰囲気の青年、ジルオールの第二子ジル=ドラゴニックはにこやかに微笑みながら言い返した。
「…それに可愛い妹に邪魔な虫は僕らが近づけさせないしね」
どこか邪悪な笑みを浮かべながらにこやかに呟いた。